第17話小さな勘違いから壊れる友情 依頼はお断り ①

 今月もまた【何でも屋】の日がやってきた。

今日も8時に集合して、近所のパン屋さんで買ってきた総菜パンをほおばる3人。

 まず雪が声を上げる。満面の笑みを浮かべて興奮している。

「うわ、美味しい。ねえこのポテトパン、ホントにぎっしり詰まってるよ。ポテトパンってどうしても隙間が空いているのが多いでしょ。どうやって作ってるんだろう。チーズの塩気とポテトって合うし、これは美味しいよ。

 ちょっと癖のあるチーズいい感じ。ねえ、朝はここのパンが良い。月に1回くらいしか食べられないし。」


 自分のベーコンエッグサンドウィッチに浸っていて、聞いてなかった花。話を変えた。

「そうですね、隣にあった朝だけ出してるお結びもおいしそうでした。通勤の人向けなんでしょうね。」

 香もカレーパンで忙しかったので雪の話は聞き逃していた。

「商店街って、朝早いわよね。土日でも7時前からやっていそうだったじゃない。ところでパン屋さんにお結びがあるのは何でだろう。

 私のカレーパンも美味しいわ。中辛だと私の好きなチキンカレーが入っていて嬉しい。チキンも具材もとろとろ。たまにスパイス喧嘩中っていう残念なカレーパンがあるけど、これは仲良しで美味しいわ。」

「この辺りって、結構サービス業の人もいるからですかね。土日出勤の方も多いから売り上げになるんでしょうね。お結びは最初パン屋さん達の朝ごはんだったんです。常連さんに偶々あげたら、要望が増えてお結びも出してるそうですよ。」

「それでお結びは朝だけで数が少なめなんだ。パン屋さんってお休みいつなんだろう。」

「パン屋さんが火曜日です。」

 スマホにメモを取った雪と香。

「平日は来ないけれど、一応メモしておいた。」


 マッタリしている3人。沈黙していても気まずい空気にはならない、古くからの友人のように気を許している3人。各自でのんびりと休日の朝を過ごしていた。

 軽いノックの音に気が付いた雪。2人を見ると持ってきた本に集中しているのか気が付いていない。

「誰か来たみたい。開けてくるね。」

 そういうと休憩室を出てドアの方へと向かっていった。香と花も片付けて花がお茶の支度をしてくれている。香は雪を追って先に休憩室を出て行った。

「はーい、どなたですか。」

 ドアを開けると、微妙な表情の賀来さんのお母様と同年代の女性が2人たっていた。

「朝早くからすみません。ちょっとご相談があってきたんです。今回はご依頼というかご相談というか。」

「分かりました。中へどうぞ。」

 賀来さん達は中へと入ってくる。人数を見て花がお茶の数を追加していた。香は手伝うために休憩室へと戻っていく。


 椅子をすすめた雪、香達が戻ってきてお茶を皆に出してくれる。

 それが終わると賀来さんが話し出す。何だか困ったような微妙な顔になっている。

「前回はありがとうございました。あの後カラスの巣は撤去されて、何かを取られることもなくなりました。

 今回はこちらの長谷川さんと伊藤さんを紹介するために来たんです。

 【何でも屋】さんの噂を聞いたそうで、私が依頼した事について聞かれたので前回の依頼の事を話したんです。それでお2人に調べてほしい事があるので、紹介してほしいと頼まれたんです。」

「初めまして、長谷川と言います。前回の依頼の事を賀来さんから聞きました。開店してから3件も依頼を解決しているとか噂にもなっているんですよ。ぜひ私達の依頼も解決して欲しくてお願いに来たんです。」


 それを聞いた3人は微妙な顔になる。そんな3人の表情に気が付いたのか賀来さんが申し訳なさそうな顔になっている。3人も一応挨拶をする。

「初めまして、【何でも屋】の菊池です。こちらは鈴木と佐々木です。

私達の場合解決しているといっても、凄い謎を解明している訳じゃないんです。偶然が重なって解決になったという部分も多いですし、依頼を受けたからと言って解決する事を約束はできません。

 皆様それでもかまわないという事で、引き受けさせて頂いたので。余り過度なご期待をされているようでしたら他の方にご依頼なさった方が良いと思います。」


 初めから断りたいですという雰囲気を出す【何でも屋】。

 驚いた様子の長谷川さんと伊藤さん。断る事もあると聞いたが今まで断ったことは無いし商売なんだから断るなんてしないと2人で話していたのだ。それなのにこの3人は依頼内容を聞く前に、さっさと話を断る方へ持っていこうとしている。とにかく話を聞いてもらわないと、と2人は話し出す。


