アダバナハヨミヨリカエリザク(4)
※
みんなでさがしてみたけれど、穴があいたおカネは5まいだけしかみつからなかった。
5円が4まいと、50円がいちまい。あとは100円とか10円とか、かみのおカネがいくつかあったけど、穴があいてないからダメだねってなった。
「10円にあなをあけたら、5円みたいになるかな?」
ショウタくんがそう言ったけど、クルミはおにいちゃんにおカネをこわすのはわるいことだって教えてもらってたから、クルミも「おカネをこわしたりするのはダメなんだよ」ってみんなに教えてあげた。
みんなも「じゃあダメだね」って言ってくれた。
でも、じゃあどうしようか? って、こまってしまった。
そしたらカケルくんが、かわりをみつけてくれた。
おカネじゃないけど、丸くてうすくて、おカネみたいで、まんなかに穴があいてる。カケルくんは、今日のあさにオネショしてしまって、だからメイヨバンカイっていうののために、がんばってさがしたみたい。
カケルくんはいちばん小さいんだから、しかたないのに。
でも、これで6まいになったのはよかった。
ヒモはよういしてたからダイジョウブ。
ほそくてかたくてキラキラした銀色の……ネックレス?
ほうせきとかついてなくてヒモだけだから、これに6まいつければ、クビからさげられてちょうどいいとおもう。
5円を4まい、50円をいちまい、おカネじゃないのをいちまい。銀色のヒモを穴に入れてつなげてみる。
……やっぱり50円と、おカネじゃないのの色が、なんだかちがう。
マンガにのってた〝ろくもんせん〟は、こんなじゃなかった。
でも、むかしのおカネはない。
今のおカネもこれだけしかない。
どうしようか? って、こまっていたら、ネコさんが「大丈夫」って笑ってくれた。
だから、ユキムラのところにもっていった。
ユキムラは、ネコさんのリョウジンさんといっしょに、おそとにいた。
まわりの〝ちけい〟をしらべて、〝さくせん〟をねっていたみたい。そういえば、マンガでも、ユキムラはそんなことしてた。
たたかうために、そうしてた。
じゃあ、これからユキムラたちは、わるいオバケとたたかうのかな?
「今は外に出るな。下でおとなしくしていろ」
ユキムラがおこったみたいなカオでそう言った。
うん、やっぱり、そうなんだよね。
だから、ユキムラはおこってるんじゃなくて、クルミたちをしんぱいしてくれてるんだとおもう。
だって〝アカぞなえ〟はヒーローだから。
カイナがクルミを守ってくれるみたいに、ユキムラはみんなを守ろうとしてるんだとおもう。
だから、みんなでつくった〝ろくもんせん〟をあげた。
ふしゃくしんみょうのろくもんせん。
ユキムラがなくしちゃったって言ってたから、みんなでがんばってつくったんだよ?
ユキムラはもらってくれたけど、なんだかこまったようなカオしてた。
やっぱり今のおカネだからダメかなっておもったら、よこにいたネコさんのリョウジンさんが「素直に喜べ」って言った。
ユキムラはスナオじゃないみたい。
さっきもおこったみたいなカオしてたのはそれでかな? いっしょに遊んでくれてるときも、あんまり笑ってなかったね。
「……〝ろくもんせん〟……うれしくない?」
カナちゃんがきいてみたら、ユキムラはやっぱりこまったみたいなカオで、でも、ちょっとだけ笑ってくれた。
「もう、なくしちゃダメだよ?」
セナくんが言ったら、ユキムラはこんどはスナオに笑ってくれた。
よかった。
クルミはホッとして、このことをカイナにもホウコクしようっておもった。がんばったから、カイナにほめてもらおうっておもった。
「カイナはどこ?」
クルミがきいたら、ネコさんのリョウジンさんが「下の休憩室……畳の部屋で寝ているぞ」って教えてくれた。
クルミはありがとうって言って、すぐにタタミのおヘヤにいった。
いそいで、はしって、カイナのところにいった。
〝ねているよ〟って言ってたけど、カイナがクルミのいないところでねちゃったことなんて、いちどもないし、へんだなっておもったから。
タタミのおヘヤに入ってみたら、ネコさんのリョウジンさんが教えてくれたとおりに、カイナはねちゃってた。
おヘヤのまんなかで、あおむけになって、目をつぶってる。
クルミはカイナのとなりにすわって、カオをのぞきこんでみた。
なんだかくるしそうなカオ?
コワいユメをみているのかな……?
「………………………………」
カイナが小さい声でなにか言ってる。ねているのにしゃべるのは、ネゴトっていうみたい。
だれかに、あやまってるの?
