無謀な戦い

 


「ひゃあ、今の一撃で何十人死んだかな?」


 今の攻撃により、戦場から離脱した兵は約六百人。


 敵が登場したときに放った火炎魔法でおそらく百人ぐらいは死んだかな?この悪魔の登場は、実に派手な現れ方で気持ちいいぐらいだ。


 この威力でアイテムを使っていないという現実が恐ろしい。


 アイテムが衰退した人間とは違って他の種族はがんがんに魔法を使うのである、それもアイテムと同じかそれ以上の強さで。


 序列最下位の人間と違って他種族は魔法の才能も魔力量も桁違いだ。


 それだけの能力があれば人間のように魔法を捨ててアイテムだけで生きる必要はなく、しっかりと両立が出来ているに違いないだろう。やはり、人間とは違うかな?


「ははははは!あいさつ代わりの一撃でたくさん死んだな!人間は脆くて仕方ない」


 ぼくは特に急ぐことはなく、ただぼんやりと村に向かって歩いているのに、騒がしい大声が耳に入ってくる。丁度いい音楽代わりと情報収集だ。


 一応は味方側の兵士たちの悲鳴を聞いても特に嬉しくはないのだが、あまりにも静かだと落ち着かないし、出会ったことがない悪魔との情報は全くないので、出来るのなら少しでも多く集めるに越したことはないな。


「おい、頭はどいつだ?名乗ってみよ!」


 一瞬、返事をしようか悩む。


 この場の全ての人間に対し、偉そうに悪魔が叫んでいるが、独断行動をしている彼らの頭はぼくではないので、特に返事はしない。


「愚劣な悪魔が!我こそが第六王子直属の将軍、アーレスだ!」


 だが、ぼくではない人間から、返事があった。


 それは勇気を出して声を張り上げる将軍の一人。初めて名前と所属を聞いたが割と立派なものだった。


 悪魔を目にしただけでも、普通の人間なら戦意を喪失するか、最悪ショック死してもそこまで不思議には思わないくらいなのに。


 目立つように大声で返事が出来るなんて、それだけで確かに一般兵とは少し違った。


 さぞかし自己顕示欲と出世欲が大きいのだろう。人間の欲望はある程度ではあるが、実力差や恐怖を覆い隠してしまうからな。


 彼のプライドは、自分の命を容易く捨てることが出来る程らしい。


「将軍だと?ふん、下っ端ということか?王や、皇子はどうした?」


 悪魔は不機嫌そうにそう言った。具体的に誰かを狙っている訳ではないようだが、少なくとも、この場で言うと悪魔の狙いはぼくらしい。


「皇子だと?奴なら貴様たちに怯えておるわ!勇気ある我こそが貴様を倒して見せる!」


 いつの間にかぼくが怯えていることになっている。


 ぼくは自分の部下の命を無駄に散らしたくないだけなのだが。

 部下の命は出来るだけ効率的に使いたいからな。


「ほう」


 だが、将軍の言葉を聞き、悪魔の声の感じが変わった。それは警戒するような、冷静な声だ。


 それだけで彼はおそらく、悪魔の中でも上位の実力を持っているのではないかと想像できてしまうほどに。


 普通は、序列が下の種族。


 それも最下位の人間ごときに警戒などするはずがないのに、この悪魔ははっきりと警戒心を持っている。


 まずいな。おそらくこの悪魔は危険度が桁違いだろう。


 どんな種族、どんな生物だろうとも、強さと臆病さを併せ持つ奴は強敵だ。


「その怯えている奴は見所があるな。他種族の情報が途絶えた今の世の中でも、我ら悪魔を恐れるだけの知恵を持っているということだからな。……いいだろう。そいつを連れてくれば貴様らを楽に殺してやろう」


「ふざけるな!」


 将軍の怒りの声と共に戦が始まった音がする。


 まあ、戦といっても虐殺だ。勝ち目なんて一切ないからな。


 ほとんど一瞬にして、約六百人の兵たちはさっきより何倍も魔力がこもった魔法の一撃で皆殺しにあってしまった。


 まあ、当然だろう。このぐらいの実力差は当たり前にあって、そんなことを理解できない将軍たちが無能だったのだ。


 まあ、残念ながら一般兵たちにも責任はある。


 どれだけ将軍が怖かったかは知らないが、このおつかいのトップがぼくであるということは、全員理解しているはずなのに頂点であるぼくではなく、たかが将軍に従っていたのが間違いだ。


 命令違反した将軍たちは、堂々とぼくに逆らって戦いに行くと言っているのだから。


 明らかにぼくに逆らっている命令だと知っておきながら、それでも従ってしまうような無能な兵士ならやっぱりぼくが惜しむような命ではないな。


 その瞬間から、兵たちの上司はぼくではないのだから責任を取るのは当然将軍たちだろうし。


 一兵卒は無能なのは仕方がない。


 だが、誰についていくべきかということを、本能で理解できないというのならそれは無能ではなく、有害と言うべきだろう。


 それは決して仕方ないでは済まされない、命をもって償う必要のある大罪になってしまったのだ。


「ふん、つまらん。しかし姿を隠している皇子とやらには興味がある。少しばかり探してみるか。トール村の人間どももほとんどを皆殺しにして、あとは子供たちの処遇を決めるだけだからな。おそらくは食料になるだけだろうが、そんなつまらない場面に遭遇するのは気分が悪い。弱者が死ぬところを見ても面白くもなんともない」


 どうやらこの悪魔というのは相当に智慧が回るようだし、そこそこ、まともな感性も伺えるな。


 まあ、あの個体だけかもしれないが。


 そんなことを思っていると、ぼくも火柱の前に着いた。今までの熱さは耐性のある服でなんとかなっていたが、それでも火柱に直接触るのは無理だろう。


 ポケットに入れていた「火消しの氷」と「時間の種」を取り出し、同時に火柱に向けて投げた。


「どっちもファースト以下だけど、問題はないだろう」


「火消しの氷」により一瞬だけ火柱が凍り、その状態を三秒だけ「時間の種」で止めた。そして「飛ばしの靴」で一瞬だけ超加速をし、火柱を抜けた。


「やっぱり、頭も道具も使い方だな。値段で言えばこの三つを使っても所詮は昼食程度だからな」 


 うんうんと頷きながら中を見る。

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