第11話消えた猫 捜索依頼 ②

 14時になると、池田さんと畑さんが【何でも屋】にやってきた。

 作成した契約書を渡して見てもらう。2人とも確認後に署名捺印をする。雪は2人に契約書の控えを渡した。


 契約書をしまうと、雪が2人に質問を始めた。

「では、いくつか質問をさせて頂きます。まず猫の性格を詳しく教えてください。

 この子は人懐っこい性格との事でしたが、どなたにでも付いていってしまう猫でしたか。それともご飯を食べて撫でさせるだけだけど家の中には入らないとか、車には警戒して人がいても近づかないとか。」


 池田さんは考えているのか首をかしげたまま目を瞑っている。畑さんが先に話し始めた。

「そうですねえ。乱暴な口調の人や動作の荒い人と大きな声の人には近づきませんでしたね。

 危機管理能力が高いというか、猫の本能で危険を察知して近づかないというか、頭のいい子だと思います。

 車も駐車場では上に乗ってたりしますが、道に止めてある車には近づいていなかったと思います。私の家では縁側までは入ってきてましたけれど、家の中に入るようなことはしませんでしたね。

 こうやって考えると、やっぱり野良猫なのかな。でもいつもとても綺麗な毛並みでどこかの飼い猫なのかなと思っていたんですよね。首輪をしていなかったけれど、首輪は付けない飼い主も多いだろうしどっちだろうな。近所で白い猫を飼っている人は知っている限りではいなかったですね。」

「私も畑さんと同じように思ってましたね。我が家でも庭に来てもそれ以上中には入らなかったです。食べる時も綺麗に食べるし、私の元気がない時には寄り添うように側にいてくれて賢くて優しい子なんです。」

 なんだか、涙声になってきた池田さんの声。池田さんは猫の写真を取り出すと雪に渡す。

「これ、大きくプリントしてもらったやつなんです。最近のポン君の写真です。」

「ありがとうございます。写真拝見したかったので助かります。」

 そういうと、許可を取ってその写真をスマホで写しておく。


 雪は次の質問に移る。

「猫を飼っているお家はこの町内だと、どの位ありますか。マーカーを付けて貰えると助かります。」

 地図とマーカーを渡すと、2人とも相談しながらマーカーで塗っていく。

「思ったより多くないですね。16軒の中で白猫のお家はありますか。」

「いえ、ありません。保護団体の所は抜いてですけれど。」

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます。」

「では調査結果は、明日にはお知らせします。メールでのご連絡でよろしいでしょうか。」

「はい、よろしくお願いします。」

 2人は挨拶をすると、帰っていった。


 2人が外に出ると、田中さんと木田さんの奥様が駆け寄ってきた。

「どうでした、依頼は引き受けて貰えましたか。」

 田中さんが心配そうに聞いてくる。

「はい、受けて頂きました。明日結果報告のメールを送ってくれるそうです。なんとかあの子の無事が分かると良いんですけれど。」

「そうですね、今日中に結果が出るかは分かりませんけれど、良かったらお2人とも家でお待ちになったらいかがかしら。もしかしたら、今日の調査後何かわかっているかもしれませんし。」

「いえ、そんなご迷惑をかける訳には。」

「良いんですよ。家にも猫がいますからね。お気持ちはよく分かりますし、主人が軽い軽食を用意しているんです。さ、皆さまどうぞいらして。」

 そういうと、2人とも奥様と田中さんに連れていかれた。


 2人が出て行くと、3人とも早速捜索会議を始める。

 この前購入して届いたホワイトボードを出してくると、猫の情報が書かれた地図を張り付けた。それをもとに、ボードに最後の日の猫の行動を書き出していく。


「ボードがあるといいわね、一目見て分かるからやりやすいわ。何よりカッコイイ。

結構自由に動いているように見えるけれど、いる場所は大体決まっているから、この範囲がこの猫の縄張りみたいね。まず、野良猫なのか飼い猫なのかだけど、どう思う。」

「そうですね、白い猫ってどうしても汚れが目立つから、野良猫だと2人が汚れに気付くんじゃないかと思うんです。だから、いつもきれいなら飼い猫じゃないのかなと思います。首輪はしない飼い主さんも多いですし、実際私の友達の猫は首輪していません。」

