第33話 オレの親友が勝手に出来上がっていた
いやー、疲れた。
波乱万丈な体育祭を乗り越えてしばらく、オレはいつもの平穏な日々に戻っていた。
隣では華流院さんがいつものようになに食わぬ顔で読書をしており、更に隣では体育祭で個人成績一位を逃した晴香さんが真っ白に燃え尽きたまま机に突っ伏している。
あ、ちなみに例のなんでもする賭けについては華流院さんも一位を取れなかったということで無効ということになりました。
これに関しては華流院さんもかなり悔しがっており……というか、人生で初めての敗北らしく翌日はショックのあまり寝込んで登校拒否をしておりました。マジかよ。
まあ、それはともかくオレはいつもの通り例の『異世オレハーレム』の読書に入ろうとするが……。
「やあやあ、誠一君。調子はどうだい」
あの体育祭以降、変わったことが一つ起きた。
それはこの勉野勤太である。
こいつ、どういうわけか体育祭が終わった翌日からなぜかオレに対してフレンドリーに接するようになった。
というか華流院さんが休んだその日は「いやー、彼女が休むなんて珍しいねー。誠一君」「ところで誠一君。それは何を読んでいるんだい?」「誠一君。三日後の一攫千金のアニメ楽しみだねー」とめっちゃ会話してくる。それまで一言も話したことなかったのになんで? 軽くうざい。
「ところで誠一君。昨日の一攫千金のアニメ見たかいー?」
「まあ、一応見たけれど……」
「そうかい! そうかい! いやー、あれはよかったねー。僕も正直アニメなんてお子様が見るものだと思っていたけれど、あの一攫千金転生のアニメとあっては見ないわけにはいかないからねー。しかもあそこは僕が好きな二巻屈指の見せ場、バルトン商会との舌戦。いやー、燃えたねー。主人公の演説もさることながら、それまでの伏線が活きているんだわー」
はあ、そうっすね。
そんな風にえらい熱く語っている勤太を横目に、隣に晴香さんを見ると、彼女のどこから取り出したのか自分の『一攫千金転生』二巻を読みながら、めっちゃこっちに聞き耳立ててる様子。
というか、さっきまで死んでいたのに今は肌ツヤもよく、頬は嬉しさで赤くなっており、唇もわかりやすく笑っている。げ、現金な人だなー。
「で、君は昨日のアニメで一番良かったシーンはどこだい!?」
「え?」
唐突に勤太にそう言われてオレは焦る。
い、いやあ、そんなこと言われてもぶっちゃけそこまで真剣に見てなかったからなー。半分流し見というか……。
でも、目の前のこいつの熱演見ていると、そんなこと言ったら怒られそうだし、というか気のせいか隣の晴香さんがこれまでにないほど全神経を集中させてオレの一言を待っている気がする。気のせい……だよね……?
「え、えーとそうだね。全体的に作画良かったよね。先週が結構手抜きだったから、今週は気合入っていたっていうかー」
「分かる! 先週は確かに僕もがっかり来たけれど、見せ場である今回のために作画班を温存させていたのならスタッフの英断に感謝だよ! いやー、さすがは誠一君。やはり君とは話が合うよ。さすがは親友だね」
「は?」
勤太が語る一攫千金の内容はともかく、今コイツなんて言った? 親友? 誰と誰が?
「あれ? どうしたんだい、親友。そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔をして」
「……一応聞いておきたいんだが、勤太。親友って誰のこと?」
オレがそう問うと勤太は迷うことなくその場で一回転してオレを指す。
「君に決まっているじゃないか! 我が生涯の友にして、始まりの友、矢川誠一君! 僕のような勉強オタクと友達になってくれたなんて今でも感激だよ!」
え? 友達? いつなった? 全然そんな覚えないぞ。というか、こいつが話しかけてきたのでそれに応えてきただけなのだが……?
と、そんなオレの心の声を無視して、勤太は何やら語りだす。
「思えば小学生の頃だった。僕は周りと違って頭が良かった。いや、良すぎた。だから、クラスの連中が漫画やアニメの話で盛り上がっていても「子供の会話に付き合うつもりはないよ」と突き放し、それ以来僕に話しかける人間はいなくなった。六年間ずっと誰からも話しかけられず友達もいなかった日々。それは中学でも変わらなかった。だが、僕はそれでも良かった学校とは勉学を学ぶ場。勉強さえ出来ればそれでいいと思っていた。だが、高校に入って僕は初めて一位の座から墜落した。原因はもちろん華流院さんだ。勉強は僕にとって生きる術、存在の証明のようなもの。なのに彼女には勝てなかった。友達はいない。だが勉強で一番を取れればそれでいいと思っていた僕の自尊心はズタズタさ。気づけば周りで楽しそうに会話をしているクラスメイトが憎らしかった。だが、今更彼らの輪に入るなど僕には出来ない……。そんな時に出会ったのが晴香さんがくれた『一攫千金転生』だった。もちろん初めはバカにしたさ。だが、読んでみると僕は忘れていた子供心を思い出した。そうだ、小学生の頃、僕は本当は勉強よりもこんなふうに友達とバカみたいな会話をしたかったのだと。そうして、そんな一攫千金転生の話を共にしてくれたのが誠一君だった。嬉しかったよ。他の連中は僕の話にうんざりして最後まで付き合ってくれないのに君はちゃんと聞いてくれた。その時、確信したんだ。そうか、これが友。親友なんだと! 誠一君。僕らはなるべくしてなった親友同士なんだ!」
ダンっといつかのオレの時のように熱く語り、地面を踏みしめる勤太。
う、うわー。オレこんな風に演説してたんだー。
他人がやってるのを見て初めて理解した。これは引く。
そんなオレの心の声なんか当然聞こえておらず、勤太は更に会話を続けてくる。
「で、昨日の一攫千金だけど新オープニングどう思った? 個人的には前の方がアニメーションは好きなんだけど、歌は新しいやつがいいかなーと思うんだけど」
「そ、そうだねー。オレもそう思うよー」
とりあえず相槌しつつ、早くこの会話が終わるよう祈ったその時、
「よおよお! 誠一、久しぶりー! 昨日の一攫千金転生のアニメ見たかー? いやー、神回だったよなー!」
久しぶりの亮がオレのクラスを訪ね、更に話題が沸騰し、このあと滅茶苦茶語ることとなった。助けて。
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