第4話 新たな戦い
「最低な奴らだよ。本当に最低な奴らだ」
雅男は怒りを絞り出すように語り出した。
「こんな奴隷制みたいな会社がこの今の世の中にあるなんて信じられない」
それは誰もが知っている大手の大企業の話だった。
「労働者から労働力を巻き上げるだけ巻き上げて、のうのうとしている。それで訴えられたら、裁判で逆に訴え返す。金のない労働者たちは勝てっこない。それを見越して全てやっているんだ。しかも従業員は全員、個人事業主として契約しているから労働法も適用されない。本当にやりたい放題さ。本当に酷い話だ。本当に現代の奴隷制だよ」
ものすごい憤りを、雅男は表情に出していた。
「酷い話だね」
私のことではなかったことに少し安堵しながら、私は言った。
「ああ、酷いなんてもんじゃない。これを真っ当な会社経営としてやってるんだから、酷いもんだ。経済界じゃ大絶賛されてすらいるんだ。新しい経営モデルとして」
「どうするの?」
「もちろん戦うさ」
雅男ははっきりと決意を込めた顔で私を見た。
「でも、相手は大手の大企業でしょ」
「ああ、でも俺は戦うよ」
雅男は、凛とした目で言った。
「・・でも」
「でも?」
雅男は黙ってしまった。
「どうしたの」
「・・・金がない」
雅男は力なく言った。
「みんな貧しい人たちだ。弁護料なんて全く期待できない。それに僕も金がない。僕が普段やっている仕事は金にならない仕事ばかりだ」
雅男はうつむいてしまった。
「お金のことなら・・」
私がそう言いかけると、雅男は再び顔を上げ、私を真剣な表情で見つめた。
「君には本当に迷惑をかけると思う」
「ううん」
私は首を横に振った。
「もうかけてるかもしれないけど、これからは本当に大変なことになるかもしれない」
「うん」
全然かまわなかった。雅男のためならなんだって耐えられる気がした。
「本当にごめん」
「ううん。雅男の好きなようにすればいいと思う」
「ありがとう」
雅男は私を抱き締めた。雅男に抱かれ、私は幸せだった。私は雅男が幸せなら私も幸せだった。
「でも・・」
「でも?」
「お金が・・」
「お金のことならなんとかなるよ」
私は明るく雅男を見つめた。
「でも・・」
雅男は深刻な顔で俯いた。
「・・・、もう、そうも言ってられないんだ」
雅男は暗い表情をした。
「どうして」
「うん・・」
雅男は、それ以上は語らなかった。
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