第35話 オレが生徒会室に呼ばれるわけがない

「誠一君。ちょっといいかしら」


「? 華流院さん。何か用ですか?」


「ええ、ちょっとね」


 その日、珍しく華流院さんがオレに話しかけてきた。

 普段は晴香さんがオレにちょっかいを出して、それに口を挟んだり、オレが『異世オレハーレム』の話題をした時に彼女も話に混ざるのが普通だったのだが、彼女の方からこうしていきなり声をかけてくるのは実は珍しいパターンである。


「その、実は放課後、あなたと話がしたいの」


「え?」


「もしよかったら、授業が終わったあと、生徒会室に来れないかしら」


「生徒会室、ですか。も、勿論いいですけど……」


「本当! ありがとう! それじゃあ、放課後、生徒会室にぜひ来てね」


 そう言って華流院さんはオレに笑顔を向ける。

 え、なにこの展開。

 放課後、誰もいない生徒会室で華流院さんと二人っきりで話。

 それってもしかして告は――。

 と、そんな甘い夢を見ながらオレは放課後を待つこととなる。


◇  ◇  ◇


「ここが生徒会室か……」


 そうして迎えた放課後。

 オレは生徒会室の前にいる。

 この奥に華流院さんがオレを待っている。一体、どんな話をするつもりなんだろうか?

 そんなわずかな緊張と胸の高鳴りを抑えながら、オレは扉をノックし、中に入る。


「失礼します」


「誠一君! 来てくれたのね」


 扉を開けると、その先にいたのは華流院怜奈さんともうひとり――生徒会長の綾小路(あやのこうじ)清彦(きよひこ)さんがいた。

 あれ、どうしてこの人も一緒に?


「やあ、誠一君。待っていたよ。さあ、そちらのソファに座ってくれたまえ」


「は、はあ?」


 生徒会室に入るやいなや、生徒会長の綾小路さんがなぜだかオレをそのようにエスコートする。

 そうして、オレがソファに座ると、それと対面するように会長が座る。


「それでは会長。私はそろそろ帰宅いたしますね」


「ああ、ご苦労様。副会長。後のことは僕がやっておくよ」


「はい。それじゃあ、誠一くんもまた明日ね」


「へっ!?」


 思わぬ華流院さんのそのセリフにオレは呆気にとられる。

 え、いや、ちょっと!? ここに呼んだのはあなたじゃなかったんですか!?

 そう思ったオレであったが、そのオレの考えを否定するように華流院さんは続ける。


「本当にありがとう、誠一君。会長がどうしてもあなたと話したいって言っていたから、こうしてその場を整えられて私も嬉しいわ。それじゃあ、よろしければ会長の話し相手、お願いするわね」


「え、いや、あの、ちょっ!?」


 それってどういう! とオレが問い詰めるよりも早く華流院さんはそのまま扉を開き、部屋から出ていく。


 ……えーと、つまりこれは華流院さんがオレと話したかったのではなく、生徒会長の綾小路さんがオレと話したくて、華流院さんがその場を作るためにオレに放課後ここに来るよう頼んだと。

 な、なんだよ、それ。オレの淡いドキドキを返してくれ。

 思わぬ真相に肩から力なくガックリとするオレであったが、そんなオレとは対照的になぜだか生徒会長の綾小路さんは上機嫌に話しかけてくる。


「すまないね、誠一君。どうしても君と二人っきりで話したいと思ってね」


「は、はあ」


 なぜに二人っきりで?

 というか、オレあなたと何か関係ありましたっけ?

 よくわからない事態に困惑するオレ。

 だが、会長は湯呑を取り出すと、そのままお茶を勧めてくる。


「放課後まで疲れただろう。よければ、お茶でも飲まないかい」


「は、はあ、ありがとうございます」


 会長が注いでくれたお茶をありがたく飲むオレ。

 うん、結構いけるな。

 そんなことを思っていると会長は奇妙なことを口にする。


「ところで誠一君。侍というのをどう思うかね?」


「? はあ?」


「僕は昔から侍というものが好きでね。日本独自の職業、西洋だと騎士などもあるが侍はそれとも少し異なる独自の魅力がある。特にファンタジー系に侍などが出てくると恥ずかしながら僕は興奮するタチでね」


「はあ?」


 この人はさっきから何を言っているんだ?

 生徒会長のわけのわからないトークに疑問符を浮かべるオレだが、なぜだか会長はわざとらしく咳をしながら話を続ける。


「……ちなみに僕はお茶も好きだ。お茶と侍。どちらも日本の文化と思わないかね?」


「はあ、そうっすね」


 お茶と侍ねぇ。なんでその二つ?

 よくわからない組み合わせにとりあえずオレはお茶を飲みながら用意された茶菓子も頂く。あ、これ結構美味しい。


「……し、仕方がない。ここまで言ってもわからないのなら、直接言おうか」


 ? なんのことだろう?

 よく分からず菓子を頬張っていると次の瞬間、生徒会長からとんでもないセリフが飛び出した。


「『お茶侍さんへ、いつもお疲れ様です。迷惑コメントへの対処の方、ありがとうございます。本来なら私の役目なのですが、最近はお茶侍さんのおかげで悪質なユーザーも減り、迷惑な感想も減ってきております。この感想板を利用している一読者としてお礼を申し上げます』ジャスティスヒーローより」


 ぶーーーーーっ!!!

 食っていた菓子と茶を吹き出した。

 残ったお茶が気管に入り、思わず咳き込むオレであったが、胸のあたりを何度か叩き事なきを得る。

 いや、今はそれよりも先ほどの生徒会長のセリフだ。

 あれは紛れもなくオレが『異世オレハーレム』の感想板でお茶侍様宛にあてたメッセージ。ということは――


「えっと、ま、まさか……」


「そう、その通りだよ。ジャスティスヒーロー君」


 キラリとメガネを光らせて会長はオレを見る。


「僕がお茶侍だ」

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