第4話【探偵屋】が【何でも屋】になる

 雪は皆と別れた後、早速ホームページを作り始めた。

 無料の中でも出来る事は少なくてもセキュリティが一番しっかりしているものを選ぶと早速ホームページを作成。最後に【探偵屋】の文字を入れると、暫くの間文字をじっと見つめる。

「まさか、オフ会で初めて会った人達と一緒に【探偵屋】を始めるなんて思わなかった。

本当にびっくり、でも楽しい時間になるといいな。一緒にいて余計な気づかいをしなくてもいいし、趣味が一緒だから話していても盛りあがって楽しいし、良い人達に出会えて良かったな。」

 嬉しそうにつぶやいている雪、2人と出会ってから表情が明るくなった。

 両親もそんな雪の様子を見て微笑んでいる。

「最近の雪は楽しそうね。あの子、何度か派遣をやった後に小さい事務所の事務として正社員になった時は喜んでいたけれど。古風な社風だって言いながらも頑張って働いていたら、徐々に暗くなって具合も悪くなっちゃって。正直雪が退職するといった時にほっとしたのよ。

 一見おとなしそうだけど気が強いから古風な会社は雪には合わなかったのよね。自分を押し殺して無理して通っていたけれど、辛そうだったわ。

 あなた知ってた? 雪が辞める事を決意したのは、友人に笑い方がヒステリックで変な笑い方になっていると言われて心配されたからなんですって。退職した会社が悪い訳ではなく、どちらが良い、悪い、でもなくて自分がその会社に合わなかったんだと思うって言ってたわ。こうなる前にもっと早く辞めるべきだったって。」

 話を聞きながら、父親は心配そうに答える。

「でももう3年たった。短期の仕事を時々するくらいで大丈夫なのか。」

「何言ってるのよ、本人だって今後に不安は持っているでしょ。今は色々模索している状態じゃないの。ゆっくりでも進んでいけるようになった今、無理をして台無しになんてして欲しくないわ。

 雪のペースで進むしかないの。息抜きの料理をして、そのレシピをブログに載せているっていってたし。探偵ゲームのオフ会にも出かけて行ったわ。

 そもそも大丈夫なのかって、どういう意味なのよ。ああだこうだいうだけで、実際に助けとなるような事なんて何もしてないじゃないの。」

「いや、でも結婚とか。結婚しないならきちんと仕事して収入を得ないと。」

 ため息をついて首を振る母親。

「あなたが雪を心配しているのは分かっているけれど、ずれてるのよ。

 結婚って、今どき結婚したら幸せだなんて妄想よ。大切な相手と結婚するから幸せなの。それだって上手くいくのは大変なのに。

 あなたの親戚の秀君なんて、あなたも皆も良い相手と結婚して幸せになったとか言って、雪にもさんざん結婚した方が良いとか言ったけれど。1年もたたずに相手の浮気で離婚して捨てられたじゃない。しかも秀君がたった一度話し合いをしようとしただけなのに、その後からストーカー扱い。

 メールや家に会いに来て会えずにウロウロしている所を録画されてストーカーの証拠として警察に提出するとか言われて。結局、慰謝料とられてっぽいって捨てられたじゃないの。

 あの時偉そうに、秀君が雪に向かって自慢してたけど、秀君の結婚のどこに幸せがあったのかしら。」


 自分が妻の地雷を踏んだことに気付いたが、すでに遅かった。怒ったまま部屋を出て行く妻。

「ああ、また余計な事を言っちまった。そんなつもりじゃないのに、地雷って難しいよ。」

 悲しんでいる夫をこっそりとみて妻はフフフっと笑っていた。この後夫は妻の好物プリンを作って謝るのだ。ついでだが、雪もプリンを貰い美味しくいただいた。


 頑張った甲斐もあり1日で完成したホームページ。雪は早速、香と花にホームページのリンクを張ってメールを送った。返信をドキドキしながら待っていると、2人からすぐに返信が来た。作ってくれたことへの感謝と使いやすそうとかレイアウトが見やすくて凄くいいと褒めてくれていた。その後、花は日程を調整し皆が叔父さん達に会う日が決まった。


