快適な睡眠を追い求めるマイちゃん

「疲れが取れる快適な睡眠をしたい」

「じゃあ僕と喋らずに家に帰りましょう」

「ケイくん、君はいつも冷たいね」

「優しさはあげるべき人に貯金しとかないとね」

「それが私とは思わないわけ?」

「思わない」

「即答かあ……悲しいな……。あれ、この私にも涙があったなんて……!」

「嘘泣きうまいね」

「それは流石に酷くない? まあ目薬だが」

「僕も眠いので今日は早めに帰らせてもらいます。では良き明日を」

「ちょっと待って」

「僕は待てと言われても、待たない人間になりたい。待ってたら何も始まらないから」

「それっぽい名言で誤魔化さないで」

「I want to go home」

「それっぽいネイティブで誤魔化さないで」

「なんで帰っちゃダメなんだよ、マイちゃんだって疲れてたら帰ってベッドに入ればいいじゃないか!」

「柔らかいベッドもねぇ! 柔らかいソファーもねぇ! 車もそれほど走ってねぇ!」

「ベッドとかソファー、ないの? なんで? そしてなぜ歌う?」


「……」


「?」


「——全部、押収されたから」

「あっ……」

「テレビもねぇ……バイクもねぇ……あるのは借金の催促だけ……」

「えっと……そ、その……ごめん……」


「……いいよ」


「……ありがとう(でも言われてみると競馬とか全部自業自得じゃね?)」


 〜


 〜


「ということで、快適な睡眠がしたい」

「うーん。とりあえずベッドは欲しいよね」

「できるならエアコン付きの部屋でオレンジジュースが常に補充されてて」

「需要と実態が天と地の差なのだが」

「——まあそれは冗談として、床で寝る日々は耐えられないんだ。どうすれば」

「そういえば実家は?」

「プライドがあって事情を話せない」

「まあそりゃ競馬で散財してるからな」

「ということで起業して一発逆転を狙う」

「君さ、記憶力がニワトリか?」

「未だに諦められないんだ……マーイのグッズ化の夢が……!」

「それで借金まみれになっただろう」

「それもそうだが」

「そういえばあまりに余ったそのグッズはどこに?」

「倉庫」

「ちょっと見せてよ」

「ラジャー」


 ガラッと


「おおっ、こんなにたくさんのマーイのぬいぐるみが……。顔は笑ってるのになぜか物悲しそうに見える」

「捨てるのも勿体無いし、一旦はここに置いているが」

「やけに凝ってるのかフワフワだな」

「素材にはこだわってる」

「ふむ」

「どうした……? まさか買いたくなったか? 今なら少し安く売ってやるぞ?」

「——これ下に敷いて寝たら快適じゃね?」


 快適でよく眠れました。

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