悪魔族の奇跡の子と
この世の頂点と呼ばれる存在を奇跡の子と呼ぶ。全ての種族から生まれることがあり、あらゆることに才能を持ち、同類に出会わなければ生涯無敗でいられるだろう。
その数は一種族に数人しか存在しない世界に愛された存在だ。つまり……。
★
本気で戦えば勝てるだろう。
だが、悪魔との戦いを想定して持ってきたアイテムはこの悪魔が相手だと数段堕ちる。
持っている全てのアイテムを使い捨てにして、子供を救わなくて、土地に被害を出せるのなら勝てる。
だが、それでは勝利に見合った褒章にはならないだろう。そのぐらいこの悪魔の常識を超えた強さを持っているのがよくわかる。
「我は悪魔族、名をエレフと言う。小僧。名は?」
「クルギスだ」
「そうか、ではクルギスよ。その「切実の水晶」を寄越せ。そうすれば子供の命などくれてやる」
「「切実の水晶」?」
聞いたこともない名前だ。ぼくはそんなものを持っているのだろうか。
「そうだ。まさか知らないのか?お前の懐の青い水晶のことだ」
それは、……賢者に貰った奴か。だが。
「確かに名前は知らなかったけど、この石ころには何の価値もないと聞いているんだけど?」
「そうだな。確かに何の価値もないものだ。誰に売ったところで二束三文だろう。だが、それでもおれには価値があるのだ」
よくわからないことを言っているが、少なくても嘘を言っている顔ではない。ならばくれてやってもいいのだが。くれてやってもいいのだが。
「……」
これは、賢者に貰ったものなのだ。何の価値もないが、別にいらないが、それでも。
「まあいいか。ほら、やるよ」
石を放り投げる。
「ほう、いいのか?逡巡していたように見えたが?」
「ああ。感情と任務では比べるべくもないものだ」
それが事実だ。
割り切れないものが多少あったとしても、任務が最優先だ。さっきまでならともかく、この悪魔がいる以上、力づくでは子供たちの身の安全は保障できないのだから。
「悪いな、おれは納得できない」
ぼくとエレフの話が穏便に終わりそうだったのに。
片腕の悪魔が、いつの間にかぼくの背後に移動して、ぼくの首元に切れ味の鋭そうな爪を突きつけている。
「確かにこの村には力試しに来たが、これだけの手傷を負わされて手ぶらでは帰りたくない」
「つまり、おれに逆らうと?」
エレフが面白そうに片腕の悪魔に尋ねる。
力試しに来た悪魔なら、戦う相手は同族でもかまわないのだろうか。
「いや、あんたに逆らって生きることができるだなんて思わない。あんたが保証したのはこの村の子供の命だけだろう?なら、このガキの命は保証の外だ。こいつを栄養にして体の回復を図ることにする。得体が知れない、あんたが一目置くほどのガキだ。高い栄養が取れそうだからな」
「なるほどな」
「はあ、一人の時にはあれだけ怯えていたのに、味方がいるとこれだけ強気になるとは」
ぼくはため息をつきながら冷静な評価を下す。これから先の展開が読めてしまって面白みがない。
「何とでも言え。お前が何者であれ、我ら悪魔の奇跡の子がいれば負けることはないのだ」
片腕の悪魔は言いたいことを言うと、ぼくの首に牙を突き立て、血を。
「ぐあああああああ!!焼ける、体が焼ける、おれが消滅する!があああああああ!」
ああ、可哀そうに。
ぼくにも理屈はさっぱりわからないのだが、ぼくの体の一部を摂取した全ての生物は、エネルギーの過剰摂取で即死する。もちろん少量では大丈夫だが、一定値を超えるとだめだ。
どうせ、あの賢者がぼくの体になにかをしたのだろうな。
片腕の悪魔は叫びながら体を灰にしてこの世から消えた。だが、これではまるで。
「ふん、死んだか。理由はわからないが、分不相応な夢を見た末路だな。こいつは悪魔族と吸血鬼族のハーフでな。悪魔族にはない吸血能力や、臆病さなども持ち合わせていた。悪魔並みの強い欲望もな。おれはそういう部分を買っていたのだが、残念ながら裏目に出たらしい。今、一番必要だった再生能力は持ち合わせていなかったしな。つくづく才能と欲しいものがかみ合わない男だったようだ」
やっぱり吸血鬼の血が入っていたか。エレフは一瞬だけ、悼むような眼をした後に話を続けた。
「だが、どうしたものかな。ハーフとはいえ目の前で仲間が殺された以上、何もしないのも仁義にもとるだろうこれでもおれは仲間思いのつもりだしな」
「それで?」
「こうしよう。お前が強い大人になったらおれが殺す。その予約をさせてもらうことにする」
「どうやって予約なんてするんだ?」
「そら」
「!」
右手の甲が燃えるように熱い。数秒耐えると焼き印のように模様が浮かぶ羽のマークだ。
「悪魔の翼と言ってな。呪いをつけられた存在を永遠に感知できるようになる魔法だ。お前の右手にそれがある以上、お前はおれの掌の上だということだ。その呪いはおれを殺せば解けるぞ。そしてその呪いはお前が二十歳になると命を奪う」
エレフは悪魔じみた笑いをする。いや、悪魔なのだが。
「死ぬまでにおれに会いに来い。そしておれを殺せばいい」
「死にたいのか?」
「いや、大人になるまで本気で強くなったお前を殺したいのさ。いいか、きっと会いに来い。少なくても人間最強になれ。「史上初の後天的な人間の奇跡の子」になって、おれと戦え。楽しみにしているぞ」
言うだけ言って、悪魔は去った。
「はあ、怖かった」
ほんとうにぞっとしない。これだけの恐怖久しぶりだ。
死の恐怖ではなく、予定が狂う恐怖。
なにせ、この場にはもう一人「奇跡の子」が存在するのだ。もし、その子が悪魔に襲い掛かっていたらどこまで状況がコントロールできたか分からない。
それに、何故かずっとぼくたちを見ていた。いや、「ぼく」を見ていたのだ。
子供たちの半分ほどは気絶している。数人が根源的な恐怖に震えながらもこちらを観察している。
その中で一人だけほとんど瞬きもせず、悪魔に目もくれず、「ぼく」のことだけを凝視してしている「子供」がいるのだ。
妙に熱っぽく、同じくらい狂った視線。
関わると面倒なのが丸わかりなのだが関わらないわけにもいかない。
何故ならおそらくその子供が大当たりだから。王様が一番欲しがりそうな存在だ。
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