第2話
二
「……さぁて、どうするかねぇ?」
私達は木陰に隠れて様子を伺っていた。船の周りには誰もいない。
「見張り……一人もいないね」
「……赤兎はもう、あたしの気配に気付いている筈だ。悪魔達の報告もあっただろうしな。恐らく、『真正面からどうぞ? お待ちしておりましてよ。おっほっほっほ!』みたいな感じなんじゃねぇの? ……ったく、馬鹿にしてやがるぜ」
確かに、赤兎ならそう言いそうだ。自分は玉座に腰を下ろし、私達が来るまで余裕たっぷりに待っているだろう。
『……どうしてやろうか?』と、顔に嫌な笑みを浮かべる彼女の姿を想像してしまう。
すると、黒兎は立ち上がり、船の方へと一歩足を踏み出した。
「ちょ、ちょっと待って! どこ行くの⁉」
「? 中に入るに決まってんだろうが?」
「何で馬鹿正直に行っちゃうの⁉ 罠かもしれないでしょ⁉」
私が咄嗟に黒兎のフードを思いっきり後ろに引くと、少女は『うげっ』と悲痛な声を上げた。
「あっ! ……ご、ごめん! クロちゃん」
私が手を緩めた瞬間、黒兎は飛び跳ね、勢いよく私の頭をパシンと{叩}(はた)いた。
「なっにすんだ! てめぇ! 殺す気か⁉」
「だ、だって、クロちゃんが勝手に行こうとするから……痛い」
「隠れて行こうがなんだろうが、どっちにしたって気配でバレんだよ! だったらこそこそしても意味ねぇだろうが!」
「それにしたって、もうちょっと考えても……」
「じゃあお前、何かいいアイディアでもあんのかよ?」
「それは……」
いくら考えてもいい方法なんて思い付かない。やはりここは強行突破しかないのだろうか?
けれど敵が待ち構えているのがわかっているというのに、ただ闇雲に突っ込むというのは……みすみす捕まえて下さいと言っているようなものだ。
捕まってしまえば、誰も救う事が出来ない。一体、どうしたものか……
「ほら! 何もねぇんじゃね〜か!」
「もうっ! ちょっと待ってよ! 今考えてるところなんだから!」
……そうは言ってみたものの、完全にお手上げ状態だった。
どう考えても不利な条件が揃い過ぎている。何とか、こちらに有利な状況に持っていける方法が見つかれば……
船の中は不利。そして……たとえ変装したり、見つからないようにこっそり進入しても、黒兎の気配ですぐに居場所がバレてしまう。
けれど、彼と白兎は船の中。そして、赤兎はきっと……船の中から動かない。
ならば、いっその事…………
「そうだよ、クロちゃん! 行くんじゃない! こっちに{誘}(おび)き出せばいいんだよ!」
「はぁ?」
「クロちゃんが派手に暴れて、仮面達を外に誘き出すの! 仮面達はここに来たのは初めて。島の中ならこちらに地の利がある! 赤兎が動けば少し厄介だけど、彼女はきっと動かないわ。面倒な事が嫌いだし、船に残る筈よ。【人質】もいるわけだしね。そして、ただの人間で何の妖力も持たない私の気配は、誰にも感知出来ない」
「お前、もしかして……!」
「――そう。クロちゃんが仮面達を翻弄している間に、私が船の中に潜入する。クロちゃんは出来るだけ仮面達の数を減らしてから私と合流。きっとこれが、最善の方法だと思う!」
「っ……馬鹿が! あたしはあんな悪魔共相手に負けやしねぇけど、お前の方には赤兎とあの人形がいんだぞ⁉ お前……見つかりゃ、即殺されっぞ⁉」
「それでも……二人共死ぬよりはマシだよ。一緒に行動するよりも、別々に行動した方が成功率も格段に上がる! クロちゃんが仮面達を引きつけておいてくれれば、その分私も身動きが取れやすくなるしね。それに私……クロちゃんの足を引っ張りたくないの」
貴女の事だもの。私に気を取られて、闘いに集中出来なくなる。だって、私がピンチになったら真っ先に助けてくれるでしょ?
