カレー鍋ハンマー

「さぁ始まりました異世界テレパシーショッピング! 今日も張り切って参りましょう。ご案内するのは私、ナナ=ビンテージと?」


「クーヘンだよー」


「では早速、クーヘン君は何が好きかな?」


「野球好き。今年の甲子園酷かったね。球数制限とか、選手が肩を壊して野球人生台無しにする間際の輝きが好きでみんな見てるのに、あんなんだからメジャーに勝てないんだよ。そこんとこ僕にやらせてくれたら」


「クーヘン君、そうじゃないだろ? いつも口にしてることだよ」


「あぁエロゲーか! そうそうこの間かなり電波なやつ見つけてさぁ。内容も時事ネタやばいのぶっこんできてるんだけど、それ以上にサブヒロインが社長そっくりで」


「そう! 食事だ! クーヘン君も食べるの大好きだろ?」


「いや、そんなでもないよ」


「そうそこが問題だ! 夢にまでみた異世界、中世ヨーロッパといえば聞こえはいいけど、要は昔話、野蛮な時代だ。調理も焼くか煮るか、味付けも塩味があれば王宮料理、ほとんどが腹に入ればそれでよし、栄養も何もない酷いものだと相場が決まってる」


「そうだね。こっちに来てラーメンが奇跡の食べ物だったと思い知らされたよ」


「そこまではまだ、まぁ我慢できるでしょう。ですが悲しいことに、彼らは食べるために生き物を殺すのです」


「そうそう、村の端とかに普通に屠殺場とか隠さないであるよね」


「そうなんです。野蛮にも残酷にも、食べるために殺します。豚を屠り、鶏を絞め、魚を捌き、挙句に何の罪もない野生動物を追い立て、狩り殺すのです」


「文化の違いってやつだね」


「そんな劣った文化に染まりたくない、でもお腹は減る。そんなあなたたちへ今回ご紹介しますのがこちら、カレー鍋ハンマーです!」


「これは、何? フライパン?」


「形状は似てますが、使い方は鈍器です。鍋本体と長いグリップはチタン合金、さらにグリップには滑りどめのゴムコーティングを施してあります。蓋を開けた中はご覧の通り魔法陣とテフロン加工で、追加でエンチャントして大丈夫な設計です」


「それ意味あるの?」


「ありますとも。さてクーヘン君、ちょっと持ってみてください」


「うーん、程よい重さかな? ちょっと軽すぎる気もするけど、その分扱いやすそうだね」


「それでそこの、椅子に縛られてる男を殴って下さい」


「んーー!」


「こう?」


 ゴン!


「はいそのまま、殴り殺しちゃって下さい」


「こうかな」


 グシャ!


「はい結構です。ご覧ください。今ので蓋の、ここの宝石に光が灯ったのがわかりますね。それでは蓋を上にしてここに置いてください」


「こう?」


「そうです。ではクーヘン君、実はこの中には君の大好きなあの料理が入ってるのです」


「マカロニグラタン!」


「カレー鍋ってのに、しかもラーメンでもバームクーヘンでもないんだ。でもだいじょーぶ! 蓋に手をかざし、魔力をほんの少し、そうです、ほら宝石の光が消えましたよ。それでは開けてみてください」


「え、カレー入ってるし、空だったのに」


「そうなんです! こちらのカレー鍋ハンマーは、人を殴り殺すことで対象の命を魂を鍋に封じ、それを用いていいですか? なんとカレーを作り出すことができるのです!」


「真っ黒だけど食べれるの?」


「殺す対象は誰でも構いません。エルフだろうがネコミミだろうが、老人から赤ん坊まで、悪魔召喚儀式を応用したこの鍋を用いれば一人は一人、一人で一皿が作れます!」


「あ、ライスもナンも無し?」


「カレーのストックは最大で五十人分、五十食をこのハンマー一つ持ち運ぶだけで、どこでも作りたての美味しさが味わえるのです!」


「手掴みって、本場はそうかもしれないけど、けど本場ってガンジスじゃん?」


「何よりも自然に優しい。異世界の技術ですとカレー一つ作るにも具の肉でしょ? ルーでしょ? スパイスも殺さなければなりません。そんな虐殺をしなくても十分美味しいカレーこれ一つで食べられるのです!」


「う、美味い! 美味すぎる! なんだこれは! 食べる手が止まらないぞ! まるで麻薬を貪ってるみたいだ!」


「さぁみなさん。食べるために殺す残酷な生活からオサラバしましょう。これからは文化人として命を尊ぶ食事を、このグルメ鍋ハンマーと一緒に始めようではありませんか!」


「カレー! モットヨコセ!」


「色は赤と青の二種類をご用意! ご注文はこちら!」

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