第13話ダンス教師 消えた衣装 ①

 今月もまた【何でも屋】の日がやってきた。

 毎月、3人が楽しみにしている【何でも屋】の開店日。今までの2回とも運と閃きで無事に解決、その後は楽しいお喋り。今日も沢山お喋意をする為に仕事より早く、【何でも屋】に朝の8時から集合した3人。

 雪は気合が入り、前回話したほったらかしパンを、朝焼いてもってきていた。香と花に昨日の夜に明日の朝パンを持っていくとメールしたら、2人とも喜んで香はデザートと飲み物を、花はハムやサラミにチーズとサラダ等、パンにも挟めるものを持ってくると返信をして、皆美味しい物を食べる気分らしく朝早くから輝くような笑みを浮かべている。


 今朝はアジの姿は見えなかった。花が鍵を開けると雪が話しながらお店の中に入っていく。

「今日はアジもいないし依頼来ないかもね、まあアジが依頼を持ってきているってわけでもないだろうけれど。依頼がないのも一日お喋りで来て楽しいね。」

 雪がパンと一緒に中に入ると、パンのいい香りが部屋中に広がった。机に飲み物を置くと冷蔵庫に向かっていく香。

「うわ、こうばしい良い匂いー。美味しそうなパンね、私はデザートのムースを冷蔵庫に入れてくる。柑橘系のムースで爽やかでおいしいの。最近人気のお店なんだよ。」

「私はチーズとハムにサラミにしました。サラダはトマトサラダと卵とポテトのサラダに青菜サラダです。冷蔵庫のドレッシングも出しておきますね。」

 花はそういいながらお皿にハムなどを並べて行く。香が横でサラダを器に入れて持って来る。

「飲み物は、ハーブティーにしたの。普通の紅茶と緑茶もあるからね。お湯とティーバック持ってきたらいろいろ飲めるから便利よね。そういえばお店に魔法瓶がないのよね。」


 雪はバスケットに入れてきたパンを適当な大きさに切っていた。

「魔法瓶必要かもね。これおまけで貰ったパンナイフなの。家にまだあるから1本置いておくね。

このサラミおいしそう、良いやつじゃないの。私の簡単パンにはもったいない気もする。」

「友人と牧場に行った時に、空気に流されてたくさん買ったのでお土産です。ああいう所行くと結構いいお値段でも何か買っちゃうんですよね。美味しいんだけど、そりゃお値段もいいんだしって思うんですよ。」

「あるあるね。私は果物狩りに行った時それやったわ。周りの人達も沢山買うし流されて買うんだけど家そんなに買っても食べきれないからお友達にあげるのよね。喜ばれるから良いんだけど。」


 休憩室の机の上に並べ終わり、皆座って、頂きます。食べ始める。

「パン、パリパリで美味しいじゃない。このパンで混ぜて放っておくだけなら私も今度夜作ってみよっかな。

花、サラミもハムも美味しいわ。野菜の味が濃いからかこのサラダはドレッシングいらないわね。」

「そうなんですよ、しっかりとした味で。そして卵サラダ、私これをパンに挟むのがお気に入りなんです。」

「おいしいね、卵サラダってサンドイッチにすると食べやすいし美味しいし良いよね。香も放りパン今度作ってみて、捏ねなくていいのがいいんだよねー。楽なのが一番よ。」

 パンを堪能している3人、ふと物音に気が付いた香が皆に聞く。

「ねえ、なんかコツコツ音しない。私だけ聞こえるのかな怖いんだけど。」

「いえ、私も聞こえるから大丈夫ですよ。いや、大丈夫じゃないのかな。」

 花は、そっと立ち上がる。香は念の為横に置いてあるバッグを持っていく。攻撃を受けた時にバックをあてて衝撃を逃したりするのだ。ドアからそっと店の外を見ると、店のドアを叩いている肉球が見える。アジだ。

「はー、驚いたわ。最近は物騒だし朝から強盗かと思った。」

「そうですよねえ。紛らわしい、女性だけだから変なのがきたのかと思いましたよ。」

 机の上を見ていた雪。ハムなどと一緒に持ってきていた、鳥のささみの刺身、つまりささ身を茹でただけのを取るとお皿にのせドアを開けて差し出す。

 アジ、当然のような顔をしてパクっと食べて頷くと去っていった。


「アジ、私達を完全に餌係として覚えたね。しかも結構良い物を持ってくる餌係。」

「まあ、またアジが面白い依頼を持ってくるかもしれないわよ。もしそうなら、時間が無いわ。早くおいしい朝食を食べましょう。」

 笑いながら戻ってご飯を食べ終える。さあ、今からデザートという時に、店の外から声がした。無言で立ちあがる3人。デザートをしまう香。お茶の支度している雪。今回は花が開けに行った。

