第41話 オレの幼馴染がヤバイ奴なわけがない

「なによ、いきなり大声出して」


「いや、まあ、その、うん……」


 まさかのあのにゃんころ二世先生こと晴香さんに殺害予告を出していたヤバイ奴こと『カイン信者』が、オレの幼馴染の彩乃だったとは……。

 幸いというべきか、彼女は違う高校のために晴香さんのことを知らない。

 つまりはにゃんころ二世先生の正体にも当然気づいていない。これは絶対に知らせてはいけないと、先ほどの会話で理解できた。


「い、いやー、それにしてもお前がそんなに一攫千金転生が好きだったとはなー」


「ええ、好き“だった”わよ」


 だったというところをわざわざ強調するあたり、彼女の怒りは本物のようだ。

 というか今も怒り頂点の様子でイライラしているのが分かる。


「いやー、まあー、確かに最新巻の展開はひどいものだったけどさー。さ、さすがに作者を殺すとかそういう殺害予告はいけないと思うよー。それって普通に犯罪だよー」


「そうね。アタシもあれがにゃんころ二世先生が当初から考えていたシナリオなら、まあ不本意だけど受け入れていたわ。けれど、そうじゃないのよ、あれは……」


 ん? どういうことだ? とオレが突っ込むより早く彩乃は答える。


「あれは……一人の読者を振り向かせるために書いた作者の傲慢、エゴによってできたクソ展開、クソ最新巻だったのよー!!」


 ぶーーーっ!! 思わず吹き出す。

 幸い、彩乃はその事に怒り心頭の様子でこちらには気づいていない。

 あ、危ない。危ない。し、しかし、なぜそのことを彩乃が知っているんだ?


「あ、彩乃さん? な、なんでそういうことを知ってるんですか?」


「そりゃ作者に直接聞いたからよ」


「直接? どういうこと?」


「メール。アタシ、作者とメールのやり取りしてるの」


 なんですとーーーー!?

 とんでもない情報にうろたえる。メール!? 書籍化作者と!?

 いや、まあ、確かに可能な人は可能なのかもしれない。実際、メールアドレス載せてる作者もいなくはない。

 しかし、それに作者が直接答えるなんて……。よっぽどファンとの交流を大事にしている人か、あるいは彩乃がそれほど作者――晴香さんに認められた人ってことなのか?


「にゃんころ二世先生とは一攫千金転生がなろうに一話目から載った瞬間から交流させてもらっていたの。他の人はよくあるなろう小説と思っていたけれど、アタシは一話目から光るものを感じていた。この作者さんには才能があるって。事実、一攫千金転生は面白かった。そして、アニメになるまでのヒット作になった。アタシはにゃんころ二世先生が無名の頃からずっと応援して、一攫千金が書籍化した際も祝福のメールをして、それから一巻が出るごとに長文の感想をいつも送っていたわ。勿論、アニメ化には誰よりも喜んだ。けれど、けれどよ。そんなアタシを裏切るような真似をにゃんころ二世先生はしたのよ……!!」


 う、うーん。確かにここまでのめり込んだファンとしては、新作の展開をどこの誰かも知らない読者のために全ての展開を放り投げてああしたなんて言ったらキレて当然だわ。


「というか、にゃんころ二世先生がそうしたって返信きたの?」


「ええ、来たわ。百通ほど、新刊に対する文句をメールしたところ、流石に先生もウザイと感じたのでしょうね。こんなメールを返してきたわ」


『うっさーい! アンタが何言おうとこれはうちの作品なんだから、どうしようとうちの勝手でしょうー!?』


『だから! どうしてそうしたのかってアタシは聞いてるんです! ちゃんと答えるまでアタシは千通でも万通でも送りますよー!!』


『だー! もうー! やめー!! とある男子にうちの作品を読み込ませるためにああしたのよー!!』


『はあー!? ちょっと待ってください、にゃんころ二世先生! それって一人の読者を得るためにあんな最新巻を書いたってことですかー!?』


『そうだけど、なにか文句ある?』


『文句あるに決まっています!! 許しません!! アタシは絶対に許しません!! 尊敬し、全てを捧げここまであなたのファンとして尽くしてきたのにこの裏切りはあんまりです!! 殺します!! 絶対にあなたを殺します!!』


『はっ! やれるものならやってみればいいたい!! ぺっ!』


 う、うわー、なんだこの低レベルなやり取り。

 というか晴香さん煽りすぎ。仮にも相手はあなたが無名時代から応援していたファンですよ。それにツバ吐きかけるとか、どういうこと……。

 思わぬメールのやり取りにドン引きオレであったが、彩乃の怒りは本物であった。


「こんなメール送られてキレずにいられるファンがいるかって話よー! っていうかファンに唾吐くとかどういうつもり!? マジで許せないー!! 作者もそうだけど、アタシのにゃんころ二世先生にこんなことをさせたその読者ってやつも許せないー!! 見つけ出してにゃんころ二世先生と一緒に八つ裂きにしてやるーーー!!!」


 と、なにやらかなり物騒なことを言っている。

 あかん。これ、その読者がオレだってバレたら、オレも晴香さんと一緒にこいつに殺される。

 こいつは昔から融通が利かず、やると言ったらやる性格だった。

 ある時、クラスの男子の一人が「なろう小説とかオタクくせーw あんなの読んでるとかキモイわーw」とかバカにしたことがあったが、次の瞬間、そいつは彩乃に投げ飛ばされていた。

 実はこいつはこう見えて道場の一人娘なのだ。

 そのおかげで運動神経抜群で、特に格闘技全般が人一倍うまい。

 そんなこいつに投げ飛ばされればオレは軽く死ねる。

 うん、このことは絶対に言うまいと固く心に誓った。


「にしても、そのメールにかなりご立腹の様子だけど、全部保護されてるのはどうしてなんだ?」


「はあー!? 当たり前でしょう! あのにゃんころ二世先生からの返信メールよ! 届いたその日にパソコン、スマホそれぞれに保存用、観賞用と別々に保存したわ! なんだったら毎日にゃんころ二世先生からの返信メールをニヤニヤ見返しながら、その後湧き上がる怒りに身を焦がしてるわ! くううぅ~! 許せない! 絶対ににゃんころ二世先生を見つけて八つ裂きにしてやるーーー!!」


 いや、アンチなのか信者なのかはっきりしろよ。

 と、オレが言うと誰かに突っ込まれそうなツッコミを彩乃にしつつ、その後も彩乃の一攫千金転生とにゃんころ二世先生に対する愚痴と、時折デレを聞かされ続けることとなった。

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