traP1scenario#2

@Facish

野崎 勇太

野崎は一人、倉庫の中に佇んでいた。

彼の手には拳銃が握られており、倉庫の壁にはいくつもの弾痕が残されていた。

彼は一切の表情を浮かべることなく、ただ漠然と弾痕を見つめ続けていた。

暫く弾痕を眺めていた彼は、やがて満足したかのように軽い笑みを浮かべる。

彼は笑みを浮かべたまま、静かに腕を持ち上げる。

傍から見るならば、その笑みは薄気味悪いと言って差し支えの無いものであった。

彼の手に握られた拳銃は、やがて倉庫の壁を捉えるに至った。

暗闇の中に浮かび上がることで、彼の色白の笑みはその薄気味悪さを増しているように思われた。

彼が腕を上げて間もなく、倉庫内に銃声が響き渡る。

倉庫の壁には、これまでに存在していなかった弾痕がくっきりと刻み込まれていた。



野崎には石川という友人がいた。

周りから暗いと評される野崎とは異なり、石川は社交的とされる男であった。

野崎は石川のことを疎ましく思っていたが、彼のことを嫌っている訳では無かった。

石川と共にいる野崎は基本面倒くさい様を浮かべつつも、稀に笑みを浮かべることがあった。

野崎は以前より自然な笑みを浮かべることに慣れておらず、石川と共にいる際に浮かべる笑みもぎこちないものであったが、気持ちの悪さを感じさせるものでは無かった。



ある晩のこと、野崎はアルバイトの帰りに裏路地へと立ち寄った。

彼の帰路は世間一般的に治安が良いとは言いづらい区域を含んだものであり、彼が立ち寄った裏路地も人が避けるとされる区域に属していた。

立ち寄った理由は彼にとって重要なものではなかったが、彼はそこで重要と思われる出会いを果たすこととなった。

野崎が裏路地とされる道を歩いていると、道の反対側と思しき方向から一人の男が走ってくる様が見えた。

男の肩幅は広く、狭い裏路地において野崎が彼を避けることは困難であった。

男を避け切れず、野崎は道へ倒れ伏した。

男は野崎へ興味を示す素振りも見せることは無く、そのまま闇へと消えていった。

男が姿を消してから暫く、野崎は頭を抱えるようにしてその場に立ち上がった。

野崎が軽い眩暈を覚えながら起き上がると、目の前には男のものと思われる拳銃が存在していた。

一瞬の躊躇いを見せた後、野崎は薄気味悪い笑みを浮かべ、拳銃を自らのリュックサックへと収納した。

その後、彼は駆け足で帰路に就いた。



拳銃を手に入れた野崎が訪れたのは、彼が子供のころに秘密基地として使用していた倉庫であった。

森の中にぽつりと佇む倉庫は、過去に使用されていたと思しき気配を纏ったまま、周囲に一切の気配を存在させないままに取り残されていた。

野崎にとって、手に入れた拳銃を確認する為の場として、倉庫は極めて優れた場であると言えた。

彼は自前のタオルケットによって何重にも包まれた拳銃を取り出すと、薄気味悪い笑みを浮かべたまま拳銃を誇らしげに眺め始めた。

力を持たない野崎にとって、拳銃は彼に全能感を与えてくれるものであった。

暫く拳銃を眺めた後、彼は倉庫の壁に向けての発砲へと思い至った。

その時の彼にとって、発砲とは微かな不安を覚えさせつつも、絶対的な安心感を感じさせるものであった。

彼は僅かに躊躇いの様子を見せつつも、笑みを強めて引き金を引くに至った。



以降、彼は定期的に倉庫を訪れるようになり、拳銃を楽しむこととなった。

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