続・マイナスへ

付き添い


喉を刺すように冷たく新鮮な空気。

ここに僕はまた帰ってきたんだ。

超巨大な総合動物園ジャパリパーク。


だが眺めは少し違う。

港は所々工事中で、森がハゲているとこもある。

そして僕は二十歳…成人した。


「先輩ー!めっちゃ空気美味いっす!」


「だよね!大自然って感じでいいよね!」


このはしゃいでいる後輩はマサキくん。

高校時代はバリバリの山岳部で、今でも大学のワンダーフォーゲル部に入っている。


そして今、横にはフルルちゃんがいる。


小声で後輩が言う。


「先輩…先輩の横にいるフレンズってもしかして彼女さんとかですか…?」


「ブッ」


思わず吹き出した。

このマセガキ…ガキという年齢ではないがこの後輩はシンヤくん。

成績トップでの入学にも関わらず、成績大学内最低のこの学科を選んだことはかなり噂になった。


「ゲホゲホ…唾が変なとこに…そんなわけないだろ…ただの友達だよ」


「本当ですかねぇ…」


訝しむような目でシンヤくんが僕の事を見る。

いやマジだって。


「タクミ先輩!あの山虹色っすよ!?あの山って登って良いんすか!?良いっすよね!?」


「だって先輩が去年担当したって言ってましたよね…これはロマンスの予感…!いいですねぇ…」


どうしよう一ヶ月もこの後輩たちと一緒にいれる自信が全くないわ。


そういや案内係の人は呼んである。

あの人と会うのも一年ぶりだ…


「タックミくーん!久しぶりーっ!」


「あ!マコさん!久しぶりです!」


トートバッグを大きく振りながら走ってくる。

マコさん胸が揺れてます。


「ごめんね待たせて…この子たちが新入生?」


君たちのその恍惚とした表情、予想通りです。

だよなぁこれは初見殺しにして童貞殺しだ。


そういや僕は童貞じゃない。

童貞は未成年者だけなので僕は性行為未経験の成人男性ということになる。

だから童貞なんて呼ぶんじゃない分かったな???


「はじめまして!フレンズの飼育員をしているマコです!よろしくね!」


「「よ、よろしくお願いします…」」


だめだ笑いそう…


「ねぇタクミ」


「ん…どうしたのフルルちゃん?」


「後でお話しできる?えっと…もうあのおうちはないから後で待ち合わせしよう?これもあるし」


フルルちゃんはしっかりタブレットを手に入れたみたいだ。


ということで、フルルちゃんとは連絡先を交換して別れた。


「そういえばマコさんは、今は何のフレンズの担当をしてるんですか?」


「うーん私は特定のフレンズの担当じゃなくて、エリアのチーフみたいな感じになったの。大出世でしょう?」


「え、マジですか?」


「そうよ、私は雪山エリアのチーフ、マコよ!」


マコさんが山と言った瞬間にマサキの耳が反応したのが分かった。


「雪山?いま雪山っていいましたよね?」


「え…っとそうだけど…」


「その雪山って!登れますか!?!?」


マサキはめっちゃ目を輝かせている。


「出た…山男スピリッツだ…」


シンヤが溜息をついて苦笑いする。


「ええ、きっと登れるわよ!あそこは年がら年中雪が積もってるからスキーとかスノーボードとかも出来るわね!」


「だから長袖と防寒具を用意しろって言ったんですね、夏だから安く買えてまあ良かったですけど」


そうこう会話をしているうちにバスが到着した。

前よりも若干大きめになっている。


『このバスは職員専用、雪山エリア行きです』


「僕も雪山エリアは初めてです」


「そうね、前の時は行ってなかったからね」


バスが動き出すにつれて、懐かしい風景、変わってしまった風景など様々なものが見えてくる。

だが一年前のあの災害を感じさせないくらいにフレンズも元気だし、観光客で賑わっている。


後ろの方の席では、後輩2人が騒がしい。

外の風景に好奇心が駆り立てられるのも無理はない。


「雪山エリアはかなり中の方にあるから少し時間がかかるかもしれないわね、今のうちに寝てても大丈夫よ?」


「え?そんなに僕眠そうですか?」


「ふふっ、夜遅くまで眠れませんでしたって顔に書いてあるじゃん?」


この笑顔を見るのも久しぶりだ。

マコさんは年上だけど、とてもフレンドリーに話しかけてくれる。

姉レベルで歳が離れているのに、親近感を覚えさせるこの人柄は全く変わっていない。




「へぇ…そんなことがあったんだ…」


「あそこでスザクが来てなかったら今頃は二人でぺしゃんこにされてましたね…」


あの時の話をした。

今でも思い出すとよくあんな事が出来たなと思う。

もう正直言って二度とやりたくないね。


バスが走る窓にチラチラと雪が映り込みはじめ、若干空も暗くなっている。


『まもなく雪山エリアに突入します。防寒具などの準備をお忘れなく』


あ、トランクに入れっぱなしだった。

まあいいか。

上着がリュックに入っている。

ハンチング帽を被って外に出る準備だ。


『雪山エリア第一停留所です』


「よし、降りよっか!」 


マコさんに続いて外に出る。

外気はさっきよりもずっとずっと寒く、まるで外国のようだ。

一面の雪の世界の中に、足を踏み入れた。

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