「はーい。どなたですか。」

「朝早くからすみません。隣の賀来です。依頼の相談をしたくて伺いました。」

「そうでしたか、【何でも屋】の鈴木です。おはようございます。中へどうぞ。」


 若いショートカットの女性が入ってきた。

 お互いに挨拶を済ませると、花が【何でも屋】の依頼の受け方や守秘義務に関しての説明をする。

賀来さんはそれで構わないと言うと、自己紹介と依頼内容の説明を始めた。

「まず、私の職業の事を説明します。

 私は、都内のスタジオで週5日ダンスレッスンの講師をしています。月に一度講師仲間で集まって、発表会というかショーのようなものもしているんです。小さな規模なんですけれど。

 ショーの際にはスカーフと衣装を着るんですけれど、最近スカーフが盗まれることがあって。家に持って帰って洗うんですがベランダに干しておくと、いつの間にか他の洗濯物はあるのにスカーフだけなくなっているんです。外から見えやすい場所でもないですし、最初は風にでも飛ばされたのかとも思ったんですけれど。

 今迄に3回もスカーフを盗まれているんです。似たようなスカーフをまた準備するのも大変ですし、なんだか気持ち悪くって。この後も盗まれるかもしれないからどうしようかと思っていたんです。

 そうしたら、お隣に出来た【何でも屋】さんで田中さんと池田さん達の依頼を解決したって伺って相談してみようと思ったんです。

 他の服とかは無事でスカーフだけっていうのがよく分からないんですよね。

家は母と二人暮らしなので防犯面でも心配ですし、でも警察に届けてあまり騒ぎになるのも気が進まなくて。

 それに、スカーフだけ盗まれてるっていうのも何だか言いづらくって。たいしたことじゃないとか気にしすぎって言われても嫌ですし。

 ダンスの講師と分かると偏見の目で見て、エロイ格好して見せろよとかくだらない事を言ってきて喜んでいる馬鹿がいるんですよ。そういう奴ってたとえ盗むとしてもスカーフだけってことは無いと思うんです。

 この近所ではそんな事は言われたことはありません。持ち家の人ばかりだから余計な諍いになりそうな事を表立っていうような人はいないんです。今中古の持ち家って場所によるけれど全然売れないんですよね。だから近所で争い事をして、住みにくくなるような事はしないんでしょうね。

 ここも商店街はあるし都内までは近い方ですけど快速が停車しないし、地域住民の活動に参加している人ばかりなので人気がないみたいですね。

 半月に一回の全体清掃とか色々ありますから。私は、近所の人達の事が分かるチャンスだし参加してますけれど、そういうの面倒だと思う方もいるだろうし。まあ、その辺りは好みの問題ですよね。」

 不安そうな顔で早口で一気に話す賀来さん。はっとしたように言葉を一度止めた。


「話がずれちゃったけど、騒ぎにせずに誰がなぜ取っているのかを知りたいんです。

 母にも話していないんです。私の職業に対してあまり賛成していないようなので、こんな事が分かると講師の仕事が原因じゃないかとか辞めた方が良いんじゃないかとか言われそうで。」


 話を聞き終えた3人はこの状況はまずいと目配せして、3人を代表して花がゆっくりと落ち着いた声で話し始める。

「警察に行きにくいとか騒ぎにしたくないという賀来さんのお気持ちは分かります。現状お母様に言いにくいというのも分かりました。

 ですが、今回のような時は最悪のケースを考えて行動した方が良いと思います。

 まず、実際に家のベランダから盗まれているのなら、犯人が立ち入っている可能性が高いという事ですよね。なくなっているのがスカーフだけでも、3回も続いているとなると故意である可能性を考えないと危険だと思います。

 でもまずはお母様に、侵入者がいるかもしれないと伝えないのは危険だと思います。侵入者と鉢合わせでもしたら何をされるか分からないですから。すぐにお母様にお伝えして、そのうえで警察に通報するのかこちらにご依頼するのかを、お2人で相談して頂きたいんです。

