第44話 オレが隣のクラスの不良に絡まれる

「よお、誠一! オレら同じグループだな。いやー、知ってる奴がいてよかったぜー」


「僕もまさか君と同じグループになるとはね。確か亮君だったね? 君とは以前一攫千金転生について語り合ったけれど、いやはやラノベの縁というのは不思議なものだね」


 あれからオレ達は無事京都の旅館にたどり着き、そこで学校側から指定されたグループ班になってそれぞれの部屋へと向かった。

 ちなみにグループは四人一組。

 なおこのグループは異なるクラスから割り振られたものであり、オレ達A組からはオレと勉野勤太。そしてB組からは亮ともうひとりの四人グループとなった。


「それでどうするよ。せっかくこの三人同じ部屋になったんだし、ゲームでもするか? トランプとか」


「いいね、僕もそのつもりでトランプを持ってきていたよ」


「お、勤太とか言ったか? お前準備がいいなー。この間の一攫千金転生の時といい、お前とは仲良くなれそうだよ」


「ふふ、それは僕のセリフさ。亮君。とは言え、一番の親友は誠一君になるが、そこは諦めてくれよ」


 いや、誰が一番の親友だよ。と勤太のセリフにツッコミを入れつつ、まあせっかくなのでトランプ遊びでもするかと思った瞬間、


「……チッ、おい、てめえら。そんなので遊んでる場合か。あと三十分くらいで食堂でメシを出すって先公共が言っていただろうが。そんなゲームやってる暇があったらまずは荷物の整理でもしろよ」


 と、そんなオレ達に声をかける金髪の男。

 彼は確か……B組の明(あきら)だったか。

 二年の中でも札付きの悪と呼ばれる不良であり、それがなぜだかオレ達と同じグループになっていた。

 うう、近くで見るとやっぱり怖ぇな……。とは言え、彼の言っていることは正論だ。

 あと三十分足らずで食事なのに、ここでガッツリゲームをやっている場合ではない。


「そ、そうだね。明君の言うとおり、まずは荷物の整理でもしようか……」


「だ、だなー。そ、それじゃあ、オレはこっちのベッドを使うから」


「じゃあ僕はその隣で……」


「え、ちょ、おい!?」


 気づくと勤太と亮がそれぞれベッドを二つ選び、残った最後の一つは明の隣のベッドとなった。

 う、うわー。これからこの旅館ではオレはこの人の隣で眠らないといけないのか。き、緊張するなー。

 そう思いつつも、当の明さんは気にした様子はなく、スマホを片手になにやら画面を覗き込んでいる。

 あ、最近の不良でもスマホはいじるんだなと、どうでもいいことを思う。


「それじゃあ、時間までラノベの話でもしないかい?」


 そう言ってキラリとメガネを光らせる勤太。そして、それに食いつく亮。無論、話題は一攫千金転生だ。こいつらも飽きないなぁ。むしろ、この二人こそ周波数ぴったりなのでは? そんなこと思いながらもオレも会話に参加しようとしたところ、


「お、そうだ。おい、そっちのお前……誠一って言ったか? ちょっと面貸せ」


「え?」


 唐突に部屋の隅でスマホをいじっていた金髪の不良、明がオレを名指しする。

 な、なんでオレ。思わず勤太や亮の方を振り向くが、ふたりは即座に視線を外す。お、お前ら……!


「おい、キョロキョロするな。お前だよ、お前。いいからちょっと来い。話がある」


「……は、はい……」


 目の前に立ってオレを見下すように言われたらさすがに後には引けないためにオレはすごすごと明の後をついていく。

 なお、勤太と亮は二人してオレにグッジョブのサインを送ったが、お前らあとで覚えてろよ。


「さてと、このへんでいいか」


 見ると明らかに人気のない通路にオレを案内した明。

 照明は薄暗く何かをするにはもってこいの空間だ。ヤバイ。


「でよ、お前に聞きたいことがあるんだよ」


「は、はい、な、なんでしょうか?」


 怯えるオレに次の瞬間、明が呟いたセリフは意外なものであった。


「お前よぉ……付き合ってる女とかいるの?」


「……はい?」


 突然聞かれた問いの内容にオレは困惑する。

 え、えーと、付き合ってる女? それってどういうこと?


「だから彼女だよ、いるのか! いねえのか!?」


「ひっ! い、いません!」


「そーか! そーか! いないのかー! いやー、よかったー。マジ安心したぜー。ははははっ!」


 そう言ってオレの肩をポンポンと叩いたあと、なぜだかフレンドリーにオレと肩を組む明。


「でよ、ちょっと頼みがあるんだけどよ。いいか?」


「は、はあ、なんでしょうか?」


 オレにできることならいいんですが……と思った矢先、明は再び理解不能な一言を呟く。


「付き合ってくれ」


「…………は?」


「だから、付き合えって言ってるんだよ! 彼女いねえんだろう? なら、いいじゃねえかよ!」


 そう言ってなぜだか顔を赤くしてオレに詰め寄る明。

 え、えーと、こ、これはまさか、その、そ、そういう……!!?


「い、いや! あの! ちょ! そ、それはさ、さすがに……!?」


「なんでだよ! まさかてめえ……不満だっていうのか!?」


「い、いや、ま、まあ、その、どちらかというと、そうですけど……そ、その、オレも健全なノーマルな男子なのであなたからの要望にはち、ちょっと答えられな……」


「なんだと!? なんでだ! 何が不満なんだ! オレが言うのもなんだが、確かにちょっと不良じみてるが根はいいやつで好きな奴には一直線、直上! さらに料理もそこそこできて器量もいい! こんなにいい物件が他にあるか!? いいから付き合え!!」


「いや、た、確かに不良でもいい人ってのは定番かもですが……で、でも、その! お、オレはやっぱり付き合うなら異性とがよくって……!」


「ああん、お前何言ってんだ?」


 混乱しそう口走るオレに明が怪訝な表情をする。

 え、いやだって、さっきまでの流れからすると……と、そんなことを口にしようとした瞬間であった。


「あれ、そこにいるのって先輩じゃないっすかー」


 ふと声がした方を振り向くとそこには一年年下の後輩、例のロリ不良こと鬼島樹里がいた。

 そういえば、この修学旅行は全学年が参加の行事でもあった。

 そのため、後輩の樹里もこの旅館に泊まっていても不思議ではない。


「こんな暗がりで何してるんすか先輩ー……って、あっ」


 と、そんな樹里がこちらに近づくとオレに絡んでいる明とバッチリ目が合う。

 あ、やばい、これは勘違いされる! 絡まれているとか、愛の告白とかされているとか! 後者も嫌だが前者の場合、樹里が明と喧嘩に発展する可能性がある! それはまずい!

 なんとかして誤解をとこうとした瞬間、


「何してるんっすか、兄貴」


「……へ?」


 ジト目の樹里がオレに絡む明へとそう口走るのであった。

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