そうやって、お荷物になるのだけは嫌なんだ。
「……お前って、強ぇよな」
「えっ? 私が……強い?」
「ああ、そこらの男連中よりよっぽど肝が座ってやがるよ。兎狩りの時だって……こんな何の力もねぇ、ただの人間の小娘に、何でこんな勇気と強さがあんだろうって正直思ったぜ。この女は、死ぬのが怖くないのか? ってな」
「私だって、死ぬのはやっぱり怖いよ。……人ってさ、誰だって一度は、消えたいとか死にたいって思ったりするんだよね。今の時代は特に。……けれど、本当に死ぬのが怖くない人間なんてきっと存在しない。怖いよ、でも……誰も決められた死から逃れる事は出来ない。私がここで死ぬか生きるかも、きっと予め決められている事なんだと思う。だったら私、逃げずに立ち向かうよ。それに、もし私が死んだら……丁重に弔ってくれるんでしょ?」
私がそう言って笑うと、黒兎はぶっきらぼうに言った。
「……あたしが生きていたらな。そん時は、盛大に弔ってやるよ」
「えへへ、賑やかにお願いしますよ? 私が寂しくないように!」
「……ば〜か。誰も死なねぇよ。絶対に全員助けて、何が何でも生き残ってやる。あたしも……――ミズホ! お前もな!」
黒兎はそう言うと、にひっと可愛らしい笑顔を見せた。
「……合図を送る。それまでお前は海面にでも隠れてろ! 見てろよ、馬鹿オンナとキモ人形! こっからが反撃開始だ!」
黒兎が『ちょっと待ってろ!』と言い、走っていってしまったので……私は言われた通り、海に浸かり、ちょうど死角になっている場所でこっそりと様子を伺っていた。
それにしても、とても大きな船だ。今はしんと静まり返っているが、中には沢山の仮面達が潜んでいる。
奇術師のような、気味の悪い悪魔の仮面。あれを見ているだけで私の背筋は凍り付き、身の毛もよだつ。
そんな彼等を従えている赤兎と死神は、最早恐怖の塊と言ってもおかしくはないだろう。恐怖という言葉が、この世界に生まれる前の形がきっと……あの少女や死神のようなものだと思う。
黒兎にああは言ったものの、出来れば彼女達に会わず、二人を助ける事が出来れば……なんて思ってしまう私も、確かに存在していた。
しかし、万が一赤兎達が人質を置いて外に出たとしたら……それは非常にまずい事になる。
気配は勿論の事だが、赤兎は島に詳しいので、すぐに居場所はバレてしまうだろうし、何より黒兎が一人で勝てる相手ではない。
……何とか上手く、仮面達だけを誘き出さないと。
そんな事を考えていたら、突然大音量と共に空に色とりどりの煙が立ち昇った。
――いつもの、宴が始まる合図と同じものだ。
これが黒兎からの、戦闘の始まりの【合図】なのだろうか?
