第18話小さな勘違いから壊れる友情 依頼はお断り ②

 先程の事など忘れて、商店街のお店で何を食べるか悩む3人。

「どこも良いわね。朝はパンだったからご飯系が良いかしら。ねえあの食堂のわきにいるのアジじゃないの。」

「本当ですね。アジ食堂は入っちゃ駄目よ。あら、この食堂も美味しそうです。刺身定食がありますね。」

「食堂なら私チキン南蛮定食かな。良い匂いがするのかもよ。アジお勧め食堂かな。」

「じゃあ、私はミックスフライ定食にするわ。アジ教えてくれてありがとう。」


 アジの近くにあった食堂が美味しそうだったので中へ入っていった。店内はしょうゆや揚げ物の良い匂いがしている。カウンター席と、4人席が3つある。カウンターはすでに満席で4人席も1つ埋まっていた。結構人気のお店のようだ。嬉しそうににこにこしている3人。

「いらっしゃい、好きな席に座って下さい。」

 挨拶をすると奥の席に座った3人。早速注文した。

「美味しそうな匂い。お腹が空いてくるね。」

 雑談しながら待っているともう1組入ってくきた。もういっぱいになる店内。さらに1人のおば様が入ってくる。3人は同じ女性だし相席でもいいよねと頷く。すると一斉に俯いた他の2つの席の人達。

「すみません、もういっぱいなんです。どなたか相席お願いします。」

 勿論俯いた人は顔を上げない。雪と花、口パクする。

「え、こういう狭いお店でそれはないんじゃない。しかも女の人なんだし、異性で嫌っていうのは分からなくもないけど。」「このお店、外に相席お願いする事ありますって大きく書いてありますよ。」「知らん顔して俯いていたら他の人が何とかしてくれるって感じだね、もう恥ずかしさもないんだろうね。」