 慌てた様子で長谷川さんが話を続ける。

「ええ、勿論私達は解決してほしいとは思っていますが、駄目でも仕方が無いときちんと分かっていますから。そこは納得した上で依頼をしに来ました。きちんとしたところに頼むと逆に角が立つというか。

 いえ、【何でも屋】さんがきちんとしていないという意味じゃないんです。」


 まずい空気を察知した伊藤さんが即座に交代して話し出す。ついでに長谷川さんに軽く肘鉄をして、黙っているように合図を出すのも忘れない。

「ちゃんと依頼内容を聞いてから、出来るかどうか判断して返答なさることも聞いてますし、依頼内容を話しても守秘義務の契約をして下さることも存じてます。

 まずは、私の話を聞いて頂いてから判断してください。

それから、長谷川さんが言ったのは、決して悪い意味じゃなくて。普通の探偵の人達が聞込みとかすると目立ちそうですし、相手に知られたり噂になったりしそうなので、そういう所はチョット避けたいなという意味なんです。」

 物凄い強引な纏め方の気もするが、長谷川さんの事は上手くフォローできた伊藤さん。賀来さんがこっそりとため息をついていた。


 取りあえず依頼内容を聞かない事には断るにしても納得しなそうだと判断した2人に合図した雪。雪が【何でも屋】の依頼の受方について資料を見せながら説明した。2人とも了承をしたので、依頼内容について話してもらう。


 少し安心したような表情になった伊藤さんの説明が始まった。

「私達2人と川合さんという方の3人でよくカラオケに行くんです。週に3回位は行きます。

 他にも買い物に行ったりご飯を食べたりして、よく出かけていたんです。3人とも歌う事が好きだし気が合って仲も良かったんです。

 それが、先月カラオケに行った時を最後に、川合さんを誘っても全然来なくなってしまったんです。最初はカラオケに飽きたからとか、最近忙しいとか疲れているとか言って断っていたんです。

 でも最近では賀来さんとご飯を食べに行ったり、他の人と遊びに行って疲れたからとか、明らかに私達と出かけたくないというニュアンスの断り方に変わってしまって。私達以外の人とは楽しそうに出かけていると聞いて、最初は私達の事は断ってどうしてって思いました。

 でも今は、私達が何か気に障る事をしたのならきちんと誤って、又一緒にカラオケや出かけたりしたいんです。

私達も会えないのでラインやメールで原因を聞いたんですけれど、何でもないとかしか返事がこなくって。

 賀来さんにも会った時にそれとなく聞いてもらったら、偶々最近違う人達とも出かける事になって、私達とは予定が合わないからだと言われたそうで。

 どうしようか長谷川さんと相談していたら、別の友人から賀来さんが探偵に頼んで解決してもらったっていう噂を聞いたと教えてもらって、それで今回、賀来さんにお願いして紹介してもらったんです。」


 話を聞いていた雪は、香と花の顔を見る。2人とも首を横に振った。雪も同じ意見だった。

「そうですか、正直こういう話はご自身達で解決するよりほかはないと思います。

川合さんが、他の友人の方にも何も話していないのに、見ず知らずの初対面の私達に理由を話す事はありません。

 間に友人を介しても駄目なら、少し時間を置いてから聞いてみるとか。ラインやメールでなく直接会って話し合うとか。相手が会うのを拒否するなら、週に何度かの割合でメールをして原因を聞いたり一緒に会えなくて寂しいと思っている気持ちを伝えていくとか。

 やり方は色々あると思います。時間はかかるかもしれませんけれど。


 探偵などに依頼して原因が分かって解決したとしても、これって友情の話ですよ。そういう解決の仕方は後で亀裂を生んでしまいそうですし、あまりいい結果にならないと思うんです。

 せっかく御足労頂いたのに申し訳ないのですが、今回のご依頼はお断りいたします。」


 自分達のやり方を非難された気持ちになり、カッとなった長谷川さんが言った。

「なによ、成功できなそうだから断るんじゃないの。そうやってできる依頼だけ引き受けて成功率を上げて儲けようって魂胆なんでしょ。最初から、若い女性ばかりで怪しい雰囲気だと思ったのよね。

