第31話 オレの隣の美少女と騎馬戦をする

『さあ、いよいよ体育祭も後半戦! 次の種目は騎馬戦ですー!』


 司会のその発言と共に各クラス、各学年の選ばれた騎馬戦舞台がグラウンドに集まる。

 ちなみにオレもそれに参加することとなって当然馬役。

 そして、騎馬役はというと――


「さあ、誠一君! 一緒に頑張ろうね! この騎馬戦でうちが個人成績一位だよー!」


「あー、まあ、そこそこ頑張りましょう」


 なぜだか晴香さんとなった。

 ちなみにオレの馬の取り合いで華流院さんと晴香さんで延々とじゃんけん勝負が行われたことも追記しておく。


「ふふ、久しぶりだね。誠一君」


「ん?」


 と、そんな事を思っていると隣にいる馬役の男が話しかけてくる。

 え、えーと、誰だ、こいつ?


「僕だよ。勉野勤太。学年の成績ではいつも華流院さんに敗れて万年二位だけど、君よりも遥かに勉強が出来るクラスメイトだよ」


 そう言ってメガネを光らせる勤太。

 ああ、そういえばそんな奴がいたな。で、その人が何か?


「君、噂では晴香さんのファン一号らしいね」


「へ?」


「悪いけれど、彼女のファン第一号に相応しいのは僕の方だ。それを今日、証明してあげるよ」


 え、ええと、この人は一体何を言っているのだろうか?

 よく分からず質問すると勤太は「やれやれ」と言った様子でため息をつく。


「何をって、晴香さんの小説『一攫千金転生』のファンクラブだよ。君、クラスではすでにほとんどの人がこのファンクラブに入っているんだよ。ちなみに立ち上げたのは僕だけどね」


 と、自慢げにメガネを光らせる勤太。

 え、そんなのがあったの? 全然知らなかった……。というか、お前ってそんなにラノベ好きだったっけ?


「正直、僕も小説……というよりもライトノベルをバカにしていた時期があったよ。あんなものは都合のいい作者の妄想だけが詰め込まれたB級小説だってね。しかし、晴香さんの小説を見て、その誤りに気づいたよ。確かに都合のいい展開もあるが、それは時として読者に爽快感を与える。実際、目まぐるしい展開の中で活躍していく主人公達を見ていると僕の中の忘れていた冒険心が疼いたよ。いや、あれはいい。時としてああした王道物も悪くないものだ。どうやら僕はラノベというものを誤解していた。よくあるハーレムやなんでも主人公に都合よくしたクソ小説だとばっかり。確か君『異世オレハーレム』とかいう小説の信者なんだろう? 君ほどの男が熱中する小説だ。それも僕の偏見とは異なる面白い内容なんだろう。ぜひ今度見てみることにするよ」


 いや、それはやめておけ。折角のラノベに対する印象が百八十度変わるぞ。と全力で阻止しておいた。


「まあ、それはともかく『一攫千金転生』を一番愛しているのはファンクラブ会長の僕ではなく、君だと彼女が言っていたのだよ。なので、今日ここでどちらが真に一攫千金転生の信者に相応しいか決着をつけようじゃないか」


「はあ?」


 どこをどうすればそうなる。

 つーか晴香さんが言った? オレが一攫千金転生の信者だと?

 チラリと上に立つ晴香さんを見ると「ひゅー、ひゅー」と全然吹けてない口笛で誤魔化してる。

 さてはオレがあまりにも興味持たないから、周りに勝手なこと言って既成事実にしようとしているな。そこまでしてオレを信者にしたいのか? おい。


「ところで君。七巻の主人公が火薬を捨てた意味ってわかるかな?」


「火薬……え? そんなシーンってありましたっけ?」


「おいおい、君君。だめだなー。あんな見え見えの伏線に気づかないなんてー。まあ、確かに僕でなければ見逃しそうな小さな伏線だが、あれはきっと後の展開に大きな影響を与えるよ。察するに魔族編であの捨てた火薬が王国側の切り札になって、それが……」


 と何やら上から目線でベラベラと語りだす。

 いや、知らないから。つーか、一攫千金転生はそんなに読み込んでいないから話についていけねぇよ。

 よく分からない展開に、さすがに晴香さんにも文句を言おうかと思ったが、それより早く審判の銃が発砲する。


『では、騎馬戦――開始です!』


 その宣言と同時にそれぞれの騎馬が一斉に動き出す。

 うおおお、さすがは各クラス、各学年の代表達。

 まるで血走った獣のように自分達以外の騎馬が頭にかぶった帽子を奪い合う。

 晴香さんも「動いて! 動いて!」と馬に指示を出し、オレや勤太達が必死に移動し、晴香さんは近くにいる騎馬から次々と帽子を奪う。


 おお、さすがは運動神経抜群。

 馬の動きは大したことないにも関わらず、上に乗っている騎士が優秀なため、ここまで負けなし。

 これなら最後まで立っていられるのでは? と思った矢先であった。

 晴香さんが、突然馬に命令して方向展開を指示する。


「あっち! あっちに移動して! あいつ! うちはあいつの帽子を取らないといけないの!」


 あいつ? 一体誰だ? と命令されるまま方向転換すると、そこにいたのは確かにある種因縁の相手――無数の騎馬から帽子を奪い、オレ達と対峙するように立つ学園のアイドル・華流院怜奈の姿であった。

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