 香が笑顔で答えて、手を軽く上げる。雪と花も笑顔で女性を見つめた。

「良かったら私達の席にどうぞ。こういう時はお互い様ですよね。」

 女性はすみませんというと雪の隣に座った。

「お気になさらずに、メニュー取りましょうか。」「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」

 その後、花達のご飯が来たので皆女性にお先にと断ると一斉に食べだした。

「うん、サクサクで美味しい。海老3つあるよ。あげるよ。」

「ありがとうございます。小皿にお醤油を入れたんで、お刺身お好きなのを1つどうぞ。」

「ありがとう、私のチキン南蛮も食べて。ジューシーでタレもしみてて美味しいよ。」

 当然のようにシェアする3人。美味しそうにパクパクと食べていく。

「ご馳走さまでした。」

 全部食べて満足した3人は、お茶を飲んでいた。雪の隣の女性はまだご飯が来てなかったので、その前に出ようと皆立ち上がった。女性に会釈をして外に出て行った3人。

「お腹いっぱいだね。美味しかった。」

「たまには外に食べに行くのも良いですね。雰囲気が変わって。」

「そうね、次は喫茶店とかも良さそう。昔ながらのお店って感じが漂っていていいわ。」

 話していると、お店のすぐ脇にアジがいるのを発見する。

「アジ、まだいたの。何しているのかしら、人間観察かな。」

 アジはじっとしていると、香達の所まで歩いてきた。少しよろよろとしている気がする。

「どうしたのかしら、おいで。なんか歩き方に元気がない気がしない。」

「少しふらついているように見えました。心配ですね。動物病院連れて行ってみましょうか。あ、木田さんにも連絡しないと。」

「そうだね、ネットでこの辺の動物病院調べてみるよ。」

 3人で話していると、先程の女性がお店から出てきた。集まっているからだろうか声をかけてきた。

「どうかなさったんですか。」

「ええ、この子具合が悪そうで、飼い主さんに連絡して病院に連れて行こうかと思っているんです。」

「木田さんにメールしました。かかりつけの病院が分かりました、可愛い動物病院っていう所です。場所が分からないですけど、聞いてみますね。」

「そこなら、私場所知ってますから案内します。行きましょう。」

 香はアジを抱きかかえて皆で歩いて行った。皆でお礼を言うと、花が簡単な自己紹介をした。

「ありがとうございます。私は鈴木です。アジを抱いているのが佐々木さん、彼女は菊池さんです。助かります。場所をご存知の方に会えてよかったです。」

 それを聞いて、おばさまは優しく微笑んだ。

「いえいえ、こういう時はお互い様ですよ。私は川合と言います。」


 先程聞いたばかりの名前に、まさかあの川合さんですかと思うが聞けない3人。こんな偶然はさすがにないだろうと思うが、アジはじっと香を見ている。

「今日はお友達がこの近くに住んでいるので、遊びに行ったお土産を持ってきたんですけどお留守で。連絡してから来ればよかったんですけどね。」

「そうだったんですか、お会いできなくて残念でしたね。」

「でしたらこの辺りは良く来られるんですか。」

「ええ、最近よく遊ぶようになった方で、先月位からこの辺りのお店に食べに行ったりしているんです。」

「商店街のパン屋さんは行かれましたか。凄い美味しいですよ。私達は大好きなんです。」

「商店街のですか、私まだ行った事なくて今度行ってみます。ありがとうございます。」

 話していると病院につく。急患だったが、すぐに見なければいけない程ではないとの事で暫く待つことになった。木田さんご夫妻もまだ到着していない。川合さんは猫が心配だからと付き添ってくれた。


「3人はこのご近所なんですか、とても仲が良さそうですけど古くからの友人かしら。」

「私達はこの近くの【何でも屋】っていうお店をしているんです。名前は【何でも屋】ですけど、簡単な依頼を調査するだけの探偵のような事をしているんです。猫探し系ですね。

 男女のドロドロ系や未成年者に友人関係とかのご依頼は全てお断りするんです。まあ、そんな依頼が来ない様に、ドアに大きく書いてあります。」

 嬉しそうに話す花に、頷いている2人。雪が続きを話していく。

「私達出会ってまだ数か月なんです。探偵ゲームや小説が大好きで、ネットで同じ探偵ゲームをしている人達の女性限定の食事会で会ったんです。そこで話していたら盛り上がっちゃって、喫茶店で2次会をやっている時に探偵が出来たら夢のようだねって話になって、それで始める事になったんです。

 大体月1、2回お店に集合してお喋りしています。趣味が同じだし、2人の性格もいいし、会ってお喋りするのがすごく楽しいんです。」


 聞いていた花と香は照れながら、自分もそうだといい、お互いに褒めだす。

それを見ていた川合さんは笑いだした。3人とも赤くなって、すみませんと言っている。

「ううん、違うの。羨ましいなと思って、私は先月仲の良いお友達だと思ってた人達がそうじゃなかったと知っちゃって、今新しい人間関係を築いている途中なのよ。仲良くていつも一緒にいたからショックが大きくてね。まだちょっと辛いのよ。」

「そうだったんですか、それは残念でしたね。でも川合さんは、前向きに新しいお友達を作ろうとなさってらっしゃるし、いい関係を築ける方と出会えると良いですね。

 私達で良かったらこの病院で待っている時間お話を伺いますよ。知らない人間だからこそ、話すと楽になる事もあるかもしれません。」

「勿論、守秘義務は守ります。」


 3人とも心配そうに川合さんを見ている。少し考えた後、川合さんは話す事にしたようだ。

「ありがとうございます。それじゃあ少し聞いてくれるかしら。

 先月いつものようにカラオケに行った時、私だけ少し席を外して戻ってみたらHさんが、川合さんの声って本当に大きいわよね。って言ってIさんと一緒に笑っていたの。

 私の声は確かに大きいんだけど、2人ともその事に対して何か言ってきたこともなかったのに、裏では2人で私の事を笑っていたんだと思ったら、ショックで悔しくて。

 その事は2人には話していないんだけれど、それ以来2人からのお誘いは全て断っているの。

でもいまだに連絡が来ていて、さっきも一度会って話したいとIさんからメールが届いていたの。行くつもりはないんだけれど。」


 川合さんの話を聞き終えた3人。先程の依頼の川合さんである事と受けてない依頼達成出来ちゃった偶然に驚いている3人。アジがいなかったら、定食屋に入っていたか分からず川合さんとも出会えたかもわからない。

 花と香は雪を見る。任せた、雪さんという視線だ。


 少し悩んだ後に、雪が話し出す。

「それは辛いですよね、特に仲がいいと思っていればいる程、ショックが大きいと思います。気持ちも引きずってしまうでしょうし。1つの意見と思って聞いて下さい。ただこういう考え方もあるんだなと。

