第12話消えた猫 捜索依頼 ③

 笑いながらアジに似た猫が消えた方に、きょろきょろしながら歩いて行く。結構目立っていたのか、おば様3人組に捕まった。

「あなた達先程からこの辺りをウロウロしているけれど、何か探していらっしゃるのかしら。」

 お喋り好きそうな人達だからこの辺りも詳しそうだなと思った香。ここは、3人の中で一番おば様に親しまれそうな花に質問を任せた。さり気なく花を前に押し出す。

 花も張り切って頑張りますと目配せすると、おばさま達に猫捜索を話す。勿論【何でも屋】の事は言わない。

探偵は必要のない事は言わず、最大限の情報を相手から引き出すのだ。

「実は、4日程前なんですけどこの辺りで白い猫を見かけたって聞いたので、もしかしたらここに戻ってきてないか見に来たんです。この白い猫なんですけど、お昼頃に公園で見た後を最後にいなくなって探しているんです。何かご存じありませんか。」


 花のスマホを覗き込み考え出す、おばさま達。

「私達良くこの辺りでお喋りするの、この猫かは分からないけれど白い猫なら毎日見てたわよ。そういえばここ最近は見ないけど、あなたの猫なのかしら。」

「いえ、何人かのお宅に顔を出している子で、この辺りだと公園以外でどの道を歩いていたとかありますか。」

「私はあっちの戸建ての方で見たわよ。ここの道をまっすぐ行くと何軒か戸建の住宅地があるの。そこの道路で見たことがあるわね。」

「そうなんですか、じゃあそちらにもお家があるのかしら。元気なら別にいいんですけれど。

ありがとうございます。そちらの方も見てみます。」

 皆でにこやかにお礼を言うと戸建の方へと歩いて行く。


「花、お疲れ様。花の朗らかな雰囲気のおかげで、良い情報が得られたわね。

それにしても結構範囲が広がったわね。この辺りまでは目撃情報がないわよ。」

「自然体で良い聞込みだったじゃん、花。新情報発見だね。」

「ありがとうございます。新しい情報が出て良かったです。アジに似た猫が出たおかげで、この辺りに詳しそうな人達に会えて運が良かったですよね。」


 住宅街もキョロキョロしながら歩く3人。先程みたいに誰か声をかけてくれないかなと思っていると、道をはいていたお爺さんがこちらを見ていた。今度は雪が話しかける。

「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですけれど今大丈夫ですか。」

「ええ、掃き掃除をしているだけなんで大丈夫ですよ。どうかしましたか。」

「実は、この白い猫を探してるんです。4日程前から姿が見えなくて探していたら、あちらでこの道を歩いているのを見た事があると聞いて探しに来ました。この子の事ご存知ありませんか。」

 雪がスマホを見せると、お爺さんが家の中にいるお婆さんを呼ぶ。

「ちょっと、眼鏡持ってきてくれ。こちらの方達がこの猫を探しているんだって、知らないか。」

 家から出てきたお婆さんも一緒に見る。

「ありがとうございます。見覚えとかありませんか。」

 じっと見つめていたお婆さんが、声を上げる。

「あら、この子ハッピーじゃないの。ほら、中田さんのお嬢さんの猫よ。」

「まあ、そうなんですか。無事ですか。」

「ええ、元気だと思うわよ。中田さんのお嬢さんが結婚して新居に連れて行ったのよ。」

「そうだったんですか、良かったです。人懐っこい子だったから飼い猫かなって思ってたんですけれど。姿が見えなくなって心配していたんです。教えて頂いてありがとうございました。」

「いいのよ、そうだわ。ちょっと待ってて中田さんに一応確認してみるから。」


 そういうとメールをしようとするお婆さんに雪がお願いをする。

「あの、もし良かったらこのスマホこの子を写真に撮って、一緒に送って貰えたら中田さんにもすぐ確認して頂けると思うんですが、お願いしても良いですか。」

「ええ、じゃ写真を撮ってと、この後はどうするのかしら。」

 雪が説明してメールに添付すると、お婆さんが送信してくれた。すぐに中田さんから、家のハッピーに間違いないと思うと返信が来た。中田さんのメールにハッピーの写真を添付してくれたので、それを雪が写真に撮らせてもらう。証拠写真も撮れてバッチリだ。

 2人にお礼を言い、中田さんにもお礼をお伝えくださいと頼むと2人と別れて帰ることにした。


「帰りは違う道で帰って、夕食用に商店街で何か買っていきましょ。帰ったら書類作成ね。

 おばさま達の情報が突破口になったわね。おばさま達に会わせてくれたあの猫に感謝だわ。猫の無事も分かったし良かった。人懐こい猫だけあって、あちこちに顔出していたのね。」

