第10話 セカ村到着と村長

「うわぁ……」

「すげぇ……」


 俺とソエルが感嘆の声を漏らし、横にいる姉さんはムフンと胸(まな板)を張っている。


 あの後、ソエルと姉さんの間でまた一悶着あったのだが、なんとか和解……はしていないが、一先ず一緒に行動する事に落ちいた。


 それが数秒前の話、今は姉さんの転移魔法で目的地である雪山の麓にある小さな村『セカ村』に来ていた。


 一面草しか無かった街道から一変、見渡す限り真っ白い雪で覆われた白銀の世界に俺達はいた。


 転移魔法で場所を移動しただけの筈なのに、まるで春から冬に時間が飛んだような感覚がする。


 そして実際、

「ックシュン!」

 冬並の寒さだった。


 震える俺に気づいたソエルと姉さんが、

「しょうがないわね、私が温めて」

「大丈夫かライト?私の側に」


「あ"?」「む?」

 同時に声を上げ、そして睨み合う。


「退いてくれますお姉さん?どう考えても私の方が温かくしてあげられるから」

「心配するなクソビッチ、火で温めるしか能の無い馬鹿と違って私は心の中まで温かく出来るからな」


 にこり、とまったく目が笑っていない笑顔で言い合い、

 ガッ!とお互いの胸ぐらを掴む。


「クソビッチはどっちよ!奴隷扱いする男がいるのに弟にも発情する変態のくせに!このブラコン!犯罪者!」


「なんだと貴様!出会ってすぐの男に心を許すような尻軽女がクソビッチで無くて何だと言うのだ!大体、奴隷は奴が勝手に言っているだけで私が命令している訳じゃない!」


 バチバチと二人の間に火花が散っているような気がする……。


「はぁヤダヤダ、出会って何日だからダメ何ていかにも愛を知らないボッチの台詞よね?運命って言葉分かります?大体、私と契約するって決めたのはライト本人なんだけど!」


「ハッ、運命?それを言うなら私とライトの出会いの方が運命と呼ぶべきだろう。後から出てきてゴチャゴチャと、これだから万年ボッチの精霊は」


 二人は胸ぐらから手を放し、今度こそ殺気全開の笑顔を浮かべ、

「あはは!あのさぁ、いい加減燃やすわよ?」


「ふはは!やってみろ雑魚、斬り殺してやる」


 そんな危ない女子二人を見ながら、俺は、

「カマセさんの手、温かいですね」


「ふふふ、ライトさん、こうすればもっと温まりますよ」

 イケメン魔族が俺に抱きついてくる。

 変態は体温が高い説は本当だったらしいな。何故か甘い匂いもするし……。


「「コラそこ!!何勝手に盛り上がってるの!!私も混ぜなさいよ!!」」


「「えぇ……」」


 とそんな茶番を繰り広げていると村から一人の老人が出てきた。

「フォッフォッフォッ、何やら騒がしと思えばユリウス様でしたか。お元気そうで何よりですじゃ」


 それを聞いた姉さんはソエルとの睨み合いを中断して老人に向き直り、

「村長!こちらこそ村の前で騒いで申し訳ない」

 そう言ってペコリと頭を下げる。


 それに対し、村長と呼ばれた老人は柔らかな笑顔を浮かべて、

「フォッフォッフォッ、いやいやいつも静かな村ですから、活気があるのは好ましい事ですじゃ。それより立ち話も何ですし、宜しければ家に来ませぬか?丁度夕飯の支度をしていたところですから」


