第3話 真っ二つ その6

 目を覚ました時、シオンは昨日の事がすべて夢だったような気がした。


「夢ではありませんわよ」


 白い白い白い部屋。

 差し込む朝日すら白く輝いていて。

 その中で一際輝きを発して微笑むドナの顔。


 それを見てようやく、昨日までの事が夢では無かった事をシオンは理解した。


「夢を……見ました。どこまでが夢だったのか……いえ、どんな夢かもわかりませんが……」


 何かが、何もかもが夢だったような気がする。

 どうしてそんな気がしたのか分からない。

 ただ、そんな気がした。


「きっと、昨日の夢を見たのでしょう」


 そんな気もする。

 繰り返し繰り返し。

 繰り返し繰り返し。

 繰り返し繰り返し。


 何度も何度も、昨日と同じ一日を夢の中で繰り返した。

 シオンはそんな気がした。


「……覚えていません。何も。夢を見たのかすらあやふやで」

「それは重畳。それでは、本日も頑張りましょうね」


 ドナの声に促され、シオンは身を整える。

 その後ろでドナは微笑み待っている。


「本日は、昨日と同じ試しをやって。それから本日のお稽古ですわ」


 いつの間には、ミケラもその横にいて。

 甘く美味しい粥をシオンに摂らせる。


「……そう言えば……」


 そう言えば、ドナとミケラが身支度を整えている姿を見たことが無い。

 食事すらろくに食べている所を思い出せない。


 それでも、ドナとミケラの白い輝きは一片たりとも欠ける事は無く。

 それを不思議に思えない雰囲気を、二人は周囲に漂わせていた。


「どうしましたか? シオン」

「わたくし達に見とれてしまいましたか?」


「ええ。そのようなもので」


 少し頬を赤くするシオン。


「まあ、嬉しいですわ。ね、お姐さま」

「シオンは本当に可愛いですわ。ね、お姉さま」


 ドナとミケラはくすくす笑い。

 シオンの頭を撫で回す。


「それでも、修練に容赦はいたしません」

「厳しく優しくシオンの全身全霊を絞り出しましょう」


「「今日もきっと、忘れられない一日になりましょう」」


 その通りになった。


 修練前に一度だけ行った試しの結果は、すべて昨日をはるかに超えていた。

 為すべき身体の動きも、すべて完璧に行う事が出来ていた。


 まるで、何年も繰り返し行ったかのように。

 思うがままに。意識する必要もなく。

 しかして全て、意識の中において。

 完璧にこなせるようになっていた。


「素晴らしいですわ、シオン」


 ドナは満面の笑みを浮かべ。


「嬉しいですわ、シオン」


 ミケラはくすくすと笑い声を上げて祝福する。


 全て分かっているのだと、長い睫毛の向こうの瞳が語っていた。


「「それでは本日はシオンの剣を見せていただきましょう」」


 きっと今日も。

 明日も明後日も。

 忘れられない一日になるだろう。

 そう、シオンは思った。

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