第36話 オレと生徒会長が通じ合うはずがない

「え、えーと」


 思わぬ告白にオレは頭が真っ白になる。

 まさか、あの『異世オレハーレム』の感想板で親しくなったお茶侍さんが生徒会長の綾小路清彦さん?

 というか、なぜ彼はオレがジャスティスヒーローだと知っているんだ?


「あ、あの、つかぬことをお聞きするのですが……どうして綾小路さんはオレがジャスティスヒーローだと知っているんですか?」


 問いかけるオレに会長はメガネを光らせながら答える。


「その問いに関する答えは簡単だ。副会長である華流院君から聞いているからだ」


 華流院さんから?

 あ、そういえば前にオレが書き込みしているのを見ていてその時のオレのハンドルネーム『ジャスティスヒーロー』を彼女は知っていたか。


「彼女には前々から僕がラノベ好きのオタクと告白していた。時折、この生徒会室でも彼女とはラノベの話で盛り上がった。特に『異世オレハーレム』の話題に関しては今でも尽きない。で、その時に最近感想板で仲良くなったジャスティスヒーロー君の話を持ち出し、なんとか彼に会えないだろうかと彼女に相談したら、その人物なら知っていると今日紹介されたんだ。いやー、さすがは華流院君。彼女は本当に素晴らしいよ」


 なるほど……。

 というか、生徒会長ラノベオタクだったの?

 さらりと告白された事実にオレは結構驚いている。

 なぜなら、生徒会長の綾小路清彦さんと言えば、いわゆる男バージョンの華流院怜奈さんだ。

 スポーツ万能、品行方正、成績優秀、人格も穏やかで優しく学園の女子人気のナンバーワン。

 陽キャの頂点に立つような存在であり、オレのような一般生徒とはまったく接点がないと思っていた。

 そんな生徒会長がまさかのオタクだと宣言するとは。

 しかし、言われてみれば体育祭の時、やたらとラノベに詳しかったな……。あれはそういうことなのか。

 あれ、でも待てよ?


「あの、生徒会長がラノベオタクってことはわかったのですが、なんでオレ……というかジャスティスヒーローのことを華流院さんに相談したんですか?」


「それは当然だろう。というか『異世オレハーレム』関係のことなら、基本彼女に相談すれば大体の答えは返ってくるだろう?」


 ん? それってどういう意味だ?

 会長のよくわからない答えにオレがさらに問いかけようとすると、


「――っと! 会長ー! 失礼しますーー!!」


 バタンと扉が勢いよく開かれ、中に誰かが入ってくる。

 な、なんだ? と思ったら、その人物は華流院さんであった。

 あ、あれ? 華流院さん、帰ったはずじゃ?


「か、華流院君。ど、どうしたんだい? というか君は帰ったはずじゃ……?」


 オレとまったく同じ疑問を口にする会長。

 しかし、そんな会長の質問を無視するように華流院さんは会長に詰め寄る。


「か・い・ち・ょ・う。そのことは誰にも言わないって約束でしたよねー? 特にあちらの誠一君には秘密にして欲しいって昨日頼みましたよねー? お忘れですかー?」


「あっ……」


 そう華流院さんに凄まれると会長に何かを思い出したような表情をし、すぐさま頷く。


「そうだったな、すまない。華流院君……」


「いえいえ、気づいていただけてなによりです」


 そう言って華流院さんはオレに笑顔を向けると「それじゃあ、誠一君。また明日ね」と出ていく。

 いや、あの人本当に何しに出てきたんだ?


「こほんっ、まあとにかく君とはぜひ色々話したいと思っていた。感想板ではなかなか自由なトークはできないからね」


「はあ? というと」


「勿論! 『異世オレハーレム』の話だよ! 誠一君、あれ好きなんだろう!?」


「いえ、嫌いです」


 キッパリ。しかし、なぜだか会長は笑顔で答える。


「はは、またまた冗談きついよ。君は『異世オレハーレム』のファンの集いでは一際詳しい信者として崇められているよ。僕も『異世オレハーレム』はなろうで連載が始まった直後から追いかけてきたが、その僕をしても君の洞察力と推察力、なにより『異世オレハーレム』に対する愛は敬服する他ない。是非とも色々語り明かそうじゃないか」


 え、いや、オレ『異世オレハーレム』は大嫌いだと感想板でもハッキリ書いていたはずなんだが。

 なんで皆信じてくれないの?

 オレほど熱心なアンチって他にいないだろう? ねえ、なんで?


「で、感想板ではなんだったけれども、以前君が言っていた一巻の矛盾に関してなのだが、具体的にどのあたりになるんだい?」


「それはもう冒頭の主人公召喚のシーンですよ。あそこ神様が偶然転生させたとか言ってますけど、四巻で神の計画うんぬんとか言ってたじゃないですか? これ明らかに後付けの矛盾生み出してますよ。仮にあれが神の計画だとするなら、あの時点であの神のじーさんが何らかの対処しないのはおかしいでしょう。しかも転生先が魔族側とまったく関係ない場所も六巻の因縁を考えるとおかしいです」


「ふむ。確かに魔族に関しては僕も後付けっぽい感じはしていたが……」


「あとヒロインの方向転換もあからさまですよね。最初ミーアは暴力ヒロインだったじゃないですか? それが気づくと完全デレデレのヒロインの一人になって……。あいつだけは主人公の言いなりにならずに逆らうように暴力を振るっていたのに……これってウェブの読者が感想板で荒れてたのが原因じゃないかとオレは思いますね」


「あー、確かにな。ミーアは最初の頃、かなり暴力系ヒロインだったからなぁ。ウェブ読者からも嫌われていたな……。華流……じゃなかった、作者もそこのところを反省したんだろうな。路線変更された感じだ」


「それから新約武器も突然現れすぎです。あれ多分、聖戦編が終わりそうなんで新たな要素を無理やり作ったと思いますよ。じゃなきゃ、ああいう設定は物語の最初の方からあるべきですよ。というか『異世オレハーレム』そういう後出し設定が多すぎなんですよ。戦闘でもピンチになったら実は○○な秘密が主人公にはあったーとか、まったくこれだから……」


「いやー、さすがは誠一君。そこまで『異世オレハーレム』を読み込んでいると僕も議論のしがいがある。で、やっぱりこの作品のこと好きじゃないのかい?」


「大嫌いです」


 その後、『異世オレハーレム』について滅茶苦茶語った。

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