「飼い猫ならこの行動範囲内の近くに猫の家があるわね。池田さん達が知らないなら、若い人達が飼い主かもしれないわ。

 外に出ないとなると病気か怪我かしら。でも病院には来てないっていうし、家にいるのかもしれないわね。」

「動物病院って車で連れて行く人が多いから、少し遠い病院でも良い評判聞くと行くって事あると思う。

 猫への対応が良いとか分かりやすく丁寧に説明してくれるとか、人間もそうだけど信頼できる病院って見つけるの難しいじゃない。行ってみて信頼できると思ったら、少し遠いくても通うと思う。

 猫の為だし。だから、もう一回り広い範囲の病院にも聞いてみようか。」

「そうね、でもその前に猫を見たっていう最後の方の場所を、いくつか回ってみましょう。実際に場所を見ておいた方が良いと思うの。」

「はい、暗くなる前に行っちゃいましょうか。何だか猫を探すとか探偵の仕事みたいですね。スマホと地図のコピーを持っていきますね。」

「そうね、早速行きましょう。暗くなる前に少しでも見ておきたいわ。」

 皆すぐに支度すると、コピーした地図をもって出かけて行った。


 最後の方に白猫のいった場所は、自然豊かな住宅街といった感じの場所だった。

「この辺りは猫の通り道って感じですね。狭い路地で上は木の枝と葉で周囲から見えにくいです。夜は歩かないような道ですね、昼間でも余り歩きたくないです。」

「そうだね、1人では歩かない方がいい道だと思う。しかもここ防犯カメラないんだ。

 プライバシーとの兼ね合いの問題は難しいけど、防犯カメラつけてるところ増えてよね。どうせつけるなら、こういう危険そうな所にこそつけてほしいよ。」

「私もそう思う。仕事で仕方なく遅くなることだってあるし、残業が多いからってタクシーばっかり使って帰れるわけじゃないのよ。」

 一通り文句を言いスッキリとすると、検証が始まった。


「で、この辺りを通って、最後はそこの公園の所から足取りが消えているわ。お昼過ぎね。

孫を遊ばせていたお婆さんがお昼ご飯で帰る時に、白猫がいるのに気づいて声をかけて撫でてあげたって書いてある。」

「お昼頃って猫何してるんだろう。お昼寝かな。」

「んー、ご飯は10時に食べているからお散歩をして、この辺りをうろついてどこに行ったかよね。」

「トラックに乗ってお昼寝してて遠くに行っちゃうとかいう話を聞いた事あります。それともここの近くに本宅があるのかな。」

「やっぱり、飼い猫かしら。若い人に聞いてみる方が良いかもしれないわね。この辺りに知り合いとかいたりしない。」

「それなら、木田さんの奥様に聞いてみます。きっと知っている人を紹介して下さると思いますよ。お礼は何が良いですかね。」

「食べ物で良かったら、朝焼いたキッシュがあるよ。パンがお好きみたいだからどうだろう。私達の分と花の叔父様一家の分で持ってきたから。私達の分を回したらいいわね。」

「そうね。残念だけどそれでいきましょう。せっかく来たしついでにこの辺りで最近引っ越した人がいないか見ながら帰りましょう。」

「あの2人の所に来ていた猫、本宅の人が引っ越して一緒に別の場所に行っちゃったのかもしれないってことですね。それもありそうですね。

 ん、猫がいると思ったら三毛猫ですね。何だかアジみたいだけれど。」

「あら似てる、向こうの方に行ったわね。一瞬だと自分の知っている猫に見えちゃうわよね。」

「そうなんだ、私は見えなかったけれど。せっかくアジに似た猫のお導きだし、行ってみよっか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る