 私は一度会って、川合さんの思いをはっきりと言った方が良いと思います。その方がすっきりとしますし、その2人がどういう意味で言っていたのかきちんと聞いた方が良いと思うんです。

 ご自身がこの事でもう考えなくて済むように、区切りをつけた方が結果がどうであっても前に進みやすくなるんじゃないかなって。

 既に傷つけられたんですからこれ以上傷つくことはなさそうですし、ガツンと言った方が良い事もあると思います。今後の関係性を考えないといけない相手なら、避けるべきですけれど。

 スッキリとした方が何年か後には、こんな人達いたなって笑えるのではないかと。

 カラオケだって大きな声で歌う人沢山いますよ。大体カラオケって皆自分が歌う為に来ているから、他人の声なんて聞いてませんよね。」

「そうね、未だに連絡がきていてしつこいし、一度会ってガツンと言ってやらないと駄目なのね。

私もスッキリして、もう過去の物にしてしまいたいしね。」

「そうです。勇気がいると思いますが、頑張って下さい。アジに優しく付き添ってくれている川合さんなら、きっといいお友達との出会いがあるはずです。」

 皆で頷いている。


「そうだわ、来週の日曜日お時間があったら、ご近所のバザーに来ませんか。先程話したパン屋さんもバザー限定のパンを発売するんです。他にも食べ物屋さんが屋台っぽく出店して美味しいものが色々出てくるんです。

 私達8時にお店に集合していくんですけど、川合さんもご一緒しませんか。食べてお喋りして11時位まではいる予定です。その後はお昼を買って帰るんですけどね。」

「まあ、嬉しいわ。じゃあ日曜日にバザーに伺うわね。9時頃になると思うわ。」

「はい、楽しみにしています。ちょうど木田さんご夫妻がいらっしゃいましたね。じゃあ私達はアジを任せて帰りましょう。」


 駆けつけてきた木田さんご夫妻に事情を話すと、お礼を言われる。

 アジが無事で良かったと話すと、川合さんとは病院の前で別れて3人は商店街で買い物をしていく事にする。勿論晩御飯とデザートを飼うのだ。アジが来そうな気がするので魚も一応買って置く。


「なんだか、アジが名探偵な気がしてきたわ。私達助手かもよ。」

「あり得ますよ。だってこんな偶然ありますか。朝聞いた話の依頼内容の相手とお昼にお店で会い猫を一緒に病院へ連れて行って、彼女達と会うように勧める。」

「アジは天才って事ね。でも病気なら魚食べられないよね。木田さんに聞いて大丈夫ならあげよう。」

「あれって、仮病じゃないですかね。猫も仮病を使うって言いますよ。」

「あり得るわ。川合さん達はどうなるのかしらね。カッとなりやすそうなHさんがいるけれど。まあうまく解決してくれることを願うわ。川合さんの心が晴れればそれが一番ね。」

「そうですね、あちらは依頼主じゃないですし。川合さんに良い結果になればと良いです。」

「同じく。バザーの時に元気になってるといいね。」


 3人と別れた後、川合さんは伊藤さんにメールをした。今から早速会うことにしたのだ。近くの公園にやってきた川合さん達。

 川合さんが、2人を避けたきっかけとなった長谷川さんの言葉を話して、自分の気持ちを2人に伝える。

「仲が良かった分、陰でそういう風に言われてると思ったらとても悔しくて悲しかったの。今は色々な人と出かけて、新しい交友関係を広げて行こうと思っているのよ。」

 話を聞いた2人は、悪い意味で言っていたのではなかったが川合さんを傷つけてしまったと謝罪する。

その後も3人で話し合い、お互いにその場にいない人の事を噂したり誤解されるような事を言わない様にしようと決めた。

「2人と元通りになれるのは嬉しいわ。今、私色々な事に挑戦するようになって、世界が広がった感じがしてとても楽しいの。だから今までと同じように、毎日のように会う事は難しいわ。でも、2人と友人に戻れて嬉しく思っているのよ。日数は減るけれど又遊びに行きましょう。」


 それを聞いた他の2人も納得して、直接会って話してくれた事へのお礼を言った。

「本当は、会う気はなかったのよ。でも偶々知り合った人達と話していて、悩んでいるならスッキリして区切りをつけて前に進む為にも、会って私の気持ちを伝えた方が良いのではないかと言われたの。

