第3話クラスメイト


「このような良き日に立ち会えたことを光栄に思います。皆さん、どうか有意義な6年を過ごしてください」


ステージに立った校長が言葉を発する。


「ガーディアンスクールの

生徒は近く、この国の

守護者ガーディアンになります。国民の命を権利を幸せを

守護ガーデするのです。

我らの王を守護ガーデするのです。この国でこれほど栄誉ある仕事は他にはありません。ガーディアンスクールの生徒として、恥ずべき行為は慎み、勉学に励みましょう」


校長は右手の握り拳で胸を叩く。


アースナイト王国に栄華を!」


そう締めくくり、ステージを降りた。

セレモニーが終わると講堂から吐き出される人混みに混ざり、グレイも講堂を出る。

エプソンの姿を目で探したが、どこにも見当たらなかった。


「これから新入生のみなさんに教室へ移動してもらいます。すでに担任の先生が教室でお待ちかねです。誘導しますので、担当職員から離れないようにしてください。」


6班に分かれて教室のある校舎まで歩くことになり、森の前で整列をする。


6班それぞれの先頭に教職員が立ち、簡易的に注意事項を確認する。


「森の中へ入ってしまえば------」

教職員が言葉を発した瞬間。


「ギィャーーーーーー!!」


突如後方から、男子生徒の悲鳴が耳をつんざく。

列を乱しながら、怯えた表情で、必死に逃げ惑う。

生えている木の根が何本も土の中から飛び出し、その者の足にまとわりついていた。


「キャハッキャハッキャハッ!!!にんげんにんげんにんげんにーんげん!」


今度は頭上高くから、金切り声が響く。声に合わせて木々はざわめいて、葉が落ちた。


「にげまとう。にんげん、だもの。落ち着きがない、にんげんだもの!」


野太い声も加わる。姿はないが、四方から野太い声と金切り声がこだまする。


「おまえ、これ、怖い、ないか?」


隣にいた少女が落ち着いているグレイに不思議そうに片言で声をかけてきた。金切り声に耳を塞ぎながら、背を低くしていて、グレイには少女が怯えているとすぐに理解出来た。


「怖い?」


逆に聞いてやると、少女は小さく、けれども確実に頷いた。


「声の主は森の中に住む木の妖精だよ。怖いいきものじゃないけど、いたずら好きなんだ。こうして、森に入ってくる人間を追い払って、縄張りを守ってるんだ。森の中に入るって会話を聞いて、邪魔してきてる」


グレイは少女に笑いかけながら列から離れ、握り拳サイズの石を拾うと、一番近いところの木の根に向けて石を叩きつける。


「消えろ」


グレイはいたずらをする木の妖精に命じる。


「消えろだってさ!偉そうに言うな!」


金切り声が大きくなる。

叫んだのは一瞬で、なぜか妖精は一斉に静かになった。


「チェラ・バナセイラ・ガーデ・グーレイ」


落ち着きを取り戻したらしい木の妖精が、急に恭しくなったようにすら感じる。呪文のような言葉を発した。


「デイ・バナセイラ・ガーデ・アースナーテ」


グレイはその声に返事を返す。


「おまえ、それ、何?」


片言の少女がグレイを見つめる。


「精霊語」

「せいれいご?」


さらに少女は首を傾げている。


「今年の特待生は妖精や精霊とも仲良しさんか」


背の高い筋肉隆々の赤髪の少年がいきなりグレイの肩に腕を回してきて、少女は押しのけられる。


「何だ?」


グレイはその少年に面倒だと感じ、冷たくあしらう。


「お嬢ちゃん、精霊語知らないのか?」

「知らない。あと、私、おまえ嫌い」


頬を膨らませながら少女は赤髪の少年を睨んでいる。


「えー!?」


なんで!?と大きな声で騒ぐ赤髪の少年をさらに睨んで、


「頭、悪い、わかる。それから、うるさい」


少女のあまりにもはっきりとした嫌悪を目の当たりにしたグレイは思わず腹を抱えて笑った。


「あははは、君たち良いコンビだよ!」


少女は余計に気分を害したらしく、今度はグレイに向かって、


「そんなこと言う、だったらおまえも、嫌い」


グレイにまで毒を吐く少女を見て赤髪の少年はグレイの肩に回した腕を自身に引き寄せて距離を詰めた。


「所詮同類だとさ。だったら、同類同士仲良くしてやってよ、グレイ」


赤髪の少年は何故かグレイの名を口にする。


「どうして名前を?」


目を見開いて赤髪の少年を突き放した。


「胸ポケットにファーストネームが刺繍されてる」


確かめると、言う通り胸ポケットにファーストネームが刺繍されていた。


「俺はウルグ」

「ウルフ?なるほど。私おまえ、よく吠える、思った。ウルフ、吠える。おまえの名前、ウルフ、納得する」


グレイは肩を震わせながら笑う。


「シンディー、おまえ覚えてろよ!」


ウルグが、シンディーに吠える。


「ガーデ・アースナーテ・オーダ・フーリ・ド・マ・ファミー」


グレイの精霊語で、男子生徒数人の足の動きを封じていた木の根が地中に潜っていき、全員解放された。

ウルグは真剣に耳を傾け、精霊語を理解しようと努めるが、何一つ理解出来ないのか、眉間に皺を寄せた。


「精霊語辞典、今度貸してあげるよ」


グレイが何気に言った一言に、ウルグは顔を引攣らせ、両手を胸の前でぱたつかせる。


「お、俺犯罪者にはならないぞ。おまえ、頭大丈夫かよ。そりゃ精霊語辞典があればおまえみたいに精霊語を操れるかも、だけどさぁ------」


ウルグは俯く。


「"宮廷図書"は俺らには縁遠いからな。

どっかの城に侵入するほかに閲覧できる方法はないよ」


グレイはオドオドするウルグを鼻で笑った。


「俺の言葉聞いてた?貸してあげるよって言ったんだけど?」

「お、おまえが持ってるってのか?」

「家にあるよ」

「おまえ、何者なんだ?」

「昔父さんが宮廷に仕えていた時に、古書の整理を担当していたんだ。精霊語辞典も次々と新しいものが出てるから、古くて破棄されるはずだったものを譲ってもらったんだよ」


グレイはあくまで真実を述べた。グレイの父がまだ王になるよりずっと前に宮廷に住まい、国書の管理をしていたのだ。精霊語辞典は当時の王に頼んで父が譲り受けたもの。今では王宮にあるグレイの寝所に置かれている。


「ふーん」


ウルグはあまり信じていないのか、それ以上はグレイに辞典の話を聞くことはしない。


「みなさん早速森の精霊に会うなんて、ついてますよ」


先頭に立つ教職員が顔を引攣らせながら話す。


入学セレモニーに参加するために白いワンピースに黒のジャケットを着ている。


肩に落ちた葉を手にとってさらに話す。


「私はもう30年この学校にいますが森の精霊に命令をする生徒をはじめてみました」


生徒たちから笑いが起こる。


女性教師、アラヘナはグレイをみつめる。


「今年の特待生はひと味違いますね」


アラヘナの視線を受け、グレイは寒気を感じる。


「どこでその知識を蓄えてきたのかしら------」


何か、疑いの眼差しを向けられていることは理解できた。





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