無限米
「お昼の時間にこんにちは! 異世界テレパシーショッピングのお時間です。ご紹介するのは私、ナナ=ビンテージと?」
「クーヘンだよー!」
「さてクーヘン君、君は農業をやったことはあるかな?」
「ないよ。ありわけないじゃない。バカじゃないの?」
「多くの方は同じような感じでしょうか、ちなみにやるご予定は?」
「なんでさ。食べ物なんかラーメンがるんだし、今更お米とか、それに面倒じゃない。土で汚れるし、虫も湧くし、収穫に一年ぐらいかかるんでしょ? やだよそんなの」
「はいこの気持ち、皆さまも共感なさるのではないでしょうか? それでも未熟な異世界、虫のような現地人を養うため、優しいお客様方は嫌々なさっているその汗、我々に拭わせてください」
「何言ってるかわかんないよ」
「今回、ご紹介いたしますのはこちらガラスケースの中のお米、稲になります」
「うわーーお米ってこうやって実るんだね。新鮮だからまだ動いてるよ」
「そうじゃあないんです。実はこれ、ただ動いてるのではなくこうしている間も成長、増殖してるのです!」
「え! ぞ、増殖だってー!」
「そうなんです! 今回ご紹介しますこの、無限米は独自開発いたしました品種改良、それも遺伝子組み換えではなくて、魔術による『クリマンジュウ=エフェクト』を用いまして、圧倒的な繁殖力の獲得に成功しました! どれぐらい凄いか、一粒出してましょう」
「あ」
「部外者はお静かに。はい、もう見えますでしょうか、取り出した籾のついた米粒、それがほら、指の上でもう発芽して、ほらほら茎が伸びて入りが変わって、もう黄金色、たわわに実って収穫できます」
「え! もう食べれんの! 十秒そこらじゃん! 食べたい!」
「ハイ、そうくると思いまして試食の方を、こちら、普通の炊飯器で炊いただけで具のないおにぎりですが用意してありますので、どうぞー」
「いただきまーす!」
パク。
「不味い」
「クーヘン君?」
「何これ食べ物かよ。甘いには甘いけど食べ物の甘さじゃないし、臭いもまるで工作の時のノリみたいだし、感触だけご飯であとはまがい物じゃないよこれ」
「クーヘン君、これ、それを売るんだよ?」
「社長、僕悪いことした? 確かに見た目も運動も上手くなくて、コーポレーションに上手く貢献できてないけどさぁ。それでも頑張ってるんだよ?」
「いや、そういうのは後で」
「誤魔化さないでよ! それで怒られたり、クビになったりは仕方ないけど、こんな、こんな嫌がらせって」
「……はいこれ」
「うっわー! ドローンじゃん! 携帯電話で動かすやつ! これ高いんだよ! もらっていい?」
「遊ぶのは紹介が終わってからね。それでではこのお米、最大の売りはなんと言っても繁殖力! ほらほら発芽して、まだ増えます!」
「すっごいドローンの上でもうすんごい生えてるよ!」
「勘の良い方ならもうお気付きかもしれませんが、この稲、根を張っておりません。証拠にこのように、生えてる途中の稲なんかは簡単に持ち上げられますし、根がどこにも接してない状態でもドンドン成長してます」
「面白!」
「実はこれ、農作物に必要な土、水、太陽光、一切必要ありません! ただ適度な温度、人が生存できる環境、増えるだけのスペース、それさえあればノーコストでいくらでも、文字通り無限に増殖するのです!」
「うっわチートじゃん!」
「正にその通り! たった一粒のお米、この商品があればあらゆる環境の食糧問題がまとめて解決できます! さらに食べずに藁を燃料とすればエネルギー問題までも解決できるのです!」
「あっそーか! これ買ってすぐにお米売ったら実質タダじゃん!」
「ただどころか丸儲けです! 今すぐご注文を……ちょっとちょっと、ヤスダ君やい…………無視しないで」
「……番組無茶苦茶にした素人以下は正座して私の仕事ぶりを見学してろ、とおっしゃったのは社長では?」
「そこまで酷く言ってないよ。それよりもこれ、どうやったら止まるの?」
「止まりませんよ」
「え?」
「無限増殖、どんな陸地も、海水の上でも、それどころか他の動植物の上でもひたすら増え続ける、グレイグーならぬライスグー、止める手段がないからあそこは滅びたんです。だからガラスケースから出すなと言っておいたはずですが?」
「いやそこをなんとか、頼むよー」
「……増えてるのが、このスタジオ内だけでならまだなんとかできますが、こいつが引っ付いたドローンが外へ飛び出して広げていったら手の打ちようがないですね」
「発進!」
「あ」
「終わったんだからいいんだよね?」
「………………はい! ここでみなさまにお知らせ! 次回より異世界テレパシーショッピング、新しいスタジオからお送りします! それと同時にここで予告です。新スタジオ引越し記念にプレゼント企画を用意してますので、みなさま、乞うご期待!」
「うぉすっげ! 一面稲だらけじゃん!」
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