『あ〜あ〜……こちら黒兎、マイクテスト中』
スピーカーから響き渡るのは、まさしく黒兎の声。……しかし、こんな時になんて呑気なのだ。私は思わず面喰らうと共に、呆れ返った。
黒兎は一人でブツブツと聞き取りにくい声で喋っていたかと思えば、いきなり大声で叫び始めた。
『お前らぁ〜! あたしの声を聞けぇええ〜!』
その声のあまりの大きさに、私は思わず耳を塞いだ。スピーカーが引き続き【ブオォン】と耳障りな音を鳴らす。
私は軽く耳を押さえたまま、黒兎の次の言葉を待った。
『こんの馬鹿共が! いいかぁ? あたしはなぁ! この夜宴の島の継承者、黒兎様だ! てめぇらの傲慢な主人がなれなかった島の支配者だぜ⁉ どうだぁ? すっげぇだろ? それに比べて……赤兎ぃ? お前、本当にだっせぇな! そんなにこの島を手に入れられなかった事が悔しかったのかよ? ぎゃははははは!』
スピーカーから次々と聞こえてくる罵声に、私は思わず顔面蒼白になる。血の気が一気に引いていくのがわかった。
『島を滅茶苦茶にしたからって、い〜気になってんじゃねぇぞ? こんなもんはなぁ、その気になりゃ、いくらでも直せんだよ、ば〜か! ……お〜い? 赤兎ちゃ~ん? そんなとこに隠れてないで出ていらっしゃ~い? てめぇが、妖精? ……はっ、笑っちまうぜ! その{形}(なり)のどっこが妖精だ⁉ どう考えても悪魔の間違いだろうが? 大体、【ティターニア】だぁ? だっはははは! 笑っちまうぜ! お前馬鹿だろ~⁉ 痛すぎぃ! いい年こいて何ぶっこいちゃってんだか? いっぺんその脳味噌ん中、いじくり回して見てもらえよ。そのイカれた性格もちったぁマシになんだろぉよ?」
……きっと黒兎は、赤兎や死神も一緒に外に連れ出そうとしているのだ。恐らく、私の為に……
けど、そんなのは無茶だ。
デッキへの扉が勢いよく開き、仮面の衆が外に出る。私は見つからないように半分顔を沈めたまま、より死角の位置まで移動した。
「――ふふ、お馬鹿さんですこと。島に戻らなければ死ぬ事もなかったでしょうに」
悪魔達の間をすり抜けて、ゆっくりと赤兎が姿を現した。一人の悪魔が赤兎に跪き、拡声器を渡す。赤兎はその拡声器を口元まで運ぶと、大きく息を吸い込んだ。
『とぉっても会いたかったですわ~黒兎! 帰って来てくれて、わたくしほんっと〜に嬉しいんですの! 貴女は昔から、わたくしを苛立たせる事に関しては一流でしたけれど、少しおいたが過ぎるようですわねぇ? わたくし……貴女ほどイケナイ子を見るのは初めてでしてよ?』
赤兎の声が島中に響き渡る。勿論、黒兎にも届いている筈だ。ほんの一瞬静寂になったものの、すぐに黒兎からの【返事】が返ってきた。
『――生憎だなぁ? あたしもてめぇみてーな性悪女、初めて見たぜ! ……おい、出て来いよ? さっさとケリをつけようぜ? まさかビビってるわけじゃねぇよなぁ?』
『いいですわよ? このわたくしが直々に躾けて差し上げますわ。生存の保証は出来ないですけれど……よろしかったかしら?』
『上等だ。あのブッサイクな人形を連れてかかってこいよ? しっかし……何だぁ? あの人形は。あの夜、炎で焼け焦げてから随分と惨めな姿になっちまったじゃね〜の! アレさ、お前が縫い直したのか? つーか、マジ悪趣味過ぎてお前にぴったりだわ! ギャハハハハ!』
「オ前……今、俺ノ事ヲ馬鹿ニシタナ!」
不気味な人形は奇怪な大声を上げた。それを見た赤兎は、一先ず拡声器を下ろし、人形を宥めていたが……実際のところ、人形は怒っているのか、それともこの状況を楽しんでいるのか……よくわからない。
「オ~イ、ティターニア! アイツ、俺ガ殺ッテモイイ? 今度ハ俺ガ、アノブスヲ丸焼キニシテヤルヨ! デ、俺好ミニ針ヲ通シテ縫イ付テヤルゼ。イイダロ? ナ、ナ?」
「ゲーデ、少し落ち着きなさい。あんなのはただの虚勢でしてよ? ……それに、黒兎はわたくしの獲物ですわ。いくら可愛いゲーデの頼みでも、それだけは譲れませんことよ?」
