第32話 オレの体育祭が決着する

「いやいやいやいやいや、晴香さん。あれ、華流院さんだから。仲間だから。むしろクラスで参加出来る二騎の一人だから。自分からクラスの得点減らすような真似やめようよ」


 そうなのだ。この騎馬戦は各クラス、各学年が入り乱れるため、出場出来る騎馬の数は一クラス二騎馬まで。

 なので、ここでどちらかが脱落すれば、それは戦力の半減を意味する。

 しかもうちのクラスは晴香さんと華流院さんというどちらも運動神経抜群の騎馬。騎馬戦におけるクラス優勝は間違いなし、のはずなのだが――


「何言ってるのー? 誠一君。華流院っちが持ってる帽子の数を奪えば、事実上うちらがトップだよー。個人成績もそのままそれが反映されるからー、これでうちの勝ちは確定だよー」


 と明らかにイっちゃってる目でそう宣言する。

 あかん。もうこの人、クラスの勝利よりも個人の勝利を追い求めている。

 いや、もっと言えば華流院さんに勝つことしか見てねぇ……。そして、それは華流院さんも同じであった。


「おらー! 華流院っち! 覚悟しーやー!」


 そう言ってオレ達、馬を無理やり走らせて、華流院さんに手を伸ばす晴香さん。

 だが、その伸ばした手を右手の払いで軽くいなすと、逆の手で晴香さんの帽子を奪いに行く華流院さん。


「残念ね、晴香さん。あなたが挑まなければ私も見逃してあげたんだけど、さすがに牙を剥いてこられた以上はへし折るのが私の流儀よ。ここであなたは脱落よ。三流なろう作家」


「はあー!? 誰が三流だよー!?」


 しかし、華流院さんのその発言にカチンと来たのか、うまく上体を逸らして華流院さんの腕を回避する晴香さん。

 どころか、そのまま手を伸ばした状態の華流院さんに再び迫る晴香さん。

 オレ達馬はトコトコと近づくだけだが、その上では高速に近い手さばきで互いの帽子を奪い合い、牽制する二人の攻防が繰り広げられている。

 すげえ、二人共合気道でも習ってるのか?


「そもそも! 五巻の主人公とヒロイン達が温泉に行くくだり! あれまんま『異世オレハーレム』の五巻と同じ展開じゃない! パクってるんじゃないわよ!」


「はあー!? なにがパクリさー! あれはうちが最初からあそこで書くつもりで温めていたやつだよ! それを言うなら『異世オレハーレム』だって七巻でヒロインが帝国の牢屋に囚われて、それを救出する展開が『一攫千金転生』二巻に登場したアグスタ城の攻略と手順が一緒じゃん! あっちこそパクリだよ! パクリ!」


「なにがパクリよ! あんな安易な作戦誰だってやるわよ! むしろ、あんな稚拙な展開が自分のオリジナルと主張するあなたの方がおかしいわよー!」


「さっきから華流院っちなんなの!? 信者!? やっぱり『異世オレハーレム』の信者なんでしょう!?」


「違うわよ!!」


 あー、なんかよく分からない言い合いが始まっている。

 ちなみにオレの隣では例の勉野勤太が「誠一君は今の会話ついてこれたかな? まあ、僕としては『異世オレハーレム』の作者が『一攫千金転生』を意識したというのに七割賭けるよ」とかドヤ顔で言ってくるし、なんなのこの空間。さっさと帰りたい。


「大体――!」

「そもそも――!」


 と、そんな二人が不毛な争いを続けていた瞬間であった。


「隙有りー!!」


 一瞬、風が二人の間を通ったかと思うと華流院さん、晴香さんの頭の上に乗っていた帽子が見事に奪われていた。

 そして、少し離れた距離に立っていたのは例のロリ不良、鬼島樹里の姿であった。


「へへんー! 残念だったっすねー! 先輩達! 油断大敵。これは各クラスだけじゃなく、各学年も出場してるんっすよー。申し訳ないっすけど、下克上っす。誠一先輩も悪く思わないでくださいっすねー。それじゃあー!」


 そう言って樹里は馬と共にまるで風のように去っていく。

 おー、あいつも運動神経良かったんだな。

 ちなみに残った華流院さんと、晴香さんはしばし固まるが、すぐさま審判から「失格者は外に出てください」と言われ、すごすごと下がるのだった。


◇  ◇  ◇


「華流院っちのせいで騎馬戦負けちゃったじゃんー! どうするのさー!?」


「それはこっちのセリフよ! そもそも……」


 あれから無事、全ての競技が終わり体育祭が終了となったが、未だに二人は言い合いを続けている。

 ちなみにクラス成績はうちのA組がダントツであった。

 さすがに騎馬戦で負けたとはいえ、華流院さんと晴香さんの二人によるポイント制覇のため、同じ学年では並ぶものはなかった。

 だが、問題はこのあと、即ち個人成績である。


「えー、では今回の体育祭における個人成績優勝者を発表します」


 司会が壇上に登った瞬間、周りの生徒達が一斉に緊張するのが見えた。

 無論、あの華流院さんと晴香さんも押し黙り、司会の次のセリフを待っている。

 果たして、優勝はどちら手に渡るのか。

 華流院さんか、それとも春香さんか。

 運命の瞬間が今、訪れる。


「個人成績優勝は――1年! 鬼島樹里です!」


「えっ!? アタシ!? マジ!? やったー!!」


 が、オレや周りの予想に反し、なんとトップに立ったのは一年のロリ不良こと鬼島樹里であった。

 彼女は壇上に上ると成績優秀者に与えられるトロフィーを受け取り、壇上からオレを見かけるとブンブン腕を降ってくる。


「あ、先輩ー! 見てたっすかー! どうっすか! アタシ、すごくないですかー!? こう見えて運動には自信あったんっすよー!」


 そう言って無邪気に笑いかける樹里であったが、オレの隣では予想外の優勝者に真っ白に燃え尽きた華流院さんと、晴香さんが立ち尽くしていた。

 なんというか、その、ご愁傷様です。

 こうして波乱万丈な体育祭は幕を閉じるのだった。

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