第3話

入学式は開式の辞から始まり、校長式辞、来賓祝辞と滞りなく進む。

異世界転移者を育成する学校といえどもやはり入学式は普通の高校とあまり違いはない。

もし違いを挙げるとするならば……どこから見ても俺たちより年下の魔法少女や中世ヨーロッパのような服装を身にまとった騎士に、特にこれといった特徴はないが正式な式典にジャージ姿の青年……教師や来賓の人々に個性がありすぎるところだろうか。

その中には新聞の記事やネットで見たことのある有名な異世界転移者も居る。

「あっ、なぁ!あそこにいる人ブログ書いてることで有名な転移者の…!」

話しかけられたラズリの方は「こら、お前こんな時にも喋るなよ!」とでもいいたそうな目をして俺のことを肘でつつく。なんだか気のおけない友人ができたみたいで少し笑ってしまった。ラズリはそれが気に食わないようで整った顔を僅かに歪め俺の手を抓ってくるけど。


重要な入学式でそんなくだらないことをしている間にプログラムは新入生代表挨拶へと移る。ここの入学試験を突破するだけでも俺には厳しかったのに、新入生代表にもなる生徒は一体どんな人なんだろうか。

「新入生代表!蒼玉そうぎょくいつき!」

「はい!」

凛とした声が講堂内に響く。やがて壇上にあがってきたのは……

艶やかなブルーブラックの髪をポニーテールにしていて、少々背の高い女子生徒だった。

姿勢が良く、青と黄色の宝石でできたオッドアイを細く長く柔いまつ毛が包んでいる。制服も皺一つなく、全体的に清潔感が見られる、代表生徒として壇上にあがるのが相応しいような、そんな人。

それに、100人にこの人は美人かと質問したら100人全員が美人だと返ってくるであろう顔の造形やオッドアイという特徴的な外見は異世界で濃いメンツに囲まれたとしても決して彼女を英雄として埋もれさせることはしないだろう。


となりのラズリもそうだが、時に神は1人の人間に二物も三物も与えて孫のように甘やかしているように見えるのは気のせいか?それだったら多分俺は『神に気に入られなかった』側の人間なんだろうなぁ、外見だって中身だって平々凡々な黒髪黒目の純日本人だし。


「……先生方、並びに来賓の方々。私たちは未熟ではありますが、優しく、時に厳しくご指導していただけると嬉しいです。」

最後に滑らかな一礼をして、降壇していく。所作の一つ一つの丁寧さはまさにお嬢様、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花といったところだ。


随分と時間も経ったことだし、入学式もそろそろ終盤だろう。さて、次は何だったか……

「続きまして、寮監の紹介に移らせていただきます。」

隣のラズリがローブに寄った皺を直しながら、ちらりと俺の方を見遣った。反射的に目を合わせると、彼のローブの胸元にちらりとエンブレムが見えた。

この学校は4つの寮で分かれており、それぞれが星の名前に由来している。

獅子座のレグルス。

蠍座のアンタレス。

みなみの魚座のフォーマルハウト。

そして、俺の在籍するオリオン座のリゲル。

ラズリも俺と同じで制服のエンブレムとネクタイが白を基調にしているからリゲルだろう。


それぞれの寮監が壇上へとあがる。

「レグルスの寮監のクララ・クラインだよ!レグルスのみんなよろしくねー!」

先ほど目にした小学生位の魔法少女が声を張り上げて呼びかける、ここで動揺してはいけない。異世界では思いがけず年齢詐称している人なんてわんさかいるのだから。クララはあどけない笑みを浮かべ生徒たちに手を振ったり手にした杖を構えたり大忙しだ。とにかく自由奔放である。

「えーっと…アンタレス寮担当の久我くが宗人むねひとです。不束者ですが…ってこれ違うな……」

その隣に並ぶのは少し気だるげなジャージ姿の青年。どこからどう見ても普通の純日本人のはずなのだが、着ているジャージが個性を隠しきれていない。おそらく『元異世界に召喚されたごく普通の男子高校生』だろう。不躾な印象は確かにあるが、それでも全体から溢れ出る好青年らしさはどこから来ているのか……

「フォーマルハウト寮監のルッツ・クロイツァーだ。気軽にルッツ先生と呼んでくれて構わない。」

銀髪赤眼の騎士が厳しく名乗りをあげる。不覚にも『ルッツ先生』で和んでしまったのは気のせいだ。きちんとした所作と目鼻の整った顔立ちはなるほど、女子生徒に人気がありそうである。澄ました顔で自分の仕事は終えたとばかりに次の寮監の自己紹介を待つだけでも背後に光が見えるのが少し悔しい。やめてくれ、俺みたいな平凡な人間はルッツ先生みたいな現実離れしたイケメンになれていないんだ。


「リゲルの寮監を務めさせていただきます。」

最後の寮監が口を開いた。落ち着いた声が講堂に広がる。最後の寮監に全ての生徒の視線が集まった。

佐取さとりつむぎです。よろしくお願いします」

かっちりした黒いスーツに、花のコサージュ。礼をするとともに緩くまとめられた黒髪が柔く動く。

これこそ本当の教師の在り方といった感じだ。自由奔放さに振り回されることもなさそうだし、イケメンによる後光で目が眩むこともない。少し安心して寮監を見つめた。


僅かに自分の中に走る違和感。つかみ所の無い一つの疑問。

……あれ、おかしい。自分の中の神経がくいっと軽く引っ張られた感覚に包まれる。


なんかこのひとは、とてもかなしいかおをしているようなきがする。

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異世界転移も簡単じゃない〜異世界転移者育成学校で夢の転移者目指します!〜 かみゅ @kamikama

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