第3話 オレの隣の美少女がキレた
翌日。いつもの席に着席したオレは昨日のことを思い出してため息をこぼす。
はあ、まさか華流院さんがあんなにキレるとは思わなかった。
ひょっとして華流院さん、あの作品のファンなんだろうか? いやいや、まさか。容姿端麗、眉目秀麗、スポーツ万能、学園のアイドルでもあるあの人があんなクソ作品を……。
「誠一君」
隣から聞こえた声にオレは思わずビクッと反応をする。
恐る恐る声の方を振り返ると、そこには昨日の怒りはどこへやらいつもの穏やかな優しい笑みを浮かべた学園一の美少女、華流院怜奈の姿があった。
「昨日はごめんなさい。もうあんなことはしないわ。私、どうかしていたみたい。最近、カルシウムが不足していたのかも」
「は、ははっ、そうですね。カルシウムが不足していると人ってキレやすくなりますしね」
「ふふっ、本当にそうね。でも今日は大丈夫よ。魚料理やミルクとか食べてきたから」
「そ、そうですか。それは良かったですねー」
「はい。ですから、もうあのような事は金輪際ありません。どうか安心してください」
そう言って天使のように微笑む華流院さん。
以前のオレであれば学園一の美少女からのこんな会話に胸をときめかせて喜んでいただろう。
だが、今はなぜだかそうした気持ちになれず、オレは持ってきた小説を開いて、華流院さんのことを忘れようとした。
「あら、それ何を読んでいるの?」
と思ったのだが、なぜだか彼女がオレの読んでいた小説に食いついてきた。
恐る恐るオレは手に持った小説を彼女に見せる。
「まあ、それオーバードライブじゃない。ふふ、面白いわよね、それ」
「はは、だよねー。っていうか華流院さん知ってるんだ」
「ええ、勿論。なんといっても人気の異世界ファンタジーものですからね。アニメも面白かったけれど、やっぱり原作も面白いわよねー」
そう答える華流院さんの表情は嘘がなく、本当にそう思っている表情であった。
意外だ。彼女のような学園のアイドルがラノベに興味を持っていたなんて。
しかもその口ぶりからすると内容も把握しているようで、ますます意外の念を禁じえない。
今日は思わぬ学園のアイドルの秘密を知れたなーと思い、読書に戻ろうとしたその瞬間、
「……で、それもいわゆるなろう系小説の一つよね。なんでそれは良くって、昨日君が話題にしていた『異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た』はダメだったのかなー?」
ピキリ、とまるで何かにヒビが入ったような音が聞こえた。
振り返るとそこには先程までと同じ笑顔だが、明らかにその顔色が負の方面に変化している華流院怜奈さんの姿があった。
「え、ええっと。や、やっぱり無意味なハーレムの違いじゃないかなー?」
「あれー? でもそれを言うならオーバードライブもハーレム物よねー? 配下の女性キャラは皆主人公のことを慕っているじゃないー? それってハーレムにならないのー?」
「いや、まあ、あれにはちゃんと設定とか背景があるわけで、その、オレが言ってるのは無意味に主人公をヨイショして、いきなり惚れてくるような展開であって……」
「ふーん。設定や背景があればいいんだー? でもさ、あれだって主人公をヨイショしているし、アニメ初見だといきなり惚れてるようにしか見えないよね? 何が違うの? ねえ? どうしてあれは良くて『異世オレハーレム』はダメなの? ねえ、答えてよ? ねえ? ねえ?」
「え、いや、あの、その」
なぜだか会話が不穏な方に言っている。というか、華流院さんの目が昨日と同じように底のないグルグル瞳になってきているんですけど。
「いや、だってさ。こっちは人気ラノベで、あっちはたまたまアニメ化しただけのなろう小説じゃん。そのー、話自体も重厚さが足りないよね。オーバードライブは世界観ちゃんとしているし、深みがあるじゃん。話に。けど『異世オレハーレム』はそういうのがない安っぽい作品でさー。なんていうか中学生が考えそうな妄想小説ってのが痛々しくて……」
「中学生の妄想の何が悪いのよおおおおおおおーー!! っていうか重厚とか薄っぺらいとか何!? 何がそんなに違うのよ!? 世界観ちゃんとしてるー!? はあー、ふざけんなー!! アンタが見てないだけで『異世オレハーレム』にもちゃんとそういう世界観あるのよ! ただ読者を引き込みやすく話をわかりやすくさせたいから、あえてああした作りにしてんのよー!? それもわからず何が薄っぺらいよ! あえて分かりやすい作風にしてる作者の努力も知らずによくも言えたものねーー!!」
「ちょ!? か、華流院さん! の、喉! 喉しまってる! い、息できない……! ギブ……! マジでギブだから……ッ!」
「お、おい! 見ろよ! また誠一が華流院さんに襲われてるぞ!?」
「マジかよ! つーか、あの温厚な華流院さんをどうやればあんな激情丸出しにできるんだ!? 男からの告白にもまるで表情を変えなかったのに!?」
「誠一君ってある意味すごいかも……」
感心してないでいいから誰か助けてくれえええええええええええ!!!
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