 話していた姉さんより早く、夕飯と言う言葉に反応したソエルが、

「行く!!!」

 と叫んだ。


「あ、おい!」

 勝手に決めるな、といった視線で再びソエルを睨む姉さん。


 しかしそれを無視して、

「フォッフォッフォッ」

 と笑いながら村長とソエルは村の中に歩いていった。


「はぁ、まったく」

 ため息混じりの姉さんと共に俺達も後を追う。


「姉さん、あの人と知り合いなの?」


 ふと疑問に思い尋ねると、

「ん?ああ、少し前に依頼を受けたんだ。ここら一帯にはいる筈の無い高ランクの魔物が出てな、だからこそここに転移出来た訳だ」


 なるほど、そうだったのか。


 転移魔法は場所か人の元に移動する魔法だ。

 場所なら一度行った事のある場所。人ならその存在を完璧にイメージする事でそこまで移動できる。


 俺の事を追いかけてこれたのも、幼い頃からよく知った相手だからこそ転移して来られた訳だ。


 村は本当に人がいるのかと思う程静まりかえり、気になる物と言えば村の真ん中に置かれた女の子の像くらいのものだ。


 山に向かって祈りを捧げるように置かれた白い像は、神聖な美しさを放っているが、その人物に見覚えは無かった。

 像になるくらいだから何か偉い人なのかな?


 入り口から歩く事数分で村長の家に着いた。

 他の家に比べれば立派だが、それでも街にある普通の家と同程度の大きさだ。


 中に入るなり居間に通され夕飯を頂く事になった。

 時間的にはまだ夕方くらいだが、朝から何も食べていなかったので正直嬉しい限りだ。


 出されたメニューは、いかにも雪国!的な熊やら狼やらを調理した物で、なかなか箸が伸びない俺とは裏腹に、

「う~ん、これがお肉!美味しい!」

 と初めての肉食に目を輝かせるソエル。


「フォッフォッフォッ、喜んで頂けて何よりですじゃ、どうですか?ユリウス様」


「ああ、街の方ではあまり見かけないが私は好きだぞ」

 と姉さんも、隣のカマセさんも抵抗なく食べている。


 そういえば前に依頼で来たと言っていたしその時にもご馳走になっていたのだろう。


「「「ライト(さん)?」」」

 と硬直する俺に三人が不思議な視線を向ける。


 村長も、

「お口に合いませんでしたかな?」

 と申し訳無さそうに言ってくる。


 くっ、据え膳食わぬは男子の恥よ!


「いえいえ、あんまり美味しそうなんで、固まってしまって……、で、では、頂きます……」


 どれも実際見た目は美味そうなんだよな、まずは味噌汁に焼いた熊肉をぶちこんだらしい、熊汁からいってみるか。


 ……よし、頂きマッスル!

 覚悟を決めて、パクりと口に放り込む、

 …………こ、これは、

「美味い!!!!!!!」


 想像と違ってまったくくさみがない!

 噛むたびに甘い脂が染みだしてとってもジューシー!

 しかも、この柔らかさ!一度焼いて再び煮込んだ事により柔らかくもありしっかり肉!という感じもある。


「控えめに言って……星七つ……ですね」


「お!出ましたねライトさんの星七つラッキーセブン!」

「ふふふ、やったな村長!」

「??? 何か知らないけど良かったわね!」


 俺のお気に入り宣言にカマセさん、姉さん、ソエルが口々に言う。

 ソエルは意味が分からないみたいだったが。


「喜んで頂けて何よりですじゃ」

 と村長は笑顔を浮かべていた。


 夕飯の後、外はすっかり暗くなっており、山に入るのは明日にしようと言う事になった。


 それを村長に伝えるとこの村に宿は無いから泊まっていってくだされ、と言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。


 ぶっちゃけ姉さんの転移魔法でどこへでも行ける訳だが、よく考えたら一文無しだった事を思い出した。


 実は変態はかなり溜め込んでいるらしいが見返りに殴ってくれ、とか言われそうなので出来るだけあの人から借りを作りたくない。


 全員で食器を片付けて、風呂に入って、さぁ寝ましょうか(当然男女別の部屋)、となったところで村長に声をかけられた。


 断る理由も無く、ついて行くと村長は村の真ん中にある少女の像の前で立ち止まった。


 周りの家も村長の家からも明かりは断たれ、夜空に浮かんだ星と歪んだ口のような三日月に照らされたその像は祈りを捧げる姿と相まってとても悲しい物のように見えた。


「今夜は冷えますな……」


「そうですね」

 何でも無いように呟いたその横顔からは何か大事な事を伝えようとする決意のような物を感じた。


 やがて村長は正面から俺を見据え、重々しく口を開いた、


「ライト様……少し昔話に付き合って頂けますかのう?この像の少女について……氷の精霊に殺された少女のお話を」

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