 偉そうに友情の話なんかしちゃって、あなたみたいな若い人に言われる筋合いはないわよ。行きましょ、来ただけ時間の無駄だったわ。」


 【何でも屋】の3人は黙っている。早く帰ってくれないかなというような面倒くさそうな顔をしている香、他の2人も自分の思い通りにいかなかったことに腹を立てて、初対面の相手に失礼な事を言う自分より年配女性に呆れ顔だ。


 賀来さんは長谷川さんを無視すると【何でも屋】の3人に謝罪した。

「ごめんなさいね。親身になって依頼を受けてくださったあなた達に、失礼な事を言う人を連れてきてしまって。なんてお詫びしたらいいのか。本当にごめんなさい。」

 伊藤さんも謝罪する。

「私からも謝罪します。友人が酷い事を言いってしまい、ごめんなさい。

 【何でも屋】さんが、解決できるか分からない依頼を親身になって引き受けていらした事は存じています。友情を語るのに年齢なども関係ありません。

 断る理由ももっともです。友人同士で解決するべき事なのにお金を使って解決しようとするなんて、こんな事をやったら川合さんとの関係修復は無理だったでしょうね。

 友情をお金で解決しようとするなんて・・・・・・。


 私ラインやメールじゃなくて、直接川合さんに会って話し合ってみます。

直接会って嫌われてると言われたりしたらとどうしようと思ってしまって、いい年にもなって傷つくのが怖かったんです。

 依頼が断られて良かったと思います。具体的な案も頂いて、ありがとうございました。私達はこれで失礼します。本当に申し訳ございませんでした。」

 謝罪をした2人に、雪も返答する。

「賀来様、伊藤様。お気になさらないでください。

 気を使って頂いてありがとうございます。伊藤様達が上手くいく事を私達も願っております。

頑張って下さい。本日は【何でも屋】に来て頂いてありがとうございました。」

 伊藤さん達は挨拶を終えると、俯いてしまった長谷川さんを連れて帰っていった。


 賀来さん達が帰るのを確認すると、3人とも休憩室へと戻っていった。

雪は3人に紅茶を入れ、香と花は出したお茶を片付ける。お菓子もバッチリ用意した。

「うまく仲直りできるといいね。3人とも。賀来さんには気まずい思いをさせちゃったね。」

「そうね、あまり気にしないでくれると良いけれど。それにしても噂になっているのね。」

「どんな噂でしょうね、犯人は猫、行方不明の猫は引っ越していた、犯人はカラス。なんかコメディみたいですよね。」

「でも毎回ほとんど解決できないと思って引き受けているのにね。警察が先に調べて選択肢が減っている上で依頼を受けていたり、偶々思いついた囮作戦が上手くいったりして解決できているだけで。」

「そうですよ。ぜひ解決してほしいとか言われて困っちゃいました。そういう人って解決できない事を了承しても本当に解決できないと文句を言われてトラブルに発展しそうですよね。」

 2人の言葉を聞いて香も頷く。

「そうね、解決の確立を上げたいなら私達みたいな相場より安く設定している探偵じゃなくて、高い値段を払って実績の沢山あるところに行かないと駄目よね。

 今回はご近所さんなわけでも、自治会長木田さんの押しな訳でもないんだし。その上紹介者の賀来さんも微妙な表情だったわよ。その時点でお断り依頼よね。

 私なんて、お断り依頼って決まった後は、今日のランチを何処で買うか食べに行くのい良いかもなんて、関係ない事を考えていたわ。」

「分かります。私も最初の段階でお断り決定だと思いました。そういえば今日はアジは来るのかな。依頼が無かったから来ないですかね。」

「来るとしたらお昼ご飯か夕食前にじゃないかしら。依頼は一応あったじゃない、断っただけで。」

「確かに依頼はあったね。私、最近ここでアジに会えるのが楽しみになってきてるんだ。」

「私もよ、可愛いわよね。癒しになるわ。猫じゃらしとか置いておいたら一緒に遊べるかしら。」

「どうでしょうね、魚を渡したら遊んでくれそうな気がしますけど。」

「そうね、アジだものね。」

 先程の事はもう触れずに可愛いアジの事を話していた。

 

「今日のランチどうしましょうか。せっかくだから外で食べても良いですよね。」

「そうね、喫茶店と食堂とか何店舗かあったわよね。見に行ってみましょうよ。」

「いいね、お昼には早いけどゆっくり歩いて行けるし、お店見て回ったらちょうどいい時間になるかな。」

「はい、ここ片付けたら行きましょう。」

 3人とも急いで片付けると、店舗に鍵をかけて商店街へと歩いて行った。




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