レイライン
[タクミのレポートNo14]
今年の研修はいい感じに進んでいる。
どうやってかは分からないが、ホッキョクギツネとシンヤもやっと良く打ち解けてきたようだ。
獣医学とはいえ、殆どが未知のサンドスターで構成されたフレンズ達と接するのは難しいことだ。
密接に関わっていると言われているフレンズの精神状態とサンドスター。二人はフレンズの健康を保つには健康な精神を保てるように飼育員がいなければいけないことをよく学んでいる。
[シンヤのメモ]
対象αの健康状態は依然として変化なし。
しかし、一年前の例のフレンズ(対象β)と良く合っている所を見かける。
やはり対象αと対象βとの間には強い絆要素があるのではないかと思われる。早よ付き合え。
また、パークの守護けものに対象α、βは目をつけられている模様。要観察である。
追記
対象αが酔っ払った勢いでドクペを奢ってくれた。
対象αは下戸だ。もっと飲ませよう。
[マサキの日記]
今日は皆で肉を焼いた。
この間、ハクトウワシとコストコに買い出しに行ったが全ロストしたのでまたいく羽目になったが。
ホッキョクギツネは少しずつシンヤに懐いているようだ。俺と先輩にもほんの少しだが慣れてきている。
そういえば昨日シンヤが夜中にこっそり部屋を抜け出ていた。コンビニか?抜きに行ったのか?
楽しい時間は過ぎるのが早いもので。
気付けば、既に滞在期間が半分ほどしか残されていなかった。
しかし、パークでの生活はとてもいいものだ。
もちろん物資を運んでくるとか力仕事もあるけど、空気は美味しいし、眺めもいいし、全力で仕事を手伝わせてもらってかく汗はとても気持ちいい。
それに、最近はフルルちゃんとかなり仲良くなった気がする。
彼女は、寒い雪山には来たがらないので時たま僕を呼びつける。
高い太陽で暖まった黒い髪、まるで宝石を砕いてばらまいたみたいにキラキラした瞳に少し…
マコさんはヒロミといる所をよく見かける。
別に盗み聞きした訳じゃないが、ヒロミはよくマコさんに僕とフルルちゃんの事について尋ねているようだ。
ヒロミは嫌なヤツじゃないんだけど…なんかマコさんと一緒にいるのを見るとちょっと嫌な感じだ。
それにたまに変だ。
この前眠れないので夜中にベランダに出たら、コンビニの方を双眼鏡で見ていた。そういう趣味?
「えーっ…怖いなぁ…」
マコさんがモービル隣の席で、不安そうにスマホの画面を見ている。
今日は僕らにつきっきりだ。
「どうしたんですか?」
「ほら、この間マサキくん達が襲われたっていうセルリアンじゃない?まだ討伐出来てないみたいね…ひとり食べられかけたけど、救出されたみたい。まだパークのどこかにいるんだって」
ネイルのない細く白い指がスマホを優しく握り、マコさんはそれをこちらに向ける。
「フレンズとかに被害がないといいけど…病院の側だし…」
「アレはヤバかった…メチャメチャにデカかったし…今思い出しても怖いわ…」
マサキはあばらの辺りをさすっている。
多分あのハクトウワシの顔からして、セルリアンにやられた傷じゃないと思うぞ、それ…
シンヤがマコさんに尋ねる。
「セルリアンに食べられたらどうなるんですか?」
マコさんが少し暗い表情で答える。
「うーん、人は食べないんだけど…フレンズは食べられると分解されて…その…元の動物の死骸だけが残されてサンドスターが絞りつくされるわ…フレンズにとって死を意味するわね…」
マコさんの睫毛が伏せられる。
職員にはそういった事での悲しみも付き纏う。
でも、それを隠していなければフレンズとはまともに触れ合うことはできないのだ。
「今回は食べられないで助かったみたいだけど、相当サンドスターを吸われちゃったみたい。でもあそこの病院にいればきっとすぐ良くなるわ!あそこはレイラインにあるから」
「レイライン…ってなんですか?」
「パークにはね、サンドスターが沸いている場所があって、そのパーク西レイラインって所に病院があるのよ!直接的な証拠は何にもないんだけど、事実レイライン上に立っているフレンズや人間は回復力が高まったり、気分が良くなったりするみたいね」
ここ!とマコさんは擦れてクシャクシャのパークの地図を指差す。
本当に丁度島の西に病院はあった。
「そういや、確かにあそこにいた時は体が軽かったな!」
「元々は守護けもののビャッコ様の祠があった所なんだけど、土地を譲ってもらったの」
車内のアナウンスが、フレンズ達の家に着いたことを知らせる。
さて、今日も頑張ろうか。
ドアが開くと、冷たい空気が頬を打った。
「大分データが集まってきたな」
「そうですね。ふるる様のデータは尾行したらびっくりするくらい簡単に集まりましたものね。スキだらけでした」
ヒョロの持っている小さなプラスチックのケースの中に、黒い髪が一本入っている。
「お前、敬語のつもりかも知れんが、様ってつけるとやけに変態に見えるぞ」
ヒョロは小太りの言うことには耳も貸さず、髪の毛を取り出して機械にかける。
ウンウンとマシンが唸りながらデータを読み込んでいく。
「「お、お、おお〜〜っっ!!」」
二人はその画面を見て驚きの声を出さずにはいられなかった。
タクミのサンドスターの波形のそれと、フルルのサンドスターの波形はほとんど一致していたのだ。
その時…
「お、お、おお〜〜っっ?おっさん二人がテントの中でイチャイチャしてどうしたんだ?」
びっくりしてヒョロと小太りが振り返ると、そこにいたのは大きな熊手?ハンマー?を持ったフレンズ。とんでもない威圧感だ。
いつのまにかテントに入ってきていた。
「さっきフレンズから通報があったのでな…ヒョロっとしたオッさんと小太りのオッさんがうろついてて怪しかったって…まさかおたくじゃないよな?」
小太りが冷や汗を流す。
「い、いえ、そんな訳ありませんよ。私たちはパークの火山に登山しようと思って入園したのですが、ホテルを取っていないものでして野宿していたのです。もし私たちが不審に思われていたのであれば謝罪いたします。確かに、私たちのような中年男性が二人でフレンズ達の前を歩き回ってるのは気持ちが悪いでしょうからね…」
ヒョロは落ち込んだようにうなだれる。
「あ!い、いやそんなつもりじゃないんだ!ただ私は不審者を探していただけでだな、おたくがそうと決まった訳じゃ…お、おじさん二人でパークも悪いことじゃないと思うぞ!ふ、普通に楽しんでくれればいいからな!登山でもなんでも!」
「そうですか…ありがとうございます、それでは登山を楽しませていただきます。私たち日本の名山を巡っていてですね…これは飛騨山脈の…」
ヒョロが畳み掛けるようにアルバムを出す。
フレンズは思った。
これくっっっっそめんどくさいやつや。
「あ、あーあー、不審者を探さないといけないからそろそろ出るわ、ごめんな、お邪魔した!」
フレンズがテントを出ると、ホッとして小太りが胸を撫で下ろす。
「お前演技うまいな…助かったわ」
「危ないところでした…相手が文字の読めないフレンズで良かったです」
画面に 対象α 対象βと書かれたグラフが、二重らせんを描くように重なって、解けて一緒になってを繰り返していた。
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