赤兎は『チェッ、ツマンネ〜ノ』とそっぽ向く人形を片手に抱きしめながら、再び拡声器を口元に運び、にこりと笑った。
『――ねぇ、黒兎~? わたくしの脳内の中で、貴女は何度死を迎えたかしらぁ? 沢山沢山、色んな方法で貴女を殺してきましたけれど……今度こそ、リアルにその感触を体験したいものですわ! さぁ、お前達。黒兎を捕まえてらっしゃい』
赤兎の言葉を聞いた悪魔達は、一斉に空に浮かび上がり、砂浜に着地した。その姿はまるで、悪魔というよりも{死霊}(ゴースト)のように見えた。仮面達は一斉に、美しさを失い、すっかり荒れ果てた森の中へと足を運ぶと、あっという間に見えなくなった。
「……おや? あれ程馬鹿にされたのに、お主は行かないのかえ?」
赤兎の近くにいた魔女がそう問いかけると、彼女は面倒臭そうに返事を返した。
「この暑い中、あんなジャジャ馬娘を捜しに出るなんて……骨折り損の{草臥儲}(くたびれもう)けですわぁ。わたくし、あんな挑発に乗るほど馬鹿じゃありませんの。それに……うふふ! わたくし、頭は結構良い方なんですのよ」
……今の発言はどういう意味に捉えれば良いのだろうか? ただ単に、面倒臭いし挑発には乗らない、とだけ考えればいいのか? それとも……こちらに裏がある事に気付いているのだろうか?
或いは、それを打破する方法までも……
「――ちょっと、魔女のお婆様? 貴女は黒兎と娘を捜しに行かないのかしら? わたくし、貴女のその醜く皺だらけの顔を見ていると、とても気分が萎えますの。貴女……確かわたくしの下につきたいんですわよねぇ? なら、しっかりお仕事してもらわないと困りましてよ?」
「ソウダ、ソウダ! 仕事シロ、コノ糞ババア! 女ハヤッパリ若クテ美人ガイイゼ!」
「役立たずは邪魔なだけ。更に姿までこうも醜いとなると、ますますわたくしにとって不必要ですわ。さぁ、お婆様? どうなさるか……決めて下さる?」
赤兎はクスクスと小さく上品に笑う。それと対比するかのように、老婆は突然大きな声で下品に笑うと、さも愉快そうにこう言った。
「そうかえ、そうかえ……ひっひっひ。そりゃあ迷惑かけたようですまなんだなぁ。儂も年寄り故、兎捜しなんぞは遠慮したいところじゃが……ちょうど森の方に用事があってな。そのついでと言ったら何じゃが、行ってこようかの」
魔女は術を施し、自らの姿を{烏}(からす)に変えると、早々にその場から飛び立って行った。
烏は徐々に小さくなっていく。それは、この青い空に……まるで小さな穴を開けたようにも見えた。
あの黒い穴から、突然闇が溢れ出し……森だけでなく、この美しい空までも黒く染めてしまいそうな気がして……何故かそこから目を離す事が出来ずにいた。
「ねぇ……ソウ? こちらにはお前と白兎がいる。わざわざこんな面倒な事をせずとも、お前達の命を脅かしさえすれば、黒兎達など簡単に捕らえる事が出来るでしょう。なのに、何故そうしないかご存知? うふふ……これはゲームなのですわ。簡単に攻略出来るゲーム程、退屈なものはありませんもの。あの子の舞台にわざと上がって差し上げて、少しの希望を持たせた後にそれを壊す。考えただけでゾクゾクしちゃいますわぁ」
「俺モゾクゾクシテキタゼ! ……ソウダ! ティターニア! アイツヲ捕マエタラ、地下牢ニ閉ジコメテル白兎ヲ、奴ノ目ノ前デ殺シチャオウゼ! ギッタギタノグッチャグチャニナ!」
「いいですわね! 見せしめとして彼女達の目の前で白兎を殺しましょう! 黒兎の苦痛に歪んだ素敵な表情を見れると思うと、わたくし……笑いが止まりませんわ! キャハハハハ!」
赤兎と人形が物騒な雑談を繰り広げている中、彼は船の手すりに手をかけ、静かに海面を見つめていた。
ここに自分がいる事を、何とかして彼に伝えたかったけれど……赤兎達にまで見つかってしまっては元も子もない。私は身を隠したまま、じっと静観していた。
やがて彼は、視線を海から空へと向けた。
そして――
「……どれだけ歩けば良いのだろうか? 交わる道のいずれかをゆけば……それは必ず、真実へと続く鍵となるだろう」
(? ……何? 独り言?)
