②
「いつも言ってるじゃないですか、僕に命令しないでくださいって。僕たちは協力者なんですからー。僕とアナタの利害が一致するなら、言われる前にやりますよ」
……嗚呼、そうだ。私たちは、協力者。共犯と呼んだ方がより正確か。
ディアークはあの屋敷で、自分を協力者と呼んだ。しかし。
協力者、共犯など、
何故なら。
「……そうだな。年齢や身分に違いはあろうとも、私たちは互いに利用し合っているだけなのだからな。私は私の目的の為に、お前も自身の目的の為に」
ディアークが自らに言ったように、協力者とは対等な関係だ。
だが、それだけではない。
互いの目的の為だけに協力し合う、ただそれだけの、それ以上でもそれ以下でもない関係。対等で、ただそれだけだから、以上も以下も無い。離れることはあっても近づくことは無い。仮にも主従関係が結ばれるのなら、そんな関係は協力者ではない。
ディアークとの関係は、そんなものでは。
……では、どんな関係だというのだ?
レイナードは自らの内奥から湧き出す疑問を今は考えないようにして、ガーブリエルの方へ向き直った。今は、考えても答えが出ないことを知っていたから。
「ところで、その馬車をどうする気だ?」
魔術による変装を解いた今でも御者台に座り続けている青年に、老爺は問う。
普段使いするものでは無いとはいえ、その馬車はディアークの屋敷に長年置いてあったもの。〈災厄の皇子〉のものということはグリューネヴルム帝室が所有していることと同義だ。それを勝手に持ち出すことは、これから従士長となる者としてはけして看過できない問題だ。すると、馬車の中から何やら呻き声が聞こえてきた。
一人ではない、複数人だ。それに微かだが、馬車が揺れているのも分かる。ガーブリエルはニヤッと笑って馬車の中を覗き込んだ。
レイナードも釣られて、怪訝な面持ちのままの顔を車体の方へ向けた。
「今まで魔術で眠らせておいたんですが、ちょっと手が滑りまして」
そこにいたのは、貧相な身なりをした大柄の男たちが三人。野蛮な人相を隠すどころか黒髭をおぞましく生やし、顔の所々に斬られた跡がある。そんな歴戦の強者、というよりも熟練の盗賊たちの表情は恐怖に歪んでおり、彼らの口は後頭部から伸びた赤い布で覆われている。同じように、手足もきつく拘束されていた。
レイナードは
それから青年が指をパチンと鳴らすと、盗賊たちはすぐさま眠りへと
「ハールダムに連れ帰るつもりか。……すぐに馬車を返すつもりはあるんだな?」
ガーブリエルは肩を竦める。こういう場合、彼の回答は「
ということは、ここで別れたとしても青年と再会する日は近いということだ。
「市民であるなら、魔導伯といえども魔導士として徴発することはできない。しかし農民やら盗賊なら、魔導士としても、実験体としても、いくらでも使役することができる……。『都市の空気は自由にする』とはよく言ったものですねー」
「それも、お前が仕える主からの命令か?」
青年のおしゃべり好きが昂じて出た、取り留めもない、返してくれることも期待していない言葉の羅列を無視して老爺が問うと、ガーブリエルはまたも肩を竦める。
レイナードはもはや何も問うまい、と別れの言葉を告げる。
「そうか。なら良いのだ。……そろそろ、私は宿営地へ――――」
「おっと! まだ帰らないでくださいよー」
しかし青年の言葉で、既に帰路に就こうとしていた老爺の足は止まる。
何か用かとレイナードが問う前に、ガーブリエルは無邪気に言った。
「アナタが散々質問して、応えてやったんだ。僕からも質問させてよー」
レイナードは少しうんざりとしながらも、青年の指摘が正しいことは分かっていた。首肯するも、どうせ仕様もない問いかけだろうと高を括って、視線をガーブリエルから狭苦しい街並みへと移した。吹き抜ける夜風の冷たさをローブの上からでも改めて感じ、帝都の四月はここまで寒かったかなとふと過去を追想する。だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます