担当
ガコン。
木桶の音が人気のない浴場に響く。
マサキとシンヤの二人だけが大きな浴槽の中でくつろいでいた。
「最っ…高…」
「明日もここだな…」
夏である事はもう忘れてしまったくらいだ。
「シンヤ、そういやお前さ、なんで獣医学部なんて来たんだ?お前頭いいんだからもっといい所に行けただろ」
「ンフッ、急にどうしたんだよ?」
「んー、裸の付き合いってヤツ?一回やってみたくてさぁ…なぁ、教えろよ」
「んんん…」
唸りながらシンヤは湯の中に顔を半分沈める。
ブクブクと気泡が口元からあがる。
「ボガボガガガボビゴボボ」
「へ?分かんねーよ!」
シンヤは意味深な笑みを浮かべる。
マサキは少し不満げに腕を組んだ。
ガラガラと浴場のドアが開いた。
湯気が吸い込まれていった先から中肉中背の男が現れる。
「お疲れ様ー」
「「お疲れ様っす」」
タクミはシャワーをしばらく浴びると、マサキたちが使っている浴槽に入った。
「あぁ…極楽極楽…」
「極楽ってマジで言う人初めて見ました」
「え?言わない?」
タクミは頭の上に暖かく濡れたタオルを折りたたんでのせ、肩まで湯につかった。
「あ、そうだ、君達の担当のフレンズ出たよ」
「まじすか?教えて下さい!」
タクミはジプロックに入れたスマホを開いて写真を見せる。
「ホラ、マサキくんはハクトウワシ…シンヤくんはホッキョクギツネだね」
「へぇ…珍しい動物だな」
「ハクトウワシって言うと…アメリカのヤツか」
…
「結構サラッとやるんすね」
「ベロベロに深酒で酔っ払った上司から渡されるのとどっちがいい?」
「「こっちです」」
いや去年は何があったんだよ。
湯気が木造りの円い天井に吸い込まれていって、湯の湧いてくる音だけがポコポコと聞こえてくる。
「そういえば、去年ってどんな仕事したんですか?割と力仕事なイメージがあるんですけど」
「うーんそうでも無かったけど…かなり特殊な感じに疲れる仕事かな…」
「どゆことすか?」
「フレンズと一緒にいれば分かるよ…」
あ、全てを悟り切った目だ。
そう、フレンズはよくも悪くも個性的過ぎるのだ…
とくにタクミの場合は殊更ヤバイ子を引いてしまったという事は言うまでもない…
「てか、先輩、港でフレンズに抱きつかれてましたけど…どういう関係ですか?」
「それ気になるか…」
うんうんと二人は頷く。
そんなに寄られても困るのだが…
「僕が研修に来たときの担当の子だったんだよ、その程度の付き合いだよ」
なんだその冷ややかな目線は。
オフホワイトですよオフホワイト。
「先輩、変な所で鈍そうですからね…」
「相当なチャンスでやらかしてそうだよな…」
軽く引かれてるのだが。
「そ、そんな事はないって!」
「失礼ですが経験回数は?」
「
「ですよね」
「ですよねって何だよ!」
さては…
「さてはお前ら…非童貞だな…」
ニヤッとしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
いいもん成人したら童貞じゃないもんただの性交渉未経験の成人だもん。
「じゃ、先上がります」
「おつかれー、早く寝るんだよ?明日早いから」
ガラガラと扉が閉まる。
月がそろそろ真上に来るだろうか、深夜の静かな浴場には独特の荘厳さがある…
あぁ…リラックス…おぉ…リラックス…
突然、轟音と共に窓から明るい光が差し込む。
バリバリバリバリッ!!
その爆音で俺のリラックス研修生監督生生活が幕を閉じたことをなんとなく悟った♨︎
「うわぁっ!何だよ!」
よくみると窓伝いに稲妻が走っている。
焦げ臭い匂いが漂ってきて、お湯が若干ピリピリし始める。
突然、白いもやが吸い込まれて露天風呂のドアが開いた。
「うーさぶさぶっ!やっぱトラには雪山キツいって…」
入ってきたのは白い制服を着こなした猫耳少女。
服には薄いトラ柄が入っていて、金色のリングとオッドアイ、いかにも神聖って感じがする。
たぶんフレンズ、しかも伝説系のヤツだ…
だが全く威厳は感じない…皆無、例の赤いスズメに比べれば気が抜けるくらいだ…
おーっとここで事案発生。完全に目があった。
急いで股間を隠す。
「あー…えっと…入るところを間違えたかなぁ…」
フレンズは顔を少し赤らめるとこちらから目を逸らして、何事も無かったかのように出ようとした。
「ちょ、ちょっと待った!何でいきなり男湯に入ってきて…ってそれよりそこから出たら更に誤解が広まるって!」
しかし件のフレンズは全くこっちを向かずに顔を隠している。
「ちょっ…股…隠して」
かんっぜんに忘れてた(死)
多分生まれてこの方一番の瞬発力でタオルを股間の前に持ってこれたと思う。
「と、とりあえず下の玄関から入ろうか?」
「あ、玄関あるんだ」ボケナス
また曲者が来たな…
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