第8話 旅立ち(家出風)
翌日
俺達は宿のテーブルに向かい合って座っていた。
「……怒られちゃったね……」
「えぇ」 「そうだな」
…………。
あの後、どうなったかと言うと、結論として死者0、重症一人、で収まった訳だ。
よくよく考えてみれば病み上がりで魔力が切れかけの姉さんが本気の魔法を使える筈がなく、俺達の必殺技で再び重症を負い、そして再びフクエルさんが治癒。
そして……うん、思い出すのはやめよう……とりあえずキレた天使は死ぬほど怖かったって事で。
人に関してはそれで解決したが、姉さんに重症を負わせる程の火属性魔法(物理)、結界も無いただの建物が耐えられる訳はなかった。
結論から言うと……俺達の財布、貯金が死んだ……。
「落ち込んでいても仕方がない、とりあえず……説明してもらおうか?」
姉さんが伏せていた顔を上げ俺を見る。
実はギルドをぶっ壊す度に金欠に陥っているのだが、この姉は毎回落ち込んでいる。
しかし俺の為を思ってやっているので(やり過ぎだが)反省してるのに何故繰り返すのか、など言える筈がない。
いや、それより……精霊について説明か。どうしよう、下手な事を言ってこの宿を壊されたらさすがにまずい。
貯金0から一気にマイナスに突っ走る事になる。
慎重に答えなくては……、
「姉さんこの人は」
「待て」
「「私の事は義姉さんと呼べと言っているだろう?」」
「…………貴様ふざけているのか?」
「うくく、貴様て、怒らないでよ
姉さんの台詞にぴったり声を合わせたソエルが挑発するように言う。
「ぐぅ、貴様に義姉さんと呼ばれる筋合いは無い!」
「アハハハハ、貴方のお姉さん面白いわね。」
「……斬る」
「姉さん落ち着いて!とりあえず剣は一旦しまおうか」
静かに立ちあがり剣を引き抜いた姉さんを止めに入るとその切っ先を俺の喉元に突きつけて、
「ライト、義姉さんだ。二度も言わせるな」
「う、ごめん義姉さん」
すごく機嫌が悪いらしい。
一応昨日のゴタゴタはお互い様と言う事で済ませたが、姉さんは実害を受けたからな。イライラするのも無理ないか。
「それより早く説明しろ、この女は何だ?」
ドカッと椅子に座り直し、再び問いかけてくる姉。
「貴方本当偉そうね」
「何か文句があるのか?ならば腕づくで」
「あーもう!姉さん!!」
「おいライト、姉さんでなく義姉さんと」
「あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
話進まねぇ!!!
ピンポーン!
俺が発狂しかけた丁度その時玄関の呼び鈴が鳴った。
「は~い!」
と返事をして玄関に向かう。
この二人を放置するのは危険だと思いきや実はそうでも無い、何故か俺がいないと一言も話さないのだ(昨日観察した)。
「どちら様ですか?」
ガチャリ、と扉を開けて、
「おはようございますライトさ」
バタン!と閉める。
変態がいた……。
しまったな(←ギャグじゃないです)つい閉めちゃったけどあの人絶対喜んでるぞ。
扉を少しだけ開けて様子を伺うと、
「ハァハァ、ライトさんいきなり無視」
バタン!
……何かもう本当面倒な人しかいないな。
「何しに来たんですか!」
扉越しなので若干大きな声で聞くと向こうからも興奮した返事が返ってくる、
「ハァハァ、ユリウス様のお見舞いに伺ったんですが、ハァハァ、まさかライトさんにイジメて頂けるとは、ハァハァ」
とりあえず呼吸整えてくれよ、後イジメてないし。
でもお見舞いか……。ていうかよく考えたらこの変態に二人のストレス発散用サンドバッグになってもらえば皆幸せになれるんじゃ……。
ソエル&ユリウス→カマセを殴って(燃やす&斬る)ストレス発散!
カマセ(ドM)→二人に殴られて(火属性魔法&剣撃)ストレス発散!