「そうだね、まさかの引っ越しかあー。びっくりだね。おめでとう、香の推理が当たったね。

あのおばさま達から聞き出してくれた花の活躍で依頼は解決だね。

 あの三毛猫アジなのかもよ、お刺身買って帰った方が良いかもね。」

 雪と香に褒められて、嬉しそうに笑う花。

「やっぱり実際に見に来て正解でしたね。おばさま達に会えて良かったです。

 お刺身は一応買って置きましょうか。アジが来なかったら私達が美味しくいただけばいいんですし。新鮮でおいしんですよ、フフフ。

 皆の勝利ですね。それと、雪さんのキッシュは私達も食べられることになって良かったです。」

 3人とも笑う。商店街に行って、夜用に買出しをするとお店に戻っていく。


「2回続けて解決できるなんて運が良いわ。アジが運を運んで来てくれているのかしら。」

「そうかも、お刺身があるけれどいるのかな。」

 お店に帰ってくると見覚えのある三毛猫が見える、アジがお店の前で待っていた。無言で見つめ合う猫と3人。

「アジ、お刺身食べる、お皿に乗っけて持ってきてあげるわよ。」

 ジッと3人を見つめているアジ。雪達は中に入ると、お刺身をお皿にのせてお店の床に置いてみた。

アジはあっという間に全て食べ、満足げに鳴くと帰っていった。

 なんだろう、なんだか釈然としない顔でアジを見送った3人。そのまま報告書を作る事にした。


 報告書を書き終えると、香は池田さん達にメールで結果が分かったと知らせる。するとすぐに報告を聞きたい今から伺ってもいいかと返信が来た。

 相談して、まだ暗くなる前だからいいかと17時までなら大丈夫ですと返信すると直ぐに来るという。皆で、近くにいたのかな等と話していると、5分もたたずにやってきた。

「突然だったのにありがとうございます。早く知りたくて木田さんのお宅にお邪魔していたんですよ。もしかしたら今日中に何かわかるかもしれないからって、田中さんも一緒に木田さんが家に誘ってくださったんです。」

「そうなんですね、木田さんの所で待ってらしんだんですね。報告の前に確認して頂きたい写真があるんです。」

 怪訝そうな顔をした二人に、スマホでとったハッピーの写真を見せる。

「お2人の探している白い猫と同じ猫だと思うんですけれど、どうでしょうか。」

「確かにポン君だ。畑さん同じ猫ですよね。」

「ええ、同じですね。どれも可愛く写ってる」

「同じ猫で良かったです。飼い猫だったんです。猫は無事で元気に飼い主さんと暮らしているそうですよ。」


 ほっとした表情の2人に、雪は説明を始める。

「地図をみて猫のコースを歩いて聞込みをしたら、運よくこの子をご存じだった方に出会えたんです。違う場所でも見た事があると教えてくださったので、そちらに行ってみました。近所の方に聞いてみたら飼い主さんの事をご存じで、飼い主さんを紹介して頂いて無事だと確認できたんです。

 私達もこの子の無事が分かって嬉しいです。」

 雪の話を聞きながら涙ぐんでにこにこ笑い、何度頷いている2人。

「いや、まさか見つかるとは思ってなかったんで本当にうれしいです。この子が無事ならもうそれで充分です。ありがとうございました。」

「本当にありがとうございました。良かった、安心しました。」

「では、こちらが報告書になります。地名などは一応省かせて頂いておりますが、ご了承ください。飼い主の方の事も個人情報になるので、今回は控えさせていただきます。」

「分かりました。私達は猫が無事だと分かればそれでいいので。」

「他にも心配なさっている方がいらっしゃるのでは、皆さんに知らせてあげて下さい。」

「そうですね。早速知らせてきます。みんな喜びます。ありがとうございました。」

 2人ともお礼を言うと、外に出て木田さん宅に戻っていった。


 それを見送っていた3人。香が言う。

「それじゃ今回の件も勿論、木田さんも知ってるのね。ここの町内、結構皆さんお互いの事情をよく知っているのね。まあ、皆が嬉しい結末になって良かったわ。」

「ほんとに良かったね。今回も無事に解決できて。」

「そうですね、無事だと分かってほっとしました。」


 机の上には、雪のキッシュと商店街で買い込んだ総菜や飲み物が並んでいる。

「じゃあ、お祝いしましょ。【何でも屋】の依頼解決を祝して乾杯」

 雪の音頭で乾杯する3人。2件目の依頼も無事解決できて喜びつつ、今日もまた語り合う3人。話は尽きない。

 来月はどんな依頼に出会えるのか、それとも皆の語り合う会になるのか。どちらでも、この3人で一緒なら楽しいだろうと話している3人。


 向かいの木田さんの家の方からは、歓声と喜び合う話声が聞こえていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る