 香と雪は花と待ち合わせした最寄り駅に行く前に、叔父さん達の好物だというお団子と花達用にフィナンシェを買って行く。【探偵屋】の内容説明は香が、ホームページの説明は雪がすることにして、最終確認をしながら待ち合わせの駅に向かっていた。

 駅にいた花と合流すると、少し緊張しながら歩いて行く2人。この前花から叔母と従姉が現役の警官だと知らされたせいか、固くなっているのだ。

「叔母も従姉も明るくて楽しい人達だから大丈夫ですよ。従姉の光は今日はいないんですけれど。お2人に会えなくて残念がっていました。」

「そうなの、光さんに私達が宜しくお伝えくださいって言っていたって伝えてね。」

「はい。着きました、あのマンションが叔父達のマンションです。セキュリティにはとても気を使っているので、1人暮らしの女性に人気があるんですよ。」

「うん、現役警官がいてくれることが人気の原因だと思うけどね。」

 雪の言葉に頷く香。2人は緊張したまま中へ入っていった。


 中に入ると、優しそうな男性と明るい雰囲気の女性が待っていた。花が皆を紹介してくれる。

 お互いに挨拶をして、2人が店舗を貸してもらうお礼を言う。だが逆に管理している側からすると人を雇わなくて済むから助かるとお礼を言われ恐縮する2人。


 一息ついた所で、【探偵屋】に関して香が説明をして、雪がホームページを見せる。

すると、【探偵屋】の名前を見た、叔父の顔が固まった。

「花、気のせいかもしれないが。木田さん、ああ自治会長で今回看板を作った人なんだけど【探偵屋】じゃなくて【何でも屋】で看板を作って、店舗に飾ってた気がするんだが。」

「え・・・・・・。 【何でも屋】って随分内容変わるじゃん」

 慌てて木田さんに送ったメールを見る花。【探偵屋】と書かれている。

「どのみち店舗も一度見て貰いたかったし、今から車出すから見に行ってみよう。」

 そういうと、全員揃って車に乗って店舗に向かう。


「でも、私の見間違いかもしれないし。それに実際に店舗の中を見ておけば必要な家具とかイメージがわきやすいよね。掃除は一応しておいたんだよ」

「そうですね、今日見に行けて良かったです。ありがとうございます。」

 店舗に着いた一行は、入口の上にある看板を見上げる。

看板には【何でも屋】大きな文字でしっかりと書いてあった。

 そこに、自治会長の木田さんがにこにこ笑いながら登場する。家は店舗の向かいなので皆が来るのを見て出てきたのだろう。これからのご近所との付き合いと名前を天秤にかけた3人。目を見合わせて頷いた。


「いやあ、鈴木さんこんにちは。初めましてお嬢さん達、この辺の自治会長をやっている木田です。妻は今日は出かけていてね。今度挨拶しに行きますよ。」

「初めまして、佐々木です。この度は看板を書いていただいたそうでありがとうございます。これからよろしくお願いします。」

「菊池です。立派な看板ですね、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」

 ショックを隠して笑顔で挨拶をする鈴木家と香と雪。木田さんは喜びながら帰っていった。


 木田さんを見送ると、ぼそぼそと相談を始めた皆。

「うーん、結構依頼内容が変わっちゃう気がするから、さっき聞かせてもらった依頼を重点的にやるって書いた方が良いかもね。このあたりの不動産屋みたいにポスターっぽくね。」

「はい、そうします。家具を運ぶ時に一緒に張っておきます。」

「そうね、後そんなに広い店舗じゃないから、5人も入ったら満員になるのが安心よ。

 そうでないと、寄り合い所になっちゃうから。新しい人って珍しくて見に来る人達もいるのよ。防犯面では鉄壁の守りになるんだけどね。」


 話が終わると、皆微妙な顔で看板を見つめて帰っていった。ついでだからと、叔父さんに駅まで車で送ってもらった2人。お礼を言い、花とはまたメールで次回会う日にちを決める事を確認すると帰っていった。


 帰りの車で決まった通り、雪はホームページの名前を【何でも屋】に変更した。

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