第4話 夢で会っちゃった?!

 ここはキャンパスのすぐ近くにある喫茶店。ジングルという。

 ランチはやっていないので、俺みたいなヤツにはあまり縁がないんだけど、ケーキやコーヒー、紅茶が美味しいってことで女子からの人気が高い店だ。

「えっと……山岸、最近調子はどう?」

 調子はどうって言われてもなぁ。答えにくい質問するなぁ。

「そうだなー、まぁ良くもなく悪くもないかな」

「どっか体の具合でも悪いの?」

「いいや。病院行ってないから知らんけど、自分では健康体だと思ってる」

「じゃあ、調子いいんじゃん」

「体調って意味ならな」

 コイツは俺の体調を聞きたかったのか。珍しいヤツだな。

「そういう川埼こそ、体調じゃなくっていわゆる調子はどうよ」

「あたしもまぁ、フツーかな。良いことは起こらないけど、悪いことも起こらないし」

 目の前に座っているのは、同じ国文学科の川埼瞳。同じクラスということもあり、川埼の性格的なところもあるんだろうが、サバサバしていてウチの学校の女子とはひと味違う感じ。ということもあって、男女ともに割と人気がある。

 で、たまたま2限が空いていてブラブラしていたら、引き留められて喫茶店にいるというわけ。

「……」

「どうした? 急に黙り込んで」

「……えっとさぁ、山岸ってどんな女の子がタイプなの?」

 はぁ……やっぱりそういう話でしたか。歓迎すべき話なんですけどね。

「そうだなぁ……これっていう形というかタイプはないんだよね。話が合うとか気が合うとか、見た目よりもそっちの方が重要かも」

「そ、そうなんだ……」

「なんで?」

「い、いや、別に……その……山岸って見た目に寄らずモテるしさぁ……」

「その『見た目に寄らず』が余計だ」

「じゃあ、自分のことイケメンだと思ってるわけ?」

「そりゃあ……その……まぁ、人並みくらいには思ってるよ。イケメンなわけねぇだろ?」

 話が逸れるなぁ。違うのかな?

「だよね。うんうん。そうだよね」

「なんだそれ」

「……」

 また黙っちまった。アイスコーヒーを一口飲む。うん、美味い。

「あのさ……あたしってウチの学校の女子とちょっと違うじゃん?」

「急になんだよ……まぁ、お嬢様って感じじゃないよな」

「で、でね……その……そういう女の子って山岸はどう思う?」

 どう思うって言われてもなぁ。

「いや、いいと思うぞ。じゃなきゃ喫茶店で茶しようって言われたってうんとは言わないよ」

「そ、そうなんだ……そっかぁ……そうなんだ……」

 どうもいつもの川埼と違う。やっぱりアレだと思うんだけど……

「や、山岸!」

「はいよ」

「あ、あたし山岸が好きなの。付き合って!」

 ド直球だな、おい。そういうとこ嫌いじゃないんだけど。実際、お嬢様じゃないけど何気に美形だったりする。それを分かっている野郎がどれだけいるか知らんけど。

「えーっと……川埼は俺でいいわけ? イケメンじゃないぞ?」

「別にイケメン好きじゃないのっ! 何というか気が合って一緒にいて疲れなくて……その……顔も好みなんだけど……」

 意外な高評価。そんな風に思ってたのか。知らなかったなぁ。

「川埼がいいって言うなら、付き合うのは全然いいぞ」

「ほ、ホント! 良かったぁ……あたし、ダメかと思ってたんだよ?」

「いや、別に断る理由ないし、その……なんだ……川埼はストライクゾーンに入ってるから」

「……照れる……ありがと……」

「じゃ、まぁ改めてこれからよろしくな」

「うん!」


 ハッ!

 目が覚めた。目覚ましより先に目が覚めた。

 また夢を見ちゃった。この夢……いつものアレだよな……。

 2週間ぶりにこの系統の夢を見た。

 2週間前に見た夢は、英文科の涼子ちゃんに振られる夢。

 そう、涼子ちゃんとはたった2週間しか付き合うことができなかった。夢の中では「あたし、山岸さんのこと嫌いじゃないんですけど、やっぱり付き合うとかちょっと違う気がして」と宣った。で、現実でも同じことを言われてあっさり破局。 慣れてるから傷ついたりしないし感傷に浸ることもないけど、告白されるのがうれしいのと同じように、振られるのはいい気分じゃない。


 ま、とりあえず学校へ行くか。


 

 今、1限が終わって教室から出てきたところ。校舎の外に出てブラブラしていると山岸から声がかかるはずなんだけど……。


 1限が終わって、2限が空き。夢の通りだよなぁ……校舎から出ると川埼から声がかかるはずなんだけど……


「お、川埼ー」

「あ、山岸ー」


『あれ?』


 夢と展開が違う。声はかかったけど、向こうから走ってくるシチュエーションだったはず。


 おかしいなぁ。夢の中では山岸が走ってきて声をかけるはずだったんだけど……。


「川埼、2限ないの?」

「今日、休講になっちゃってさぁ。山岸は?」

「いや、2限空きだから」

「ここでブラブラしててもしょうがないから茶でも飲むか」

「そうだね。ジングルでいい?」

「ジングル? ……ああ、あそこね。いいよ」


 ジングルへ行くことになった。川埼と一緒に夢と展開が違うけど、シチュエーションは沿ってきている。やっぱりアレか?


 夢の通り山岸とジングルへ行くことになった。夢と展開がだいぶ違うけど、シチュエーションは沿ってるなぁ。山岸から告白されるのかな……。


 ジングルに入る。暑いのでアイスコーヒーを頼む。夢と一緒だな。


 ジングルに入る。紅茶が飲みたかったのでアールグレイを頼む。夢と一緒だな。


「いやぁ、とりあえずメシまでどうしようか考えてたんだよ。川埼がいてくれて助かったわ」

「それ、どういう意味よ?」

「単純にヒマつぶしというか、ダベる相手がいるのは気楽だ」

「んー、まぁ確かにそうね」


 飲み物が運ばれる。しばらく世間話というかくだらん話が続く。どうも夢の通りではあるんだけど、夢に比べて違和感がある。これはアレじゃないのか?


 飲み物が来て、山岸と下らない話で盛り上がってる。夢の通りと言えばそうなんだけど、なんか違うよなぁ、これ。


「あのさぁ、川埼」

「なに?」

「変なこと聞くけど、お前俺になにか言いたいことはないか?」

「は? それを言うなら山岸こそあたしになんか言いたいことあるんじゃないの?」


 え? どうなってるの、これ。

 

 は? あたしが山岸に告られるんじゃないの?


「川埼、お前俺に告白するんじゃないのか!」

「山岸、アンタあたしに告白するんじゃないの?」


  見事にハモった。なんで俺が川埼に告ることになってるんだ? おかしいだろ。

  合唱団もビックリのハモり。なんでアタシが山岸に告ることになってるの? おかしいじゃない。


『なんでそうなってるんだよ』


 2人で疑問をぶつけ合った。

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