7 (R15)
ぼんやりと、ぬるめの温度の湯につかりながら、きらきらと明かりを弾く赤金色の髪を見ていた。
湯の中で揺れる毛先を目で追っていると、低くこもった笑い声が腹に響いた。
「……眠いのか?」
大きな手が肩を、腕を、脇腹を撫でていく。
触れられたか所から痺れるような快感が沸き上がってきて、制御できない震えで唇が慄くように増えた。
一晩中の酷使で熱を持って腫れている唇が、ふたたびしっとりとしたものに包まれた。
もはや当然のようにぶ厚い舌が侵入してきて、呼吸が奪われ更に意識が朧になっていく。
そのまま秘所へ降りてきた太い指が性懲りもなく弄り始めたが、それでも細い唸り声のようなものを零すことしかできなかった。
「まるで子猫のようだな」
小鳥と呼んだり、精霊と呼んだり、次は子猫か。
突っ込みどころ満載だが、それについて何かを考える元気はすでにもうなかった。
敏感な部分をくすぐるように撫でられて、甘いため息がこぼれた。
明け方まで耽溺されて、もともとの体力差が如実に現れた。
メイラのほうは、容赦なく体力を搾り取られ、もはや指一本動かせる気がしない。しかしもともとが武人である陛下は、空が白み始める時刻になってもまだこうやって彼女に触れてこようとする。
正直もう身体は限界だった。
意識もまばらにしか残っておらず、いつ浴室に移動したのかも覚えていない。
こうやって秘所を愛撫され、痛むどころかそこから快楽を拾う程には慣らされた。太い指を受け入れながら、はしたなく子種を強請ってしまうような女を、まだ未経験の乙女と呼んでもいいものだろうか。
確かに、体内の奥深くで繋がり合うようなまぐわいはなかった。
しかし、あらゆるところに触れられ、舐められ、吸いつかれた。メイラにとっては想像したこともないような場所まで愛され、一気に大人の階段を昇りつめてしまった。
何度達したかなど覚えていない。数えようとしたわけではないが、していたとしても無駄だっただろう。途中からイキっ放しになってしまって、泣きながら陛下を詰った記憶が朧に残っている。
敬虔な元修道女の彼女にはふわっとした性知識しかなかったのだが、食べたり排せつしたりする器官が男女の営みには性器になるのだと教え込まされた。
犬猫の交尾のように、入れて出して終わりだと漠然と思っていたのかもしれない。その程度にしか知識のない未経験の乙女に対するには、あまりにも容赦なく過激な夜だった。
深夜に差し掛かる頃にはメイラの身体もベッドシーツも愛液や精液でぐちゃぐちゃになっていた。
乾いてパリパリになってきてなおその上から汚されて、明け方には嗅覚が馬鹿になりそうなほどの淫猥な臭いがベッドの上だけではなく部屋中にまき散らされていたと思う。
いつのまにか運ばれていた浴室内でもたっぷりと愛されて、もはや身体は芯が抜けたようにぐったりと、どこにも力を入れることが出来なくなっていた。
文字通り搾り取られ尽くしてしまい、このまま太陽の光を浴びれば灰になってしまいそうだ。
陛下は絶倫なうえに多分遅漏だ……どうしよう。
湯の中で、またも熱く硬く巨大なものが鎌首を持ち上げていることを察知しながら、メイラはそんな失礼なことを考えていた。
今から、いずれ来るであろう身体をつなげる夜が恐ろしかった。
「そなたはまだ本調子ではなかったな。無理をさせた」
そう思うのであれば、悪戯はやめてください。
浴室内でのディープな口づけは駄目だと思います。
乳首を舐めるのも、噛むのも駄目だと思います!
もちろん指を、そ、ソコに入れるのも……!!
そんな苦情を言葉にする元気などなく、謝罪されながらも止まらない愛撫についに体力は底をついた。
完全に失神したメイラが次に意識を取り戻したのは、再び舞い戻ってきたベッドの上だった。
違う部屋なのが内装でわかる。
それはそうだろう。あれだけ汚されたベッドの上を綺麗に片付けるには、いくらメイドが優秀でも時間がかかるはずだ。
あの惨状の後始末について想像すると地面に穴を掘りたくなってしまうので、とりあえず今は考えないようにする。
「陛下!!」
何故か、エルネスト侍従長が聞いたことのない声量で怒鳴っていた。この声で目が覚めたのだろう。
「最後の一線は死守した」
返答する陛下の口調は、少しだけ殊勝だ。
「胸を張って言うセリフではありません!」
「メルシェイラさま!」
ユリの小声に反応して、瞼を持ち上げると、冷たい氷嚢が額に乗せられた。
その気持ちよさにうっとりと息を吐く。
「ですからそういう事はまだ早いと申し上げました!」
「……だが」
「だが何ですかっ! 御方様の高熱は陛下のせいですよ!!」
どうやらエルネスト侍従長は陛下に猛抗議をしてくださっているようだ。
ありがたい。その調子で、もっと手控えるようにと言ってほしい。
「……次からは気を配る」
どうしてそんなに渋々と言うのだろう。
叱責されている陛下などというレアなものを見ておきたくて、そっと視線を声の方へと向けてみた。
「メルシェイラ」
ばちり、と音が聞こえるほど強烈に視線がぶつかった。憮然としていた陛下の表情が、一気に鮮やかな笑みに染まる。
そんなふうに情熱的な眼差しで見つめられると、ただでさえ上がっている体温がますます上昇しそうだった。
「果実水を飲むか?」
陛下手づから、デキャンタから吸い口に果実水を移し、それを口元まで運んでくれた。
薄い色の天蓋布越しに、見えない位置にいるエルネスト侍従長がため息をつくのが聞こえる。
「陛下はお仕事に行かれてください。御方様を休ませて差し上げなくては」
「急を要する仕事はないだろう」
「陛下がいては満足に休息できないでしょう!」
「そんなことはない。幾夜同衾して眠ったと思う」
「同衾して行為に及ばない自信がおありで?」
「……」
わずかにこぼれた水を太い指で拭われた。その指がやけにゆっくりと唇を撫で、そのまま歯列まで入り込んでくる。
ま、まさか……まだする気なのっ?!
涙目になってふるふると震えるメイラを見下ろして、クジャク石のような美しい双眸の奥に恐ろしい熱が灯る。
アウト! アウトです陛下!! その表情は一発退場です!!
今ほど、部屋にメイドや護衛がいる状況に感謝したことはない。
「とりあえず午前中は政務をこなして頂かなければ」
渋る陛下を強引に引き離してくれたエルネスト侍従長の頼もしさがありがたかった。
「きちんとお仕事を終えられましたら、御方様のお部屋にいらしても良いでしょう。ですが同衾は厳禁です」
そうです厳禁です!
声が出ないので、目だけで侍従長に便乗した。
陛下の恨みがまし気な目が、じっとりとメイラを見下ろす。幾分強気だった彼女が、その凝視に耐え兼ねてしおしおと萎むまでずっと。
「……しばらく眠るとよい」
陛下は低い、尾てい骨が震えるような声で言った。
「ゆっくり休んで今宵に備えよ」
「っ」
退場! 退場です!! 連れて行ってください侍従長さま!!
色気を駄々漏らしにした陛下の低い声に、メイドたちだけではなく警護の騎士たちまでほのかに顔を染めている。
メイラは真っ青になって震えた。
ベッドの上で殺されてしまう未来が見えた気がした。
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