前座悪魔と本命悪魔

 


「凄いなこれは」


 まさしく死屍累々だ。


 基本的に死体の山と、壊れた建物。でも、結構悪魔の死体が存在するところを見ると、トール村の人間は善戦したのだろう。


 流石人類最強の一族だ。どれだけ強くても所詮は人間族のはずなのに。


「行っておいで」


「にゃあ」


 少し前に契約した猫に村の中を捜索させる。


 カラスでは火柱の中には入れなかったから、内部の状況がいまいち分かっていないのだ。


 ぼくは契約した動物をアイテムで呼び出すことによって古臭い言い方でいうと、使い魔のように利用しているのである。


 その種類は様々で、普通の生物から魔物まで幅広い。


「にゃあ?」


 だが、どうやら探すまでもなく、悪魔は村の中心に揃っているようだ。


 猫が自分を呼ぶ必要なかっただろう、この程度のことで呼ぶなと言いたそうな顔しているのでとっとと返してしまう。ペットごときがなんて顔をするんだ。


 さて、悪魔が二人と、生き残りの子供が二十人ほど。瓦礫ばかりの村なので姿をちゃんと隠さないとあっさりと敵からぼくの姿が見えてしまう。


 今の状況は、ぼくにとっての足手まといもいないし、生存者も少ない。


 敵も少ないし、こっちの存在はバレてもいない。


 どうしたものだろうか?


「殺すか」


 それが一番楽で、簡単に話が終わるだろう。


 頷き、方針を決めようとした瞬間に声が聞こえた。


 子供たちの叫び声と、悪魔の笑い声。


 ぼくは悪魔の姿を初めて見たが、どう見ても人間そのものだ。


 そういえば昔読んだ本に姿を変える魔法が存在した。それをおそらくは使っているのだろうか?


 何故、彼らが人間ではなく悪魔だと確信できるのかと言うと、王都で報告を受けた時から敵が他種族だとわかっていたので、人間以外の生物の正体を見破るアイテムをちゃんと持ってきてあるのだ。


 そんなふうに、色々と考えていると調子に乗った悪魔たちの会話も聞こえる。


「人間とは言え、これだけ強い奴らを食えばおれたちはさらに強くなれるだろう。子供たちの使い道を悩む必要はないな」


 どう見ても十代の少年にしか見えない悪魔が一人。


「ああ。半分ずつにしよう。くそっ!あの隻眼の剣士に斬られた左腕が痛む。八つ裂きにしてやったから気は晴れたが、おれたち悪魔族は回復系魔法が苦手だから再生もできん。食事でなんとかなればいいが」


 こっちもほぼ同じだが右腕と翼がない。


「そうだな。体外から得た膨大な魔力で本来使えない魔法を使うことも可能だと聞いたこともあるが、それでも難しいだろうな。今のお前には翼もない。だが、どっちにしろ他種族に協力させるのは恥だぞ。上役に知られたら恥知らずだと一族を追放されてもおかしくない。おとなしく何らかのアイテムを見つけたほうがいいだろうな。まあいい、とっとと食おう」


「いいのか?エレフの分はどうする?」


「あいつは子供になど興味はないだろう。自分の力で強くなることにしか興味がないからな。好きにしろとも言っていただろう」


「そうだな」


 片腕の悪魔の方が一人の子供の腕を掴み。殺そうとしたので、残念ながら奇襲をする隙はないと判断し、とりあえず声をかけることにする。


「ああ、ちょっと待ってくれ」


「誰だ!」


 姿を現し堂々と声をかけたので、二人の悪魔がぼくを睨みつける。


「その子たちを殺されると困るんだ。助けてあげてほしい」


「お前はなんだ?匂いも気配も感じなかったぞ?誰だと聞いている!」


「メテオ国の第十皇子、クルギスと言う。国王の命令でね。その子たちを助けなければならないんだ」


「そうかい。断る!」


 片方の悪魔が空に飛びあがり、致命的な威力の一撃の魔法をぼくに撃つ。


 その魔法は光の魔法であまりにもスピードが早すぎたので、悪魔たちを殺す気はなかったが常駐させている魔法反射のアイテムが発動し、あっさりと殺してしまった。


 悪魔たちは空に飛んでいたので、反射した魔法で子供たちに被害が出なかったのは幸いだった。


「悪いな、今のは正当防衛だ」


「反射」のアイテムは使い捨てなので、発動した瞬間に壊れた。直ぐに新しいものを発動させる。


 だが、片腕の悪魔の様子にこっちが驚愕する。序列最下位の、たかが人間ごときにこれだけ怯えるなどとても有り得ないことなのに。


 こっそりと話を聞いた限り、片腕と翼を人間に斬られたらしいから、余程それがトラウマになっているのだろうか?


 都合がいいので、その部分に付け込むことにしよう。


 理解不能な力に怯えるもう一人の悪魔に提案する。


「どうだろう。君が望むものを出来る範囲で交換に渡すよ。その子たちを助けてあげてほしい」


「何故人間が悪魔と交渉をする。理屈はわからないがそれだけ圧倒的な力を持っていれば、おれなんて簡単に殺せるだろう」


「争いは嫌いなんだ」


 真っ赤な嘘だ。理由は二つ。


 一つ目は戦ってしまうと子供たちを巻き添えにしてしまう可能性が高い。


 二つ目はこの場にいない、もう一人の悪魔はとても強いからだ。ほら、今にも帰ってきそうだ。


「面白い」


 やばすぎるのが帰ってきた。あれは、おそらく「奇跡の子」だろうな。

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