乱世に吠えし災厄よ

未翔完

序文


 大洋の上に浮かぶ、一つの大きな陸塊。 

 鬱蒼と茂る森林。広漠と続く大平原。堂々と流る大河。

 ルミエルド大陸と、そこに生きた人々の物語を。

 ここに語ろう。



 大降誕Nativitas Dominiから666年後。

 ルミエルド聖暦六百六十六年。

 後世の歴史家たちは、その年を「暗黒時代Saeculum obscurumの一つの終わり」と位置付けた。

 

 ——――その年。大いなる闇が消え去り、薄弱なる光が立ち現れた。

 暗黒の中世が終わり、近代へと連なる啓蒙の時代が始まったのだ。


 勿論そんな見方は一面的で、観念的で、実情を捉えていたわけではない。

 それでも彼らは本気でそう信じていたし、信じざるを得ない歴史的背景もあった。


 なればこそ。

 暗黒と決め付けられた時代に生きた人々が何を信じ、何を考え、如何に行動したか。何故なにゆえ信じ、何故考え、何故行動したのか。

 それらを数多の視点から見つめ、彼らの姿を活写しなくてはならないだろう。


 さて。

 読者たるあなた方がこれから目の当たりにするのは、架空の大陸ルミエルドを舞台とした幾千もの出来事の連続。ルミエルド聖暦六百六十六年へと続く物語。

 

 語る視点は数百とあれど、やはりその中心点は一人の男に尽きるだろう。

 〈災厄さいやく皇子おうじ〉。またの名をディアークと言う。

 

 この物語は、彼を目撃した一人の異邦人の視点から始まる。

 舞台は、大陸の地理・政治的な中心地。

 アルザーク帝国の〈帝都〉グラーフェンヴェルグ…………。


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