第4話 オレの隣の美少女がイチャモンつけてきた①

「……お、おはようー」


「おはよう。誠一君」


「ひぃ!?」


 翌日、恐る恐る教室に入ったオレはなぜだか扉の前で待ち伏せしていた華流院さんに声をかけられ、思わず声を漏らしてしまう。


「その、昨日はごめんなさい。私、どうかしていたわ。実はここ最近、成績が落ちていて、それで情緒不安定になっていたのかも。けど、もう大丈夫。今日はカルシウムも鉄分もビタミンも全部摂ってきたから安心よ。もうあんな真似は二度としないわ。誓うわ。この華流院家の家名にかけて」


「は、はあ……」


 いつもと変わらない規律正しいまさに麗しのお嬢様とも呼べる雰囲気をまとわせて華流院さんはそう告げる。

 だが、なぜだかオレはそれには曖昧に返しつつ、そそっくさと自分の席に座る。

 そんなオレを追うように華流院さんも隣の席に座る。


「そういえば、誠一君ってなろう系小説って詳しいの?」


「へっ!? あ、ああ、ま、まあ、そこそこ?」


 華流院さんに声をかけられ、ビクリと反応するオレ。

 そんなオレの返答に華流院さんはまるで気にした様子もなく微笑む。


「ふふ、そうなのね。実は私、なろう系ってあんまり読んだことがなくって。何かおすすめってないかしら? 初心者でも読めそうなもの」


「え、ええと、そうだね……。まあ、有名なので『転生したらゴブリンでした』とか『カニですが何か?』とか『リライトから始める異世界生活』とか『デスメドレーからはじまる異世界』とか、あと女性なら『私、ステータスは平均で』とかもいいんじゃないかな」


「へえー。本当によく知っているのね」


 とオレがひとしきりオススメを告げると「で」と一言を置き、告げる。


「なんでそんなになろう系に詳しいのに、なろう小説の『異世オレハーレム』をディスるの?」


 ギクリ。

 チラリと横を見ると、笑顔のまま背後に黒いオーラを出している華流院さんの姿があった。


「……いや、まあ。一通り見たからこそ、クソはクソだなぁって分かるっていうか……」


「へえー、誠一君には何が良作で何がクソか見分ける力があるんだー。ふーん、すごいねー。それってなに? 誠一君はなろう系小説の担当さんなの? 出版社? それとも批評家? 誠一君に批評された作品って売れるの? そこんところどうなの?」


 なんか話が変な方向に行ってる。

 これはヤバイ。絶対にヤバイ。


「い、いや、別にそんなことは……。つーか、別に『異世オレハーレム』だけがクソとは思わないしー。ぶっちゃけなろう系って駄作ってわりと多いじゃん? なんていうかとにかくオレつえーさせてハーレムばっかやらせているっていうかー。書籍化するのもぶっちゃけそういうのばっかじゃんー」


「うん。そうだねー。でも、それって何か悪いのー?」


「え?」


「もう一度聞くよ。それって何か悪いのー?」


 見ると顔は笑っているが、表情は全然笑っていない華流院さんが尋ねる。

 怖い。笑っているのに笑ってないのが分かる瞳がマジで怖い。

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