白銀



げぇぇぇぇぇぇっさっむ!!

寒すぎる!!

早くトランクの中の防寒具を!!!


「さむさむさむさむさむさむさむ」


バスの横を開けてもらう。

が…


「なん…だと…」


そこにトランクは一つも無かった。


「あれ…おかしいな…はやおきしたせいかな…」


「アワワワワ」


運転していたラッキービーストが震えている。


「ミンナ、ゴメンネ、トランクヲ港ニ置イテキテシマッタミタイダヨ」


「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ往ね!往ねぇぇぇっ!」


「タ、タクミ先輩落ち着いて…」


顎がガチガチいっている。

尋常じゃない寒さなのだが誰か助けて。


バサっと大きなジャケットを被された。


「登山用のジャケットです、体感温度+9℃!!」


「ありがとうマサキくん…」


登山部は有能だぁ…

鼻水が凍っている。


「さぁ、寮まではスノーモービルで行くわよ」


「す、スノーモービル?!」


「雪が深いから気をつけて!ラッキーに操縦を任せればいいわ、荷物は先に運んでおくから!」


マコさんは近くのモービルに飛び乗ると、小慣れた手つきで荷物をくくりつけ、颯爽と走り去っていった。


「「「かっけぇ…」」」


「ス…ネェ…ネェッテバ…スノーモービルダヨ」


身体中にマフラーが巻かれているラッキービーストがハマっているモービルがきた。

どうやら3人乗りらしい。


「じゃあ行こうか!」


「「おーう!!」」




スノーモービル?

スローモービルの間違いではないか?

超おせぇ。


「ナカナカ…ユキガ…フカイネ…」


もう歩いた方が早かったりする。

結局1時間かけて寮に到着した。


「ここが…!」


寮はおおきなコテージのようになっている。

小洒落たランタンが掛かっていて、デッキに出しっぱなしにしてある椅子が雪を被っていた。


「入ろうか」


ドアノブに積もった雪を払い除ける。

ガチャリ。


内部は豪華だった。

赤い絨毯が敷かれていて、ホコリひとつない。


「遅かったね、荷物は運んでおいたから」


マコさんが螺旋階段で降りてきた。


「あ、ありがとうございます」


「ムフ、いいってことよ!じゃあ部屋を紹介するわね!ついてきて!」


螺旋階段を登った先には二重ガラスの窓で張られた廊下があった。


「すごい…高級旅館みたいだな…」


「ちょマサキ、あんまりウロチョロすんなって」


行灯がドアの一つ一つの前に置かれている。

後輩達が興奮するのも無理はない。


「このアングル…インスタ映え間違いなし…!」


こう見えてシンヤ君はフォロワー万越えのインスタグラマーである。

ドシドシとスマホで写真を撮っている。


「お前もウロチョロしてるじゃねーか」


「お前程じゃねーよ!」


「「フヌヌヌヌヌヌヌヌヌ」」


出た、夫婦漫才。

ああ見えて至極仲の良いコンビである。


「アレ…大丈夫なの?」


「ア、アハハハハ…」




「ここかアナタたち研修生の部屋!Wi-Fi完備よ!」


相変わらずのハイスペック寮だ。


「しかも一階にある大浴場は使い放題だから」


「まじすか!!俺ちょっと入ってきます!!」


「マサキ!抜け駆けすんな!」


ドタバタと2人は部屋の中に入っていった。


「じゃあ僕も…」


「タクミ君の部屋は別になってるみたいね…上」


「へ?違う階なんですか?」




「広っ」


「何故かタクミ君には特別優遇措置がきてるわね…きっとペパプのコネかもね!」


ありがとう、ペパプのコネ。


「じゃあ私はこれで。そろそろミーティングも開かなきゃいけないし」


「ま、マコさん!」


「ん?どしたの?」


「おやすみなさい」


マコさんはクスッと笑った。


「おやすみ!」




ベッドは広かったが、いつもと違う感触であまり寝付けない。

テレビを回してみたがあまり面白い番組はやっていないようだ。

ふとCMで手が止まる。


『ようこそジャパリパークへ!』

『総合巨大動物園ジャパリパークへようこそ!当パークではさまざまな動物との触れ合いだけでなくフレンズ達とも…』


テレビの右端にフルルちゃんが写っている。


あの時のことを思い出した。


そうだ、海で一緒に泳いだり…


こうやって2人でテレビを見たりしたっけ。


やっとまたお話ができるんだね。




「広っ」


大浴場は広かった。

時間がまだ昼頃なのもあって人は少なく、冷えた体を温めるのに最高の温泉だった。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁいい湯だぁぁぁぁぁあ」


「ジャグジー、最高」


肩までどっぷりと浸かって気持ちがいい。

シンヤはジャグジーで今までに無いくらい綻びた顔をしている。


「なぁ、サウナ耐久レースしようぜ!」


「いいぞ、負けたら奢りな」


水風呂から桶で水を汲んで体にかける。

筋肉が冷たさで硬直する。


「いくぞ…よーい…スタート!!」


最高の施設、最高の環境、美人な上司。

これはほぼ間違いなく…


絶対にたのしー研修になる!!








「タクミ…」




空も飛べるはず

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