第3話 真っ二つ その1
あれは、第六階層の主と呼ばれる
とは言え、単体では『勇者』たるルークの敵ではない。
まともに戦えば、苦戦をする理由はない。
しかし、強力な魔物と言う奴は、大抵まともには戦ってくれない。
眷属一匹一匹はそう強くは無い。
ただし、その総量は、物理的に近づく事を困難にさせられる。
特に厄介なのは、常に噴き出してくる吸血コウモリの群れだった。
雲霞の如く現れて、洪水の如く一塊になって襲いかかってくる。
『勇者』たるルークや『剣聖』イーゲルブーア、『魔剣士』コーザにとっては、傷もつかない攻撃だが、後衛の『聖女』二人にとっては、放っておける攻撃ではない。
結局、ルークは飛び交うコウモリの群れを潰して回らなくてはならなくなる。
そして、潰しても潰しても、コウモリはどんどん影から補給されていく。
「こりゃあ中々に堪らんぞ。何か良い考えは無いものですかな。勇者殿」
イーゲルブーアの剣が人の形をしたトカゲのような眷属をまとめて二体切り裂いた。
ルークの脳裏に一瞬、フレアとアリアの二人を見捨てるという選択肢が浮かんだ。
個人的には魅力的なアイデアだった。
ただ、親友はそう言う非道は許してくれない。
だから、駄目だと思った。
「ルーク。あれはどういう魔物なの?」
背後からシオンの声がした。
シオンは盾を振り回し、フレアとアリアに近づく吸血コウモリを叩き落としている。
自身の身体には、至る所に噛み傷がついている。
致命傷には程遠いカスリ傷だが、積もり積もればどうなるか分からない。
回復役のフレアは何をしているのか。
やはり見捨てるべきかと、ルークは割と本気で検討し始める。
「ご友人。見て分からぬか?」
「見て分からない事が、ルークには分かるかもしれないですよ」
嫌味を言うコーザに、シオンは真っ直ぐ目を向ける。
シオンはいつだって正しい。
正しい道をルークに指し示してくれる。
【窓】が次々と開いて行って、
数値化された体力や魔力。
所持する特殊能力。
そしてその特殊能力の詳細を書き記した【窓】が、ルークの前に開示される。
「……あいつが影から出せるのは、無制限という訳では無いようだ。同時に出していられる魔物の数は限られる。弱い魔物は大量に出せるが、強くなるほど数は少なくなる。そういう事らしい」
「さすがルーク。それなら、散開すれば一人あたりのコウモリの密度を下げられる」
「散開しても塊になって追ってきますわよ」
「アリアさんはボクが守ります。フレアさんは防御の魔法で耐えていただければ」
「どうして私達が貴方の指示に従わないといけないのです?」
不満げなアリアとフレア。
不満を顔に出しているのはイーゲルブーアとコーザも同じだ。
こんな新人の若造の意見など、誰が聞くものかと言う空気が漂う。
「オレも新人の若造なんだけどなぁ」
「何か言われましたか?」
「いいや何も。……フレアは魔法で自分を防御。アリアはシオンと一緒に散開。遠間から魔法で眷属の数を減らしてくれ。イーゲルブーアとコーザは露払いだ。オレがつっこむ」
「後、ローケンさんも。隠れていないで撹乱お願いします」
シオンが言った。
「切った張ったは俺の仕事じゃねえんだけどもよ」
どこかに消えていたローケンが、闇の中から声を返す。
「遠くからコウモリを散らしてもらうだけでいいので」
「へいへい。坊やがいると楽させてもらえねえなぁ」
ルークが間合いを詰めれば、
しかしそれは、後衛を攻める吸血コウモリの数を減らすと言う事だ、
そして、コウモリの数が減る程、後衛が自由に動けるようになる。
後衛の援護によって、ルークはさらに前進出来る。
これが戦局の分岐点だ。
魔物と言うものは得てしてそうだ。
倒すための道筋が分かれば、後は流れ作業に近い。
強力な力は持っていても行動には一定のパターンがあり、自ら考えて不測の事態に対応するという事をしない。
第六階層の主と呼ばれる
「いくぞ」
光を纏ったルークの剣が居並ぶ眷属を蹴散らし進む。
その歩みが進む度、影からはより強力な魔物が現れる。
その歩みが進む度、魔物の密度は減っていく。
アリアの魔法が魔物をまとめて焼き払う。
いびつな人型の魔物が影から現れて、その瞬間に勇者の剣の露と消える。
周囲にたかる吸血コウモリから自由になったフレアが、イーゲルブーアとコーザの武具に魔力を纏わせる。
影から巨大な牙と顎の怪物が現れて、その瞬間に『剣聖』と『魔剣士』の剣に屈した。
勇者の光の刃が
滑るように退く
「【術技:雷歩】」
ルークの脚のそこかしこに【術技】が生み出した雷が纏わりつく。
雷は見る間に脚を覆い尽くし、脚そのものへと同化して、半ば稲妻そのものと化した脚が床を蹴る。
「【術技:裂光】」
光が爆発した。
凝集された光が槍のように
そして爆発。
「やれやれ。厄介な相手だったな。なあシオン……」
「ルーク!」
背後から声がした。
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