彼は再度、同じ言葉を繰り返した。それも今度は、先程より少しだけ大きな声で。
「どれだけ歩けば良いのだろうか? 交わる道のいずれかをゆけば……それは必ず、真実へと続く鍵となるだろう」
「ソウ? いきなりどうかして?」
「トウトウ頭ガイカレテキヤガッタ! グヒヒ! オイ、ティターニア! コノ男モソロソロ処分時ジャネ?」
「……少し疲れた。俺は先に部屋へ戻る」
彼はそう言うと、くるりと方向転換をし、背後にある扉の奥へと入っていった。
「…………ふぅ。やっと行った」
誰もいなくなったのを見計らって、私は砂浜にゆっくりと上がった。しかし……ずっと海面にいたせいで、服はびしょびしょだ。
衣服は大量の水を含んでおり、とにかく重く、身動きが取れにくい。取り敢えず、手の届く範囲は軽く絞ってみたものの……これは骨が折れそうだ。乾くまで待とうにも時間を無駄には出来ないし……さて、どうしたものか。
そんな時、暖かくて優しい風がふわりと……まるで柔らかい衣のように、私の身体を包み込んだ。
この風は、どこから来たのだろう?
不思議な事に着ていた衣服は、一瞬にして乾いてしまった。
「……クロちゃん? 近くにいるの?」
私の問いは虚しくも、誰の返事ももらえぬまま……その風と共に消えていった。
……もしかして、狸のお爺さんだろうか? そうだとしたら、無事に島まで来れたという事だ。でも……果たしてあの姿のまま、妖術を使う事など出来るのだろうか? そして、何故姿を現さないのだろう?
それに、気になる事が一つ。
「甘い……匂い……?」
風は優しい温もりと共に、甘ったるい香りを運んできたのだ。……何だろう? どこかで嗅いだ事があるような、ないような……
まぁ、いいか。きっと、大した問題ではないだろう。
とにかく服は乾いたのだし、私は当初の目的通り、橋を渡り船の入り口から中に侵入した。
赤兎達は……二階にある、あの玉座の間にいる筈だ。取り敢えずあの周辺には近付かないようにしよう。
……それにしても、見事なまでに誰もいない。数人くらいは残っていてもおかしくないと思っていたのに……こんなに簡単でいいのだろうか? 何だか、不安が募る。
ゲーデは先程、【白兎は地下牢に閉じ込めてある】と言っていたから……まず、その地下への道を見つけなければ。
すぐに見つかってくれるといいけど。
「それにしても、ソウくんのあれ……一体、何だったんだろう……?」
暗記は得意。だから、さっきソウくんが口にした意味深な言葉もちゃんと覚えている。
『……どれだけ歩けば良いのだろうか? 交わる道のいずれかをゆけば……それは必ず、真実へと続く鍵となるだろう』
――小説? それとも……何かの暗号だろうか?
「まさか捕らえられてる状態で、新しい小説を考えたりする余裕なんて……ない、よね?」
正直、そう言い切れない自分も存在した。彼は、何を考えているのかわからないところがある。もしかして本当に、退屈過ぎて頭の中で物語を考えていたりして。
「……もしそうなら、彼はかなりの大物ね」
私は思わず、苦笑いを浮かべた。
けれど、何だか引っかかる。あの言葉に、何か重要な意味があるような気がしてならないのだ。……ただの勘だが。
とにかく、今は答えが見つからない。けれど……ちゃんと頭の隅には置いておくにしよう。
「クロちゃんが時間を稼いでくれている間に、早くシロくんを助けださないと! ソウくんも、後回しになっちゃうけど……待っててね。きっと助け出してみせるから!」
私は、目の前にある扉を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます