第2話 おとぎ話
「そんな、まさか……」
「あぁ、まさしくヴァンパイアによる、吸血事件のようだ」
「本当に、そんなこと有り得るんでしょうか」
「さぁな。でも、検死結果が嘘ってことはないはずだ。てことは、何か裏があるんだろ」
「“裏”……。ところで先輩、これ、どうやって報告します?」
「んー、そうだなぁ」
―捜査会議―
「――と言うことで、この事件はフィクションや迷信、宗教観の中などに登場する、所謂『ヴァンパイア』によるものだと、犯人によって偽装され作り上げられた殺人事件であると考えております」
(先輩。押し切りましたね)
(見たかお銀。これが俺の実力だ)
報告をしていた肉体派刑事、牧田俊介が、自慢するようにちらりと銀子の顔を見た。が、その顔はいつも通り冷ややかな顔だった。
捜査一課係長が話を続けた。
「つまり君、愉快犯によるものだということか」
「はい、そういうことです」
「だとして、その方法は分かっているのかね」
「それについては現在捜査中です」
牧田が報告を終え座ると、係長が眉間にしわを寄せ、荒く鼻息をついた。
「愉快犯によるものなら、無関係な人間が巻き込まれて、もっと被害者が増える危険性が大いにあるな。方法を探るのも重要だが、まずは被害者の近辺、ここ数週間の行動を探ること、それから、現場周辺の防犯カメラを今一度徹底的に調べること。それが最優先だ。では管理官」
係長が話し終えると、その横に座る年若い青年のような男がサァッと立ち上がった。ピッシリと決めた鮮やかな青のスーツは輝いて見え、また、実際に「サァッ」という音が聞こえそうな立ち姿だった。
「迅速かつ丁寧に洗い出し、一刻も早く犯人を突き止めましょう。では皆さん、捜査に取り掛かって下さい」
「よし行くぞ!」
捜査員が一斉に声をあげると、その直後には蜘蛛の子を散らしたように、それぞれ会議室を後にした。
会議室を出た銀子と牧田は、まず現場周辺の防犯カメラの確認を再度、範囲を広げて行うことにした。
「うぅ、膨大な量だな、こりゃ」
「当然です。近くのコンビニから駐車場、駐輪場。ありとあらゆるところに防犯カメラはありますから。そのすべての防犯カメラをしらみつぶしに見ていくんです。時間帯を絞ってるとは言え、仕方ないですよ」
「わかっちゃいたけど、こりゃ、しばらく寝れねぇな」
第一の事件から二週間後のある夜。第一の事件の被害者と同じく女子大生、交野朋子(かたのともこ)は、吸血事件の報道を見て不安を覚え、それからは同じ大学の友人、金城ふみと共に帰宅することにした。
この夜も他の友人数名と遊んだあと、二人で帰路についた。
「でもさ、ホント近くてよかったよ」
「バス停から歩いてすぐだもんね」
「それもだけど、朋子んちとも近くだから、こうして送ってけるし」
「そうね。一人だったらもう、恐くて夜歩けないし」
笑い合いながら他愛のない会話も交えつつ歩いていくと、二人の家が見えてきた。
「あ、そろそろだね」
「あ~、家見えるとホッとする」
「確かに」
「ねー。じゃあ、ここで」
「うん、またね」
ふみの家の前で二人は挨拶を交わしそれぞれ別れた。今日も無事に家に帰りつくことができた、そう安心しきっていたふみであったが、しかしながら、今日は違った。
ふみが家の玄関扉のノブに手をかけたその時だった。
「キャァーッ!!」
「っ……朋子!?」
すぐ近くで女性の悲鳴が上がり、その声の特徴からすぐに、友人の朋子のものであると確信したふみは、慌てて道路へと飛び出し、朋子の家の方を見た。するとそこには、家の目前で何者かに背後から襲われている友人の姿があった。その顔は、やや生気が抜けつつあるようであった。
「朋子!!」
血の気の引いていく友人の姿に、ふみは思わず声を上げた。すると、朋子を襲っていた何者かがハッと顔を上げた。バチッと目が合ってしまったふみは、硬直し、同時に小さく息をのんだ。
周りの家々から漏れる薄明かりに照らされた、目鼻立ちのしっかりとした端整な顔。その口元は、友人・朋子のものであろう、血が、べっとりとついていた。
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