第2話
「っわぁ……!」
「ほら、だから言ったろ。」
謎のイケメンに意味のわからないことを言われ、一時期はどうなることかと思われたが…手を引かれながら鳥居を抜けると一気に周りの景色がガラッと変わった。
鳥居しかないただの山奥だったはずなのに、壁には絵画が飾られ、綺麗に磨き上げられた床にアンティーク調なシャンデリア……全体的にゴシックな雰囲気を醸し出すそこはまさに俺がずっと昔から憧れていたカルヴィラルそのものだった。
「魔法みたいだ……」
ほぅとため息をついて周りを見渡す俺をイケメンは変なものを見るような目でキッと睨んだ。
「あ?何言ってんだよ、これも魔法だろ。」
「魔法って異世界にしか使えないんじゃないのか?」
イケメンは鳥居を抜けることさえ知らなかった世間知らずへ少し呆れながらも一つ一つ説明をしてくれる。口は悪いけどいいやつなのかもしれない。
「確かに異世界よりはこっちは魔力が少ないけれど、少ないだけであって有能な魔術師がその魔力をかき集めれば魔力なんて普通につかえるだろ。それに俺たちの教師は自分で無限に魔力を生成できる元異世界転移者もいるしそいつらにとっては簡単なことだ。」
そういえばこの学校の大半の教師はもんのすごい力を持つ元異世界転移者ばっかりなんだっけ……。
「あ、そっか…ありがとう」
俺たちは魔法を使う許可を得ている特別な学校に入らない限り、魔法を使うどころかその方法さえ分からないから失念していた。俺もこの学校で一生懸命勉強すればこのくらいの魔法も使えるようになるのかな……。
「っつーか、そんなこと考えてる暇なんてねーんだからな!あともう少しで入学式始まるぞ!」
……そういえばそうだった。鳥居の前でのハプニングは『遅刻寸前』という現状を忘れさせる程の強烈さを放っていた故か……はたまた自分の頭が随分と抜けているだけかなんだかのんびりした気分になってしまっていた。
「ご、ごめん。……入学式ってどこでやるんだ?」
だって入学式って普通学校の中に入ったら順路とかで会場が示されているものだと思って……。新入生に対してあまりにも不親切だと言い訳したくなるが、入学式の情報を全く調べなかった自分の方が満場一致で悪いだろう。
「お前アホか!そんなんで来たのか!?俺がいなかったらどうするつもりだったんだよ!」
「ご、ごめん……」
ものすごい勢いでまくし立てるイケメン。俺の身を案じてくれているのか?……いや馬鹿にされているのか。
「えーと講堂…っつても分かんねーか、とにかく俺についてこい。お前、名前は?」
「か……賀茂透輝。」
イケメンは片方の口角をくいとあげてニヒルな笑みを浮かべる。……うわやっぱイケメンだわ。どうしたらそんなどんな仕草も似合う人間になれんの?教えて?俺に教えて?
「ふーん…あ、俺はラズリ・クロウリー…ってうわっあと6分!?間に合うかこれ…!走るぞ!」
イケメンことラズリが自らの腕につけている時計をそれとなく見たかと思うと俺の腕を再び掴んで走り出す。俺がもし美少女だったら絵になってたんだろうけど……やっぱり無しだな。こいつの握力を考えると美少女の腕が折れちまう。……男でよかった。
随分と入り組んだ学校の中をラズリは右へ左へと駆けていく。その素早さにはまるで迷いがない。
しばらく走ったり階段を登ったりを続けていると、急にラズリーは前方を指差した。
「おい、透輝!遅刻は免れそうだぜ」
へとへとになりながらも何とか顔をあげると講堂の大きな入り口が開かれて中の様子が見える。自分と同じ大勢の生徒が席についているが、まだ正式に始まっている様子は見られない。
「それにしても本当に人が多いな……?」
「あたりめーだろ。日本に限らず世界中から生徒が集まってんだから」
丸い形をしている講堂は数え切れない数の席があり、そのひとつひとつにこれから同級生となるであろう生徒が隙間なく座っており迫力がすごい。上からはシャンデリアの他にも細かい刺繍が施された旗が垂れ下がっており、窓枠の装飾や床に敷かれた絨毯等そのひとつひとつが魔法学校のような不思議な空間を作り出している。まるで小説やゲームの世界のような建物だ。
とりあえず目に止まったあいてる席にラズリと座ると、その時を見計らったように「これから入学式を始めます。」とアナウンスが始まった。周りも、もちろん自分だって、緊張感がぐっと高まった。
アナウンスは続く。
「初等部の皆さん!カルヴィラル異世界転移者育成専門学校へ入学おめでとうございます!ようこそ、夢が叶う場所へ!」
あ、俺今入学おめでとうございますって言われてる……。やっとこの非現実的な場所に居る実感が湧いたような気がした。
俺はいま、ここにいる。この、学校に。生徒として。ずっと憧れていた学校に。
この、夢が叶う学校に!
喜び、不安、期待、希望…俺の中で色々な感情が入り混じる。だけど、どんなことがあったって俺は自分の夢を手放すことなんて決してしない。
絶対に俺は、異世界転移者になってやる。
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