第19話 オレのクラスの転校生がラノベを薦めてくる

「やあやあ、誠一君。これうちの『一攫千金転生』の小説で今のところ八巻まで出てるんだよねー。あ、よかったらこれ誠一君にあげるよー。ちなみに全巻うちのサイン入りだからー! 別に感謝しなくてもいいよー!」


 翌日。なぜだか昨日転校してきた南條晴香さんがオレの机にドサッと『一攫千金転生』の小説を山積みする。


「……あの、これなんすか?」


「んー? 見ての通りうちの小説だけど?」


「じゃなくて、なんでオレにくれるんすか?」


 唐突な晴香さんの行動に思わずそう尋ねると晴香さんは照れながら答える。


「えー、いやー、別に誠一君にだけあげてるわけじゃないよー。ほらー、クラスの皆にあげてるしー」


 見ると確かにクラスメイト達のほとんどが晴香さんのラノベを持っていた。

 中には早速読み始めている人達もおり「結構面白いじゃん」と褒めてる姿もあった。


「誠一君もさー。そんな『異世オレハーレム』なんて読まずにうちの小説読んでよー! うちの小説の方が絶対面白いってー!」


 屈託ない笑顔でそう告げる晴香さんであったが、なぜだかその瞬間オレの隣に座る華流院さんから凄まじい殺気が放たれる。

 な、なんだ? あ、あの滅多に怒らない華流院さんが晴香さんを睨んでいる……?

 い、いやまあ、滅多に怒らないとか言いながら、彼女オレに対してはたまにキレて来るけど、それと同じような殺気が晴香さんに?

 これは一体どういう……?

 焦るオレだったが当の晴香さんはまるで気づいていない。


「あ、えーと、お誘いは嬉しいんだけどオレは今『異世オレハーレム』を読み込むのに忙しいから……晴香さんの小説は後で時間がある時に読むから……」


 それじゃあ、と会話を切ろうとした瞬間、なぜだか晴香さんが身を乗り出しオレが手にしようとした『異世オレハーレム』を取り上げる。


「もー! なんでうちの小説じゃなく『異世オレハーレム』なのー!? それ全然面白くないじゃんー! ネットの評判も☆1☆2ばっかだよー! アニメだって最悪だったじゃん! 絶対にうちの小説の方が上だってー!!」


 そう言ってなにやら悔しそうに顔を赤くしてオレに抗議する晴香さん。

 というか近い近い! 主に胸が近い!

 思わぬ晴香さんの褐色メロンの接近に顔を赤くするオレであったが、その瞬間氷のような一声が響く。


「待ちなさい。誠一君があなたの小説よりもその小説を読みたいって言ってるんだから好きにさせたらどう?」


 見ると隣にいた華流院さんが立ち上がり、オレから晴香さんを引き離し、彼女が握っていた『異世オレハーレム』を奪い取る。


「あ、ちょ!? き、君、なんだよー!?」


「私は華流院怜奈。あなたと同じクラスメイトよ。よろしく」


 晴香さんの質問に憮然とした態度で返す華流院さん。というか、華流院さんが初対面の人にこれほど威圧的に接するのは初めて見た。


「華流院? 変な名前ねー。っていうか、それ返してよ」


「それは誠一君のセリフでしょう。彼は今『異世オレハーレム』を読み込んでいて、あなたが書いた駄作を読んでる暇はないの。そういうわけで彼の邪魔はやめなさい」


 華流院さんのその一言に晴香さんはカチンと来たのか明らかに敵意むき出しの表情で華流院さんを睨む。


「はあー!? うちの作品のどこが駄作って言うのー!?」


「都合のいいスキルに異世界転生。俺ツエーに始まり、ハーレム展開。典型的なろう小説で駄作でしょう」


 いやまあ、それを言うなら『異世オレハーレム』もそうなんですけどね……。


「それを言うなら『異世オレハーレム』もそうじゃない! むしろ、あっちの方が酷いってネットでも評判よ!」


 うん。確かにそのとおり。

 晴香さんの発言に頷く。


「そうね。でも誠一君は『一攫千金転生』よりもそんな『異世オレハーレム』を楽しんでいるのよ。その邪魔をしないでくれる?」


 う、うん……。華流院さんのその発言は間違ってはいないが……決して楽しんでは……楽しんではいないよな? オレ?

 だが、それを聞いて晴香さんはますます納得できないと地団駄を踏む。


「うー! 納得出来ないー! 絶対にうちの小説の方が面白いもんー!!」


 あ、はい。それは間違いないと思います。オレもそう思います。

 しかし、そんなオレの心の声とは無関係に晴香さんは教室を飛び出す。


「さあ、誠一君。これで思う存分『異世オレハーレム』を読み込んでいいわよ」


 そう言って、残った華流院さんはなぜかドヤ顔でオレに『異世オレハーレム』の本を渡すのであった。

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