第12話 オレの隣の美少女とデートをする
「なんだか思ったより買い物しちゃったねー」
「ですね。とりあえず、オススメに関してはそんなもので大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。やっぱり誠一君に頼んで良かったよ。私の知らない小説とかも教えてくれたから助かったよー」
「いえいえ」
あれからとりあえず、最初に『異世オレハーレム』を見ることを条件にオレはその後のおすすめも華流院さんに教えた。
そこらへんはいわゆるなろう系でも面白いと呼ばれる小説だ。
中にはアニメ化などもし、メジャーなのもあるが、個人的にオレがネット小説時代から応援していた隠れた名作なども教えておき、これは個人的に見て欲しいとオススメした。
「それにしても誠一君ってなろう系嫌いだと思っていたけれど、なろう系詳しいのね」
「嫌いなのは都合のいいやつですよ。まあでも、思えばそのおかげでなろう小説にのめり込んだのかもしれませんね」
「へえ、それってどういう意味?」
なんとなくオレが呟いたセリフに華流院さんが食いつく。
「いやー、大したことはないですよ。小学生の頃、暇だったんでネット小説を漁っていた頃があったんですよ」
あの頃はお金もなく小説を買うよりも漫画の方を買っていた。
とはいえ、小説も図書室にあったのをたまに読んでいたので読む分には好きだった。
それである日、ネットで無料で読める小説サイトを見つけ、それを見ていた。
「まあ、それがいわゆるなろうサイトだったんですよ。ただ小学生でも読みやすい小説が多いのがなろう系のいいところかもしれませんね」
実際、オレが読んだ小説もかなり読みやすかった。
というのも戦闘シーンが「ガーン!」とか「ドガーン!」とか効果音ばっか。
次の瞬間には敵がやられて「うわー!」その後は間髪入れず主人公がちやほやされて終わりだ。
「でもリアル小学生だと案外それが面白く感じたんですよねー」
小学生時代は小説と言えば漫画より読むがハードル高い感じがしたが、なろう系はそんなことなく一ページで読める字数も少ないものが多く、スラスラと次のページを送ることが出来て、案外小説を初めて読む人にはオススメかもしれない。
「まあ、で。最初に読んだその小説が当時のオレからしたら面白かったんで「めちゃくちゃおもしろかったです! つづきも期待しています!!」って感情のままコメントしちゃったんだよねー」
「ふぅん、そうなんだ」
「ええ、でも、後からすげえ恥ずかしくなりましたよ」
「? どうして?」
「いやー、だってその、オレがその時に読んだ小説。今見るとぶっちゃけ……クソ小説、だったんですよね……」
なんとも言えない気持ちでオレは答える。
そうなのだ。まだ小学生で小説自体読み慣れてなくて、しかも最初に見たなろう小説が今のオレがもっとも嫌悪する典型的な『なろう小説』だったのだ。
いわゆる主人公はチートで強く、それ以外のキャラは主人公をヨイショするためだけの存在で、戦闘シーンなんか擬音ばっかりのとても見てられない代物。
「わー!」「ぎゃー!」「すごーい!」で出来てるような小学生が書いた小説。
しかし、それが読みやすくて面白く感じてしまったのだ。
幼き頃の知識力のなさと、物語を読み慣れていない経験のなさが出ていた。
「その後いろんな小説を読み始めて、である日、ふと最初に見たその小説を読み直しに行ったんです。そしたら分かったんですよ。「ああ、これってクソだわ……」って」
しかもそれを「神作品!」とか崇めてコメントしていた痛い自分。
おまけにそんな絶賛コメしていたのはオレだけで、後のコメントは「つまらん」「クソ」「擬音小説」とか、彼らの方が正しかったというオチね……。
もしかしたら、今オレがなろう系のクソ作品をこうして批判しているのは、その当時の自分を恥じているからなのだろうか……。
「まあ、とにかく今はなろう系もいろんな小説読んで来たんで、何がクソかはわきまえているつもりなんで。なので、華流院さんも最初は絶対に『異世オレハーレム』から読んでくださいね。その後、オレがオススメした名作を読んでください」
そうすれば華流院さんにも何がクソで、何が良作か分かるはずだ。
そんな風に思っているとなぜだか華流院さんが優しげな微笑みを浮かべてオレを見ていた。
「……誠一君はその始めて読んだクソ小説にコメントしたこと後悔してる?」
「え?」
思わぬ質問に面食らう。
後悔……。言われみればこれは後悔なのだろうか? いや、それとは少し違う。自分の知識や経験が浅く、それゆえ駄作を神作を崇めていただけ。どちらかといえば恥ずかしいという感情か。
だが、言われてみればこれは別に悪いことではないだろう。誰しもそうした経験がないが故に勘違いすることは多く。それこそ中二病とかと似たようなものだろう。
だから、後悔してるかと言われれば――
「……いや、後悔はしてないかな。その当時のオレが面白いって思ったのは本当だし。そのおかげなのか、あの作品はキチンと完結してくれて、それはまあ、嬉しかったですよ」
「ふぅん、そうなんだ」
そう言って華流院さんは微笑んだ。
「ね、このあとせっかくだからご飯食べていかない?」
「え? まあ、いいですけれど」
「そう。じゃあ、行きましょう。ファミレスでいいわよね?」
「あ、はい」
そうしてオレは華流院さんに連れられるままファミレスへと向かい、「あれ? ひょっとしてこれってやっぱりデート?」と今更ながらに胸をドキドキさせるのだった。
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