第5話 オレの隣の美少女がイチャモンつけてきた②

「え、いや、だってさ……。それってなんかおかしいじゃん。ほら、なろうってよく探せばそれ以外にもいろんな小説あるじゃん。中にはなろうっぽくない戦記ものとか、そういう異世界転生とか転移もない重厚な小説とか。なんでそういうのを書籍化しないかなーって毎回思うじゃん? ほら、例えばこの『絶詩の戦記』とかコアなファンも多いし、今時安っぽい異世界転生とか書籍化するよりも、こういう重厚なファンタジー小説を書籍化した方が……」


「じゃあ、聞くけどー、それが発売されて誠一君は買うのー?」


「へ?」


「もう一度聞くよー。それが発売されたら誠一君は買うのー?」


 思わぬ問いかけに呆気にとられるオレだが、すぐさまオレは答える。


「そ、そりゃ買うよ。オレこの作者がなろうで書いてる小説好きだし。応援している人達だってきっと……」


「小説は発売されて二週間までが勝負。特に初動が肝心で、そこで売れないと続きは出ない。よくネットで言われているけれど、これってガチなんだよー。で、聞きたいんだけど、その重厚な小説にはコアなファンがたくさんついている。うん、それは認めるけどさー。その中の全員が本当に発売されてすぐに買うのー?」


「いや、そりゃ、皆、異世界転生とかよりもこっちを……」


「よくさー、なろう系の小説が書籍化した際、それを買うのはそれまでそれをウェブで読んでいた読者って思われるけれど、実はそうじゃないんだよねー。実際にそれを買ってる人達ってウェブでそれを読んでた人達の一割もないんだよー。むしろ、書籍版を買うのはそれとはまったく別の層。普段からラノベを読んだり買ったりしている人達。そうした人達がさー、見も知らないネットの一部の人達に人気な重厚なファンタジー小説? 発売されて買うのかなー? ねえ、どうなのかなー?」


「……いや、それはその」


「出版社もさー。売れないと話にならないんだよー。あっちも商売なんだー。そんな一部の人達に絶賛されているからってホイホイ書籍化って出来ないんだよー。っていうかねー。聞きたいんだけどー、誠一君の言う『良作』と『クソ』の基準ってなんなのー?」


「え?」


 唐突なその発言にオレは思わず目を丸くする。


「誠一君が言う無意味にオレつえーして、ハーレムして、内容がないようなそんな作品がクソなのー?」


「……ま、まあ、そうだな。そういうのって普通はクソでしょう」


「ふーん。なるほどねー。じゃあ、誠一君がいう『良作』ってなにー?」


「そりゃまあ、話が面白くて、設定がしっかりしていて、無意味にハーレムとかオレつえーしてないようなちゃんとした小説だよ」


「ふーん。なるほどねー。じゃあ、聞きたいんだけど、それってどんな小説なのー? 具体例あげてー」


「えっと、それは……」


「その『絶詩の戦記』とかが名作に入るのー?」


「そ、そうだね。少なくともこれは名作の部類だとオレは思うよ」


「へえー、そうなんだー」


 そう言ってオレの答えを聞いた後、華流院さんはなにやらスマホでポチポチと何かを検索する。


「ねえー、これ見てー」


 すると華流院さんはオレにスマホの画面を見せる。そこに写ったのはアマゼンのページ。

 『龍の涙と哀しみの剣』というタイトルがされた小説の通販ページであった。


「これさー。誠一君が言うハーレムもなく、オレつえーもなく、転移も転生もない、なろうから書籍化した、いわゆる重厚なファンタジー小説ってやつだよねー?」


「あ、ああ。そうだね」


 確かにこの小説には見覚えがあった。

 前々から熱狂的なファンが多く、なろうに跋扈する異世界転生・転移・無双系・ハーレム。そうした者にうんざりしていた人達が目をつけた、そうした要素が一切ない重厚な純ファンタジー。

 それがとあるコンテストで賞を取り、書籍化をした。

 無論、その際の熱狂は激しく、大賞の『異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た』よりも、こっちがいいと絶賛の声がたくさん上がるほどであった。


「確かに、これすごく評価されてるよねー。ほらー、見てよー。☆の評価もオール五ばっかり。全部絶賛のコメントばっかりだよー」


 見ると、いくつか書かれたレビューは全て絶賛の最高得点の☆五ばかり。

 そのレビュー内容も「今のなろうにはない重厚なファンタジー!」とか「異世界転移・転生にうんざりしてる人にオススメ」と、まさにオレが言いたいことがそのまま書かれていた。

 やはり分かる人には分かるんだなー、と鼻高々になった瞬間であった。


「でもさ、これって一巻で打ち切られたんだよねー」

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