第4話:花火の下の誓い

「いや~、ついヒートアップしちゃったッス……ニシシ」

「私も頭に血がのぼってしまって……申し訳ありません……」


 何がどうなったのかはわからなかったが、最終的に射的の屋台を吹っ飛ばした二人は、テキ屋のにーちゃんにしこたま叱られたあと、それぞれの表情でボクのところに戻ってきた。


「お祭りって、楽しいッスねー」


 そう言ってまったく悪びれずに笑っているディアナさんを見ていると、さっきまでオロオロしていた自分がバカらしく思えてきて、つられてボクも笑ってしまった。


「おっ。ようやく笑ったッスね」


 と、そんなボクに気づいたディアナさんが、嬉しそうに微笑む。

 初めて見るその笑顔に、ボクの心臓が大きく跳ねた。


「ここに来てから、ずーっと眉間にシワが寄ってたッス」

「原因は、他でもない私たちですけどね……」

「まぁまぁ、細かいことはどうだっていいんス!」


 なぜか胸を張ってそう言うと、ディアナさんはゆっくりとノエルさん、それからボクの顔へと順番に視線を巡らせた。


「こうやって、みんなで一緒に遊びに出かけるなんて、実は初めてなんスよ」


 ノエルさんが、ボクの隣で小さく息を呑むのが分かる。


「だから、嬉しかったり美味しかったことはもちろんッスけど、失敗したり悔しかったことも、全部ぜ~んぶ、楽しかったッス!」


 それからディアナさんは、ボクに向けてまっすぐ右手を差し出した。


「これも、キミがこうして最後まで付き合ってくれたおかげッス。ありがとッス!」


 おずおずとボクが右手を差し出すと、満面の笑みでディアナさんがボクの手を取って、ぎゅうっと握りしめる。

 ……トゲトゲした何かが刺さってかなり痛かったが、ボクはなんとかそれを顔に出さずに済んだ。


「ついでに、ノエルにも感謝ッス」

「ついでってなによ、もぅ……」


 言葉ではそう言いながらも、こちらも嬉しそうなノエルさん。

 お互いに照れ笑いで、ボクと同じく握手をしようとノエルさんが手を差し出したそのとき、


 ッドォーーーーーンッ!!!!


 夜空に、轟音とともに大輪の花が咲いた。


「うをっ!? なんスか!? 魔法攻撃ッスか、戦争ッスか!? ノエル、防御魔法を……って、あれ? どこ行ったんスか、ノエル?」


 忽然と目の前から姿を消したノエルさんを探して、ボクとディアナさんは慌ててあたりを見回す。

 と、参道脇の茂みからガサガサと音が聞こえたかと思うと、何故か枝や葉っぱを体中にくっつけてズタボロになったノエルさんが、のっそりと姿を現した。

 頭からずり落ちそうになった王冠を片手で戻しつつ、ノエルさんは怒りのオーラをまとわせながら、ズンズンこちらへ歩み寄ってくる。


「どうしたッスかノエル!? 大丈夫ッスk

「……こんの、くそ邪竜ーっ!!」


 スパーン!といい音をさせながら、ノエルさんは駆け寄ってきたディアナさんの頭を盛大に張り倒した。


「大丈夫ッスか? じゃないわよー! 尻尾! その尻尾で私のこと思いっきり吹っ飛ばしたくせにぃ!」

「ぁ~っと。大きな音に驚いて、無意識で振り回しちゃったみたいッス……ニシシ」

「笑いごとで済むかぁ~!!」


 叫ぶノエルさんがまさに掴みかかろうとしたその時、今度は先ほどよりも小さな花火が夜空に咲く。

 さすがに今度は、ノエルさんも吹っ飛ばされずに済んだようだ。


「これ……もしかして、花火?」


 大きく腕を振り上げたポーズのまま固まっていたノエルさんが、ボクのほうを向いて尋ねる。

 慌ててコクコクと頷くボク。

 そして、堰を切ったように次々と夜空を彩る打ち上げ花火。


「これが……花火っ!!」


 先ほどまでのことなど忘れたかのように、ノエルさんはまるで子供のように目を輝かせて、じっと夜空を見上げていた。

 一方、しばらくはまだ警戒していたディアナさんだったが、やがてそっとノエルさんの隣に立つと、同じように夜空に目を向ける。


 そして、ボクはと言えば――、

 色とりどりに咲き乱れる夜空の花火よりも、地上でその輝きに照らされている二人の姿に、いつまでも目を奪われていた。

 『また明日も、あの喫茶店にいこう』

 そう固く、心に誓いながら。

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また行きたくなる喫茶店 Yumeno @Yumeno_to

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