第39話 オレの近くに一攫千金転生の信者がいるわけがない
「やっべ、金がなくなった」
その日、オレは一攫千金転生をそれぞれ読書用、保管用、布教用、それぞれ十巻。計三十冊を購入し、さらにその後、アニメのブルーレイを注文しようとして貯金がゼロになったのを確認した。
あー、まあ、そりゃそうだよねー。
つーか、異世オレハーレムもそれぞれ三冊ずつ購入して、しかもブルーレイも全巻購入してたからなー。
むしろ、これまでよくぞオレの趣味用の貯金が間に合ったものだ。
とは言え、底をついた以上はなんとかして金を工面しないといけない。
来月には異世オレハーレムの最新巻も出る。これは絶対に三冊購入しなければならない。
「バイトするかー」
とは言えバイト先の心当たりがない。オレみたいな学生をすぐに雇ってくれそうなところ……。
あっ、そういえば確か亮がその手のバイトに詳しかったのを思い出した。
オレはすぐさま亮のいる教室に向かい、事情を説明する。
「バイト? いいぜ。今ちょうどオレの家の近くにあるコンビニがバイト探してたから紹介してやるよ。本当ならオレが行くつもりだったんだけど、別のバイト引き受けて困ってたんだよー」
「マジか。助かるぜ」
さすがは親友。こういう時、助けてくれるのはありがたい。
「あっ、そうだ。亮、お前って一攫千金転生好きだったよな?」
「ああ、好きだけど。原作は前から追ってたからな」
その一言にオレは思わずビクリと身構える。
なにしろお茶侍さんのことがあったからだ。もしかしたら、亮がカイン信者という可能性もある。
となると、もしも亮が晴香さんがにゃんころ二世だと知れば……。
「そ、それじゃあ、聞いておきたいんだけど……ネットのハンドルネームとかって何使ってる? 主に一攫千金転生に感想送る時……」
「名前か?」
オレに問われてしばし悩んだ後、亮は答える。
「リョウ」
「……へ?」
「まんまだけど。リョウ。あとオレ最近は感想とか書いてないからなー」
「……最新巻読んだ?」
「いやー、それがまだなんだよー。なんかネットの評判だとすごいことになってるらしいじゃねーか。実はちょっと楽しみにしててさー。まっ、そういうわけで来週には買う予定だからお前もネタバレはすんなよ」
「あっ、うん、まあ、すごいことにはなってると言っておくよ」
そう言ってオレといくつか会話を交わした後、亮と別れる。
亮ではなかったのか。ということは一体誰が?
煮えきれない想いを抱えつつ、教室に戻ると、そこにはオレを待ち構えていた一人の男がいた。
「やあ、誠一君。久しぶりだね」
「!? べ、勉野勤太!」
そこにいたのは少し前からオレを親友とかいってやたらフレンドリーに接してくる勤太であった。
しかし、ここ二、三日は晴香さんに絡まれ、一攫千金についての話をしていたため、こいつと話す暇がなかった。
とは言え、こいつも発売された最新巻を何やら何度も読み返しており、その表情は明らかに勉強するときよりも真剣であった。
「すまないね。ここ最近は一攫千金の最新刊を読み込むのに集中していてね。君との会話を疎かにしていたよ」
「いや、それは別にいいっていうか、なんだったらそのまま疎かにしてていいというか……」
「時に君に聞きたいんだけど……一攫千金転生、あの最新巻どう思った?」
ギクリと心臓を鷲掴みされる感触を味わう。
ま、まさか、この展開……いや、ありえる。
こいつは一攫千金転生に惚れたとあれほど豪語していた。
それがあんな展開になれば暗殺屋のようなアンチに変貌しても不思議ではない。ということはまさか、勤太が――!?
「え、ええと、その、こ、今回の最新巻はなんというか……」
「じゃあ、僕から言おう。今回の一攫千金転生、その最新刊は――」
ブルブルと体を震わせながら次の瞬間、勤太は爆発した。
「最っっっ高だったよねっっ!!!」
「……へ?」
なんですと?
勤太のそのセリフにオレは耳を疑った。
「いやー! まさかあそこであれほどまでの路線変更するとはー! 僕は本当にラノベというものを甘く見ていた! 僕の予想なんか晴香さんは超えていた! あんなの地球上の誰が予測できた! おそらく一攫千金の信者であろうとあれを予測するのは不可能! 僕はさらにあの一攫千金転生のファンとなった! これからあの新たな展開でどう進むのか! いやー、もう次が楽しみでしょうがないよー!」
そう言って爽やかな笑顔を見せる勤太。めっちゃポジディブ。
てっきり、マジギレするかと思ったら、大絶賛とは。
ううむ。予想が外れた。となると、こいつがカイン信者ということはなさそうだ。
というよりも、勤太は一攫千金転生の作者の正体を知ってるわけだから、仮に勤太がカイン信者だったらもうとっくに晴香さんを刺してるか。と物騒な考えに行き着く。
なんにしてもオレの周りの連中で晴香さんや一攫千金転生にあれほどの憎しみをぶつけている人物はいないようだ。
まあ、そりゃそうだよなー。そうそう何度もネット上の人物が身近な人でしたーなんてオチがあるわけがない。
そう思いながらオレは勤太と一緒に珍しく一攫千金転生の最新巻について熱く語るのだった。
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