第5話 夢と現実の狭間
ちょっと待て、俺。冷静になろう。まさかとは思うけど、川埼が俺と同じ能力を持っているわけがないんだよな。この能力の話は誰にもしたことがないし、自分でも他にそんな話を聞いたことがない。
じゃ、なんなんだろう。このシンクロ具合は……。
「川埼、お互いちょっと落ち着いてみような」
「そ、そうよね、山岸」
そう、冷静にならなくっちゃ。まさかとは思うんだけど、山岸があたしと同じ能力を持っているわけがないのよね。この能力の話は誰にもしたことがないし、他に聞いたことがないし。
でも、このシンクロ具合はそうとしか考えられないんだけど……。
「川埼!」
「山岸!」
「あ、いや、川埼の方からでいいよ。どうぞ」
「え、えっと山岸も話があるのよね。山岸からでいいわよ」
2人で譲り合っていてもしょうがない。とりあえず俺から切り出してみるか。
「じゃあ、川埼。改めて聞きたいことがあるんだけど、なんで俺がここでお前に告白すると思ったわけ?」
「え? えーっと、なんていうんだろう。まぁ、女の勘、ってヤツかな?」
「正直に言ってみろ」
「え? ……それじゃあ逆に聞くけど、なんで山岸はあたしがここでアンタに告白すると思ったわけよ」
「あ、え、その……なんだ。なんかあるじゃんか、そういう雰囲気っていうかさ」
「雰囲気であたしが誰かに告白すると思う?」
「……残念ながら思わないな」
「でしょ? じゃなんで?」
まずい。一方的に問い詰められている。さすがにちょっとごまかし切れないか、コレ。正直に言うべきだろうか? いや、でも普通の人が聞けば「アホかお前」って話だしな……困った……。
「ちょっと山岸ってば!」
「あ、うん。すまん、ちょっと考え事をな」
「何よ? 考え事って」
「それはまぁ、こっちに置いておいて。川埼、今から俺はおかしなことを言うぞ? でも、脳みそは正常だし、精神科にかかるような病気ももっていない。にわかに信じられないような話をするが、大丈夫か?」
どうしたんだ、山岸。なんか持って回った物言いをしてるけど。
「え、あ、い、いいわよ。聞こうじゃない、アンタのおかしな話っていうのを」
「わかった。じゃあ話す。今まで誰にも話をしたことがない話だ。お前が一番最初に聞く人間になる」
「わかったわよ。だからなんだっていうの?」
「俺は夢を見ると、時々夢で見たことが現実になる」
「は?」
「だから、俺が夢を見ると100%じゃないけど、ランダムで夢でみたことが現実になる能力っていうか、そんな特技みたいなものを持ってる、って言ってるんだよ」
マジか! あたしと一緒じゃない。あたしのこの能力ってあたし以外には誰も持ってないと思ってたのに。そんなことってあるの?
「そ、そうなんだ……ふーん……」
「反応薄いなぁ。もっと驚くとか、バカにするとか、食いついてみるとかするじゃんか、普段なら。なんだその反応」
「……だって」
「だって何だよ」
「……だって、あたしも同じ能力持ってるんだもん……」
は? 聞き間違いか? 同じ能力を持っているだと?
「え、えーっと、川埼。確認するぞ」
「な、何よ」
「今、お前、『あたしも同じ能力もってるんだもん』って言ったか?」
「……言ったわよ」
『マジか」
「マジよ」
「……」
「……」
俺と同じ能力を持っているヤツがいるとは思わなかった。それだけでもう驚きしかない。でも、このシンクロ具合を説明できるのは、川埼が言ったことが正しいと思うことだけだ。
あたしと同じ能力を持っているヤツがいるなんて思わなかった。こんな変な能力、あたし以外に持ってるヤツなんていないと思ってたし……でも、告白の話はシンクロしてるのよね。これは山岸の言うことを信じるしかできないじゃない……。
「……そうか。川埼も同じ能力を持ってたんだな。とすれば、ここで俺がお前に告白するって夢を見たから告白しない俺に疑問を抱くのは当然だもんな」
「あたしだって、あたしのこの能力をまさか山岸が持ってるとは思わなかったわよ。でも、夢で山岸があたしに告白してきたから、告白されるのかと思って……」
「まぁ、お互いに同じ能力を持ってるとは思わないからな。こんな変な能力」
「そうよね」
「でも、これでひとつわかったことがある」
「何よ」
「お互いにお互いに告白する夢を見た場合は現実にならないわけだ」
「そうね」
「おそらく、お互いが干渉するような夢をお互いに見た場合は、途中まで夢の通りになるけど、結果として実現しないわけだ」
「……そうか。そういうことになるわけね」
「そうだ」
「ただ、お互いに夢を見ることに関して、夢の内容に干渉することはできない。あくまで夢の中で起こることは流されるままに受け入れることしかできないわけだ」
「確かに今までそうだったわ。夢の中で起きたことは夢の通りになるけど、自分で意図して夢の中で何かをすることはできなかったわね」
「今回はたまたまお互いがお互いに告白する夢を見て、結果として現実にならなかったわけだけど、今後も告白以外でいろんなことが俺と川埼の間で起きる可能性がある」
「例えば?」
「んなもん知るか。夢の内容を自分で制御できない以上は何が起こったって不思議じゃない」
「そう言われたって困るよ。山岸が出てくる夢を見るたびに『あ、また何かある』とか思いながら生活しなきゃいけないじゃない」
「それは俺だって一緒だ。別に川埼に限った話じゃない」
「そうだけどさぁ……」
「一番怖いのは、お互いがお互いの夢に出てくる話ではなくて、俺と川埼のどちらかがどちらかの夢にだけ出てきた場合だ。その場合は実現してしまう可能性が高い」
「それは今さらの話だけどそうよね。それが一番マズいっていうか」
「なんとかならんかなぁ」
「なんとかできれば、お互いとっくになんとかしてるわよ」
「そうだよな」
この日から夢が現実になるという能力を持つ2人は、お互いに見る夢を気にして生活しなければならなくなった。しかも、知っているのは同じ能力を持つ俺と川埼だけ。
この先、一体何が起こるんだろう……。
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