第43話 オレと修学旅行と電車
「いやー、修学旅行楽しみだねー。うち、京都行くの初めてだからさー、お土産とか何買えばいいのかなー」
「やはり京都といえば八つ橋じゃないかな。僕はそれをお土産にするつもりだけど、誠一君はどうするんだい?」
「あ、ああ、まあ、行ってから決めるよ」
それからしばらくオレ達はあっという間に京都への旅行へと出発していた。
オレ達のいた東京から京都まではさすがにバスでは時間がかかるため、電車での移動。
ちなみに席はオレの両隣に晴香さんと勤太。
そして、少し離れた場所に華流院さんがいる。
なお、あれから華流院さんと口を聞くことはなく、彼女はいつもの様子で手に持った本を読み、周りを受け付けない空気を保っていた。
「あ、そうだ! 京都につくまで時間あるし三人で時間を潰さない?」
「お、いいねぇ。僕、この日のためにトランプを持ってきたよ。どうだい、誠一君。ここは一つババ抜きでも」
「い、いやー、今ここでトランプ遊びはちょっと……そういうのは夜、部屋で皆で楽しみたいしさー」
「ふむ。それもそうだね。では、やはりここは定番の……読書タイムと行こうか!」
そう言って勤太が取り出したのは『一攫千金転生』の最新刊。準備がいいなー、こいつ。
「そうね! それじゃあ、三人で一緒に読み込んで感想を言い合いましょう!」
それに続くように晴香さんも自らの新刊を取り出す。
いや、読み込むもなにもアンタ作者でしょう。感想もクソもないわ。
「いやー、それも今回は遠慮しておくよ。オレは別のを読むから」
「はあー!? ちょ、誠一君、何言ってるの!? せっかくの読書タイムだよ! なら、一緒に一攫千金を読み込むのが有意義な時間じゃん!」
「そうだよ、誠一君! 僕と一緒に一攫千金転生を読み込むって約束したじゃないか!」
んな約束はしとらんわ。
あとオレがクソ展開好きのクソ小説好きと最近は多くの人に認識されているが、違うからな。
オレは元々良作が好きな普通のラノベ好きの読者だから。
確かに、異世オレハーレムや一攫千金転生を読み込んでいるが、それは内容が気になったからというのと、たいして読み込んでもいないのに批判なんて出来ないという理由からだ。
好きなものはちゃんと別にあるからな。
「とにかく今回のオレはここしばらく読むのを放置していたラノベの読み込みに入る。悪いけれど二人の会話やゲームに参加する余裕はないよ」
「えー、なにそれ、つまんないよー」
そう言ってぶー垂れる晴香さんであったが、こっちもわりとマジで積んでる小説があるんだ。
特にここ最近は色々と読み込む小説が多くて疎かにしていたんで、この機会になんとか消化しておきたいんだよ。
「あれ、誠一君が読んでるそれってロリ戦記?」
「ああ、少し前に最新刊が出てたんだけど、なかなか読む機会がなくってね。前から追ってたんだけどさ」
「へー、それいいよね。うちも好きだよー」
あ、そうなの? というか、そういえば晴香さんの小説の好みとかまったく聞いたことなかったな。
せっかくなので、どういうのが好みなのか聞いてみる。
「え? うちの小説の好み? ……うーん、なんだろうね。うちは結構なんでも読むタイプだけど。ああ、でも最初はメリーポッターと賢者の石から入ったなー。他にもエルニア国物語とか」
まさかの海外系!?
ちょっと驚いた。な、なるほど。でも確かに中学の頃、ラノベとか読まない友人もメリーポッターシリーズはわりと読んでたな。
まあ、あれは映画にもなっていて世界的にも有名だからな。
「でも不思議だよねー。メリーポッターとかは読んでてもそんなに言われないのに、いわゆるなろう系のラノベを学校で読んでるとたまにからかわれるんだよねー。うちから言わせてみれば、どっちも同じくらい面白くて、それぞれに異なる魅力があるのに、どうしてあんなに差別したがるんだろうねー」
あー、確かにそういうのあるよなー。
これもやっぱり人間特有の上から目線なんだろうな。
世界的に認められているものと、そうでないものとの差。確かに有名な作品というのはそれだけでブランド的な価値があるけれど、無名だからとけなされる作品があっていいはずもない。まして、それらを比べるというのはやはり間違いだろう。
そんなことを思っていると、オレはいつかの華流院さんとの口論を思い出す。
そういえば、最初に彼女から話しかけられた時もそんなような話をしていた。
ふと、離れた席に座る華流院の方を見る。
そこではやはりいつもと変わらぬ姿勢のまま読書にふけっている彼女の姿がある。
電車の中でも絵になるような美しさ。
そこだけがまるで絵画のように切り離された雰囲気を醸し出す彼女。
いつもならば、オレ達のこんな会話に割って入ってもおかしくはないのだが、やはり彼女が反応を示すことはない。
いや、本来はこれが華流院怜奈という学園でも別格の存在なのだ。
そう思いながらもオレはどこか寂しい思いを抱えていることに自分でも気づくのであった。
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