 それで私も会う決心をしたのよ。彼女達と食堂で偶然相席しなかったら、私2人に会いに来なかったわ。

今度又近所のバザーで会うのよ。【何でも屋】さんっていう探偵のお店をやっているんですって。とてもいい方達だったわ。」


 それを聞いた長谷川さんは固まった。長谷川さんの表情が暗くなるが、伊藤さんは特に変化はない。

 【何でも屋】に酷い事を言ってしまったという負い目があった長谷川さんは【何でも屋】に行ってきた事から彼女達に自分が酷い事を言った事まで、川合さんに打ち明けた。


 川合さんの顔が険しくなった。怒っているのだろうが、大きく深呼吸をして落ち着かせる。

「その話は知らなかったわ。3人とも私が話した時にこう言っていたわよ。守秘義務は守りますって。

 1つ大きな誤解をあなた達はしていると思う。彼女達はとても優しくて【何でも屋】の仕事を楽しんでやっていると思うし、誠実な対応を心掛けているわ。だから彼女達は守秘義務は守る。

 聞きたいんだけど、長谷川さんは酷い事を言った後に彼女達に謝ったのよね。彼女達ならあっさりと流してくれそうだけれど。なぜそんなに負い目を感じているのかしら。」


 そう言われて黙ってしまう長谷川さん。

「その時は、頭に血が上ってしまって。代わりに賀来さんと伊藤さんが謝罪してくれて。私言いだすタイミングが無くて言えなかったの。」

「そうなの、残念だわ。日曜日なら8時からバザーで会えるけれど、謝罪に行くのかしら。」

「日曜日は家族と出かける予定だから、行けたら行くわ。」

「そうなの、残念だわ。私そろそろ行くわね。長谷川さん、無理に謝るのは止めた方が良いわ。彼女達も彼女の周囲の人達にも気が付かれてしまうから。それならいっそ関わらない方が良いと思う。じゃあね、さようなら。」

 川合さんは帰っていった。伊藤さんはコッソリとため息をついた。


 日曜日まで、延々と迷った長谷川さん。家族に事情を話し謝罪に行く事にした。

バザー会場で、早速パンを数種類買って3人で分け合っている【何でも屋】の3人。

 長谷川さんは、3人に声をかけた。

「おはようございます。あの、今少し宜しいでしょうか。」

 普通に返事をする3人に対して、長谷川さんは話し出した。

「先日お伺いした時に、失礼な事を言ってしまって本当に申し訳ございません。

全て取り消させてください。自分の要求が通らなくて自分勝手な想像でものを言いました。

 皆様に酷い事を言った事を謝罪します。ごめんなさい。」


 一生懸命に謝罪する長谷川さんに、気にしていませんから、と言う3人。

「わざわざ謝罪に来て頂いてありがとうございます。

朝食がまだでしたらバザーのパン屋さんがお勧めですと話した。お時間があれば是非覗いてみてください。美味しい食べ物が沢山ありますから。」

 皆微笑んだ。ありがとうございます。というと長谷川さんはお辞儀をして帰っていった。


 9時になり川合さんと合流した3人は川合さんから2人に自分の気持ちを話せた事と長谷川さんが【何でも屋】に依頼して断られてプチっと切れたと聞いた事を話す。

「あら、ご自分で言っちゃったんですね。先程謝罪にいらしてくださったんですよ。」

 香が話すと川合さんは肩をすくめた。距離を置いてつきあうことにしたそうだ。

3人ともスッキリとした川合さんを見て、ホッとして嬉しそうな表情になる。

「アジが引き合わせてくれたご縁ですね。川合さんがスッキリとした表情をしていて良かったです。」

 それを聞いて川合さんは笑う。

「私ね、ゲームはしないけど実は探偵小説は昔から好きなのよ。今日は沢山話せそうな新しいお友達が出来て嬉しいわ。」

 それを聞いて、新しい仲間だと歓声を上げた3人。4人はバザーで美味しいパンを食べながらお昼まで推理話で盛り上がった。


 初めて依頼を断った【何でも屋】。だがアジが会わせてくれた縁で新しい仲間を見つけるという嬉しい結末になった。


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