 私達としては、犯人がご自宅に侵入している可能性がある以上、今すぐに警察に相談される事をお勧めします。大切なのは、何よりもまず賀来様ご家族の身の安全です。

 警察の捜査ならば指紋や足跡等の鑑定も出来ますし、周辺への聞込みでご近所で誰か不審な人間がうろついていた情報が分かるかもしれません。

 【何でも屋】へのご依頼を考えるのはその後の方が良いのではないでしょうか。

騒ぎになるのが嫌だからと言って、何も話さずに誰かに何かあったら取り返しがつきません。

 どうか、お母様にお話しして警察に相談してください。」


 真剣に繰り返し警察への相談を進める花の話を聞いていた賀来さん。

「分かりました。その通りですよね、私、母に話してすぐに警察に相談します。ありがとうございました。」

「いえ、早く解決する事を願っています。」

 賀来さんが納得してくれてホッとした3人、安心した表情で賀来さんを見送った。


 賀来さんが帰った後、3人は座ってお茶を飲みながら話を始める。

「彼女が納得してくれて良かったです。最悪私達から母親に伝えて、警察に通報してもらうように説得しなきゃいけないかと思っていました。」

「そうだよね、盗まれた物がスカーフじゃなくて他の物だったらすぐに警察に行ったかもしれないけれど。スカーフ盗んでどうするんだろう。」

 顔を顰めている香が答える。

「ストーカーとかなら何でも嬉しいんじゃない。警察なら鑑識が調べてくれるだろうし、防犯カメラも見れるから結構すぐに犯人が逮捕されそうね。警察が出てこの件はこれで解決ね。」

「今回は、さすがに【何でも屋】の出番はなかったね。」

「ええ、でもこういうのも良いですよね。探偵が警察に行くように説得する。ウフフ。

 そういえば、池田さんと畑さん。猫がこなくなって寂しかったらしく猫カフェに通ってるんですけれど、同じ猫カフェの同じ猫に会いに行ってたそうですよ。木田さんの奥様が教えてくれました。

 偶然、猫カフェで会って驚いていたら、お気に入りの猫まで一緒。同じ猫を可愛がるだけあって好みが似ているんでしょうね。今は時間を分けて通ってるそうです。」

「凄い気が合う2人って事だね。そのうち猫写真を撮りに一緒に街の散策とか行っちゃうんじゃないの。良い仲間が出来て2人とも良かったじゃない。」

「そうなんですよ、猫カフェは週1回なので、暇になるからって猫が多い町に遊びに行くそうですよ。白猫がいなくなる時に結び付けてくれた新たなご縁ですね。」

「賢い猫だったから案外猫の恩返しなのかも。なんか、依頼人だった人達の楽しそうな様子を聞くと嬉しいね。」

「そうね、雪や花の言う通りなのかもね。【何でも屋】猫がらみの事件が多いし、招き猫でも買って置いておこうかしら。」

「招き猫なら、ここに来るじゃないですか。アジという三毛猫が・・・・・・。 」

「そうだったわね、ある意味【何でも屋】の一員ね。案外、あのおばさま達に会わせてくれたのもアジだったのかもね。」

 複雑な顔になった3人。アジの行きつけのお店【何でも屋】。


「今日は依頼もなさそうだし、のんびりとお喋りが出来そう。ねえ、私達も顔見せのとして何かの行事に行った方が良いんじゃない。」

「賛成。今月は何があるのかしら。」

「それなら掃除があります。私は行くつもりだったので、お2人も行くのなら大歓迎です。人数が増えて楽になるから喜ばれますよ。腰痛持ちなら止めた方が良いですけど。」

「私は大丈夫よ、ボクシングで鍛えているからね。」

「私も結構体力あるから、大丈夫」

「次の土曜日が掃除の日なので、朝8時10分前に【何でも屋】の前で集合しましょう。

軍手と汚れてもいい格好とスポドリがいりますね。結構暑くなったりするので、タオルもかな。」

 2人とも頷くとスマホにメモをした。


 その後は、お喋りしながら商店街に行って食料を買い足し、新作の探偵スマホゲームを皆でしたり、謎解き小説について話し合ったりして、夜まで賑やかにお喋り三昧楽しみつくして帰っていった。

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