普通ですけど?

@Tazakiseizure

第1話

いらない、と言う日本語が通じない人がいる。

意味が分からない。

恐らく何かを期待しているであろうその人は、

「これ、欲しかったでしょ?」

っと言う勢いで、微塵も欲しいと思わないモノを突き出してくるのだ。

まぁ、こんな僕にモノを施してくれるのだ、きっと良い人なのだろう。

しかし、彼女の食べかけの菓子を両手を上げて受け取ったならば、僕はただの変態にしか見えないはずだ。

だがしかし、コレを素気なく断わったならば、僕の人間性は疑われ、冷たい奴だと白眼視されるに違いない。

そして、他人の食いかけの食品など、迷惑以外の何ものでもないのは、偽らざる本心なのだ。

良し、丁重にお断りしよう。

「今、お腹いっぱいなので、遠慮させて頂きます。」

うん、おかしな言い回しでは無いはずだ。

だが彼女はこう言うのだ。

「え?何で?」

と、理由は今言った筈なのだが?

恐らく、僕の言い方が悪かったのだろう。

こういった場合はリトライだ。

「お腹いっぱい何ですよ。」

これで意味は通じるはずだ。

そして僕はその場を立ち去っ…る、事は出来なかった。

「あぁ、遠慮しなくて良いから、」

…、まっっったく遠慮はしていない!

だが、丁重にお断りしたつもりが、遠慮している様に見えたのかもしれない。

誤解を招くような言い方をした僕が悪いのかもしれない。

もっと、はっきり断らなくては。

「今、もらっても、食べないので、無駄になってしまいますから、いらないです。」

良し!言った!はっきり言ったぞ!いらない、と言う言葉を使ってやったぞ!これで彼女も分かってくれるはずだ。

「ううん、大丈夫だから!」

何が?

大丈夫って、何が?

残念ながら、彼女には何も伝わっていなかった。

もっとストレートに言っても良いのだろうか?

「いや、本当にいらないンで。」

加減が良く分からない、ちょっと強めに言ってしまったかもしれない。大丈夫だろうか?

「えぇ〜、じゃあサ、捨てても良いから。」

捨てても良いって、もうソレ、僕にとってはゴミじゃん。

その、ゴミ的なモノを何故こんなに推してくるのだろか?意味が分からん。

「もう、休憩時間終わるので、戻りますね。」

僕はそう言って逃げ出した。

また逃げてしまった。

こんなんだから、コミュ不全とか言われるのかもしれない。

でも、何かもう、日本語が通じる気がしなくて、怖かったンだよ〜。

そりゃ逃げるよね?逃げるしか無くない?

少々の心苦しさはあったものの、逃げ出せた安堵で、残りのバイトはスムーズにこなせた気がする。

仕事が終わり、休憩室に帰ると、僕宛にメモが置いてあった。

(さっきのお菓子、置いておくから食べてね)

メモを読んだ僕はゾッとした。

見ると、メモの下にはちり紙が。

チラッと中を見てみる。

食べかけの、むき出しの菓子が入っていた。

そっとゴミ箱にさよならをして、僕は帰路に着いた。

世間一般の方々はいったいどうしていらっしゃるのだろうか?と、尽きぬ疑問が僕の胸中を占めるのだった。




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