第18話 オレの隣に現役なろう作家が転校して来る

「今日は転校生を紹介します」


 唐突に先生からのその一言と共に教室の扉が開かれ、その先から茶髪にポニーテール。褐色に焼かれた健康肌の爽やかな美少女が飛び出した。


「ちーっす! どもっすー! うち、南條(なんじょう)晴香(はるか)って言いまーす! よろしくー!」


 褐色少女のその挨拶に一部の男子達はざわめき出す。

 随分とやかましそうなのが入ってきたな。ラノベの主人公のように平々凡々を目指しているオレには関係ないな。とそう思った瞬間、


「ちなみにうちのペンネーム『にゃんころ二世』って言いまーす! 実はうちラノベ作家だったりしまーす! 代表作は『一攫千金転生』! 今度アニメ化もするんでよろしくー!」


「おお! マジかよ! 現役のラノベ作家!?」


「つーか『一攫千金転生』って、オレ知ってるぞ!」


「可愛くて明るくて作家とか、それマジ反則じゃね!」


「えへへー、そんなでもないですよー」


 ほお、現役のなろう作家とな?

 その名乗りに周りが騒ぎ出し、オレも思わず顔を上げたが、すぐさま視線を下げる。

 確かにラノベ作家ってのはすごいと思うし、『一攫千金転生』はオレも好きだ。

 けど、それでわざわざ転校してきた同年代の作家にチヤホヤするのもな。

 別段それほどファンというわけでもないし。

 そう思いながら、オレはいつもの日課である『異世オレハーレム』の読書を再開しようとするが、


「では南條さんの席は、そこにいる矢川誠一君の隣に座るといい」


「はーい!」


 と、なぜか都合がいいことにオレの隣の席が空いており、そこに先ほどの転校生・南條晴香さんが座る。


「ちわーっす。よろしくねー、誠一君」


「あ、ああ」


 隣からの気さくな挨拶に一応返事をするオレ。

 すると南條さんはオレが持っている本に視線を向ける。


「あれ!? それってラノベじゃない! ねえねえ、何読んでるの?」


「ええと……『異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た』ってやつだけど……」


「あっ、それ知ってる! アニメにもなってたもんねー! うち、アニメ見てたよー!」


「あ、そうなんですか、南條さん」


「晴香でいいよ。うちも君のこと誠一君って呼ばせてもらうからー」


「はぁ、了解です」


「それで誠一君。誠一君はラノベとか読む方なの?」


「まあ、そこそこ」


「へぇ、そうなんだ! 新しいクラスで話の合う人がいて嬉しいなー! あっ、じゃあさ、うちの小説とか読んだことある? 『一攫千金転生』って言うんだけどー!」


「ああ、はい。読みました。普通に面白かったですよ」


「本当! そう言って貰えて嬉しいなー! こういってはなんだけどあれ自信作なんだよねー! 処女作なんだけどさー、もー周りからの反応もよくって、最初の作品がアニメ化でうちも超嬉しくってー……」


「ええ、そうですね。じゃあ、そういうことで」


 そう言って話題を切り、『異世オレハーレム』を読もうとしたオレであったが……。


「でさー。なんでうちの『一攫千金転生』よりも、そっちの『異世オレハーレム』を読んでるの?」


 なんか変なところに食いついてきた。


「……え? いや、なぜって言われましても……」


「ひょっとして誠一君はその『異世オレハーレム』のファンなの?」


「いえ、違います。嫌いです」


 そこはきっぱりと言っておかないと。

 すると晴香さんは不思議な表情を浮かべる。


「え? じゃあ、なんで読んでるの?」


「それは正しい批判をするためです」


「はい?」


 オレの答えに晴香さんは意味がわからないといった顔をする。


「嫌いだからと適当な批判は最も許されない行為です。だからオレはこの作品を批判するために隅々を研究中なんです。すでにこの小説は六周していますが、未だに新しい発見、荒が出て面白いです。オレはこの作品を批判するために読み込んでいるんです」


「へ、へえー、そうなんだ。すごいねー」


 そう言って冷や汗を浮かべる晴香さんであったが、すぐに何か思いついたようにカバンから本を取り出す。


「あ、じゃあさ! うちの『一攫千金転生』も批判してみてよ! 誠一君、すっごい読み込みそうだし、うちの作品で何か気になる点があればぜひ言って欲しいな!」


「いえ、その必要はありません」


「へ?」


「『一攫千金転生』はオレが読み込む必要性なんてありませんよ。今は『異世オレハーレム』の方が最重要事項なんで、そういうのは別の人に頼んだほうがいいっすよ」


「…………」


 そう言ってオレはようやく『異世オレハーレム』の読書タイムに入る。

 しかし、なぜだか晴香さんはその後、オレの隣で石のように固まっていた。

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