ユメのなかで、だれかにわるいことしちゃったのかな?
かなしそうなカオ、くるしそうなカオ、だから、おこしてあげたほうがいいよね?
「カイナ、カイナ、おきてよ、カイナ……!」
クルミはカイナのかたをいっしょうけんめいおしてみたけど、カイナはくるしそうなままで、ぜんぜんおきてくれない。
「カイナ……どうしちゃったの?」
「彼は、己の罪深き因果を思い出したのでしょう」
知らないヒトの声がうしろからきこえた。
クルミはびっくりして、すごくコワくて、そっちをみたくないっておもった。
「生前に犯した罪、囚われた業、死してなお魂魄を呪縛する因果の記憶。自ら刻みつけながら、その痛みに堪えきれず、意識の水底に沈め込んで閉ざしていたそれを、彼は思い出してしまった。重すぎる罪悪感は、意識を塗り潰す……無念に
その声はゆっくりゆっくり話すけど、コトバがむずかしくてクルミにはわからない。
「ふふ、つまりですね……彼は、とても悪いことをしたんです。絶対に
わるいこと?
だから、カイナはかなしそうにあやまっているの?
「悲しい、そして哀れな人だ。彼は失った腕を探し続けている。どこにもありはしない腕を、見つかるはずの無い腕を、探し続けている」
どこにもない?
みつからない?
どうして?
「彼の腕は見つかりはしない。それは望んで失ったもの。彼が自ら選んだ
うしろにいるコワいヒトが、かなしそうな声で言った。
かなしそうで、やさしい声。カイナのことを〝かわいそうだね〟ってなでてあげるような、そんな声。
やさしいのに、けど、なんでだろう?
カイナをそんなふうに言われるのが、なんだか、すごくイヤだなっておもった。
うしろにいるコワいヒトは、なんだかおウタでもウタうように、きれいな声をあげる。
「いざ、彼を縛する全ての罪に報いを示そう。彼を苛む全ての罰に終わりを告げよう。現世をたゆたう哀れな死人に、救いを与えよう」
しゃん♪ ……って、きれいな音がきこえた。
きれいな音、知ってる音、ケンおじちゃんが、カタナをつかうときとおなじ音。
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に、在りし場所より、御許へ還ろう。我らの祈りは、必ずや〝天〟へと届く……」
なにを言ってるんだろう?
わかんない……わかんないけど、わかんないのに、わかった気がした。
きっとこのヒトは、おにいちゃんをつれていったように、カイナのことをつれていってしまう気なんだ。
イヤだ……って、おもった。
それは、ぜったい、ぜったい、イヤだっておもった。
だから────。
クルミはたって、ふりむいて、そのクロいヒトをみた。
ながくてクロいかみ。
ヒラヒラしたクロいふく。
よるのおそらみたいにまっくらな目。
きれいだけどコワいそのカオを、クルミはジッとみかえした。
カイナを守らなきゃって、つれていかせないって、りょうほうの手をいっぱいにのばして、とおせんぼしてるクルミに、そのクロいヒトは、きれいだけどコワいカオで笑った。
「……その亡者を、守ろうとしているのですね?」
「………………」
「大切な誰かのために、己の身を尽くす……素晴らしい……とても、素晴らしいです。それはとても素晴らしく、そして、
けれど────。
「いかに尊いからといって、〝でうす〟は手を差し伸べてくれはしない。さあ、小さなお嬢さん。あなたは、その無力な
クロい目が、もっともっとクロくなって、ギロリってしてくる。クルミはコワくて、うごけなくなって、そんなクルミに、クロいひとはもってる金色のカタナをゆっくりと────。
「……さあ、喜びを、分かち合おう……」
ウタうようなきれいな声。
金色のカタナが、まっすぐクルミのほうにおちてきて、クルミはコワくて目をつぶっちゃった。
まっくらになって、ヒュッて音がきこえて────。
でも、そしたらだれかがクルミをギュッてしてくれた。いつもとおんなじ、カイナがしてくれるのとおんなじだったから、クルミはいそいで目をあけてみた。
「カイナ!」
カイナがおきてた。
おきて、いっぽんだけのウデでクルミをだっこして守ってくれてた。
「……テメエ、クルミに何してくれてんだ……!?」
カイナのおこった声。でも、なんだかくるしそうな声。
クロいヒトは、ふしぎそうなカオでこっちをみてる。
「少女の危機に覚醒したのですか? 素晴らしい、まるで物語ですね」
金色のカタナがまたヒュってうごいて、カイナがそれからクルミを守ろうとしてくれる。
でも、いつものカイナじゃないみたい。なんだかおそい? いつもはもっとビュンってかんじなのに。
おきたばかりだから?
クルミをだっこしてるから?
ちがう、それだけじゃない! だってカイナのせなかからアオい火がいっぱいでてる! さっき、クルミのかわりにきられちゃってたんだ!
クロいヒトのカタナがヒュンヒュンうごいて、どんどんカイナからあたらしいアオい火がでてる。カイナのウデはいっぽんしかないから、そのいっぽんだけのウデでクルミをだっこしてるから、クロいヒトのカタナをとめられない。
「カイナ! カイナ! はなして!」
クルミはたくさんたのんだけど、でも、カイナはきいてくれない。
「黙ってろクルミ、俺ぁ、オメエを守る。そう約束したろうが」
うん、うん、ヤクソクしてくれた。でも、このままじゃカイナが……!
でも、カイナはもっとギュッてクルミをかかえこんじゃう。そんなカイナを、クロいヒトはすごくつめたい目でみおろしてきた。
「少女を庇い、燃え尽きる。あなたが消えれば、私はすぐに少女を斬る。無意味な延命だ。そんな因果に、何の意味があるのですか?」
「……ハッ! だからコイツを見捨てて手放して、自分だけでも勝ち残って見せろって……? 冗談じゃねえ……! 俺ぁ守るんだ……! 今度こそ絶対に守り抜くんだよ……!」
がんばってしぼりだしたみたいな、くるしそうな声で、ぜったい守るってカイナは言った。
なのに、そのウデがうごいて、クルミからはなれちゃった。
クロいヒトがおどろいて目を大きくあけた。
けど、クルミはおどろかなかった。カイナがぜったい守ってくれるのをわかってるから、おどろかなかった。
カイナのカラダがビュンってうごいて、クルミのカラダがフワってなって、〝ドン!〟って、なにかがバクハツするような大きな音がきこえて、気がついたら、またカイナにだっこされてた。
なにがおきたの?
みたら、すぐまえにいたクロいヒトがいない。
ううん、むこうのカベのとこにいた。すごいチカラでとばされてカベにぶつかっちゃったみたいなかんじだった。
よくわかんないけど、クルミから手をはなして、すごくはやくクロいヒトをたたいて、またクルミをかかえたのかな……?
「……へへ……〝居合い斬り〟ならぬ〝居合い拳〟ってとこか……練習不足のぶつけ本番だったが、結構イケるじゃねえか……」
カイナがくるしそうに笑ってる。カラダじゅうからアオい火をだしてくるしそうだけど、それでも〝やったぜ〟ってかんじで、笑ってる。
カベのところにたおれたクロいヒト。
カイナは、たぶん、トドメっていうのをさすためにちかづこうとしたんだとおもう。でも、きゅうにチカラがぬけちゃったみたいに、すわりこんじゃった。
目をつぶって、ガクってなってて、それでもまだクルミを守るみたいにギュッてしてくれたまま。
「カイナ!」
なまえをよんでも、へんじしてくれない。
アオい火はまだいっぱいでてる。どうしようっておもってたら、カベのところにたおれてたクロいヒトがおきあがっちゃった。
クロいヒトはぐるりとまわりをみて、たたかれたおなかをみて、カイナとクルミをみて、自分でもっている金色のカタナをみて、それから、ニッコリと笑った。
「その咎人は、まだ目覚めぬはずだった。目覚めても、まともに動けぬはずだった。抗い切れぬままに刻まれ、燃え尽きるはずだった。しかし、私はこうして打ち飛ばされている…………彼は、ここで滅ぶ運命には無いということか? 因果が導くのは、やはり、隻腕の鬼との
きれいな声。
きれいなだけのコワくないカオで、クロいヒトは言う。
「奇蹟には
クロいヒトのあしもとに、まっクロいものがうごいてる。クロい水? それともクロい火? わかんないけど、クロくて、すごく、きもちわるいかんじのもの。
「咎人よ、抗いなさい。天に
あい?
カミサマの……あい?
「……無慈悲な世界に祝福を……エィメン」
クロいヒトは、クロいなにかにのみこまれるように、そこからいなくなっちゃった。
なんだったんだろう……?
なにがおきているんだろう……?
「カイナ……」
カイナはくるしそうに目をとじたまま、やっぱりへんじはしてくれない。アオい火もきえてくれない。
そとからなにかきこえてる。
だれかがさけんでる声。なにかがこわれる音。たくさんのだれかがあばれてるみたいな、コワい音。
「カイナ……カイナ……」
だいじょうぶ。きっとだいじょうぶ。
カイナはヤクソクしてくれた。守ってくれた。
だから、きっとだいじょうぶ。
そとからきこえるコワい音が、どんどん大きくなっている────。
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