俺→変人に絡まれない&静かに家事が出来る。
よし、完璧だ。死人が出るかも知れないがこの人なら大丈夫だろ。うん。
「そうなんですね~。わざわざありがとうございます。どうぞ上がって下さい」
扉を開けて中に促すと、
「フフフ、ライトさん何か企んでいますね。ゾクゾクしてきました」
顔には出てないと思ったけど、さすがは変態。これから受ける仕打ちを察したようだ。
「まさか、そんなわけないじゃないですか~アハハ、さぁ、どうぞ」
と居間に案内する。
「失礼します」
カマセが部屋に入ると向けられたのは二つの視線。
嫌悪と歓喜、相反する二人が叫んだ。
「貴様……、何しにきた変態!ここから今すぐ出ていけ!」
「奴隷さん!何しに来たの?私、パンケーキ食べたい!」
うわぁお……、初っぱなから選択肢が『家を出る』一択しか無いって、この人達終わってるな……。
「ユリウス様ハァハァ、それにソエルさん。お久しぶりで」
「何しに来たと聞いている!答え次第ではその耳、切り裂くぞ?」
再び立ちあがり剣を抜く姉さん。
ここでやられると部屋が血で汚れるから嫌なんだよなぁ。
「お元気そうで何よりです。あ、ユリウス様がお好きな花を」
「いらん」
そう言って姉さんは変態がどこからともなく取り出した花束を文字通り一刀両断した。
カマセは切られた花弁がハラハラと散るのを鼻息荒く見つめた後、再び姉さんを見つめて、
「ハァハァいきなりこの仕打ち、ハァハァ、そうだユリウス様一日寝たきりで体がなまっているでしょうから、マッサージでも、ハァハァ」
言いながらゾンビの如く両手を前に出して姉さんににじり寄る様は正真正銘のまごうことなき完全な変態にしか見えない。
そんな変態に姉さんは心底嫌そうに顔をしかめて、
「寄るな変態がぁ!」
ドズン!
と強烈なボディーブローを繰り出した。
くの字に体を折った変態は、
「イギぃぃ!?」
と気味の悪い
さすがの変態も苦悶の表じょ……、涙を流して喜んでいるようだ……。
いきなりの
「ねぇ、あの二人はどういう関係なの?」
「見ての通り、冒険仲間だよ」
努めて爽やかな笑顔で答えるが答えは当然、
「いやいや、女王様と奴隷の主従関係にしか見えないよ……。」
ですよね~。
「まぁ、いいわ」
言いながら俺の手を掴み、
「行きましょう」
と玄関に向けて歩きだした。
「ちょっ、行くってどこに?」
「何処にって……、貴方ねぇ、北の山に行くんじゃなかったの?」
「いやそうだけど、何でこのタイミング!?」
(だって、ちゃんと準備したりしてたら絶対貴方のお姉さんもついてくるじゃない)
「え?何?」
何か呟いたようだが声が小さくて聞き取れなかった。
「何でも無いわよ!いいからほら早く!」
「え~?い、いいのかなぁ……」
「むぅ、じゃあ私一人で行くわよ!」
と掴んでいた手を放して出ていってしまった。
はぁ。精霊が一人で行っても意味無いだろうし、それにあの人、絶対場所分かってないよな……。
まったく、仕方がないカマってちゃんだなぁ。
先ほどよりヒートアッブした叫びと打撃音が響く部屋を振り返り、
「ちょっと出かけてくるね、姉さん」
小声で言ってから、玄関を開けた。
すると案の定扉の前で仁王立ちしていたソエルが膨れっ面を少し嬉しそうに崩して、
「遅い!ほら早く行くわよ」
そう言って俺の手を握り走り出した。
だが、このスタットの街を出る前に俺にはどうしてもソエルに言わなければならない事がある。
「待って!」
一度振り返り、手を引いていたソエルが足を止める。
繋いだ手を放し体ごと振り返る、
「何よ?そんな真剣な顔で……」
走ったせいか少し呼吸が乱れ上気したその姿はとても綺麗で、まさしく美少女と呼ぶに相応しいだろう。
こんな人にアレを伝えなければと思うと胸が痛い。
口に出した後どうなるか考えるだけで泣きそうになる。
でも、言わなくちゃならないんだ絶対に……。
ゴクリ、生唾を飲み込み、
覚悟を決めた俺は、何か期待するような赤くなった顔の美少女に、言った。
「北は
「っ!?!?」
ボッ!
とソエルの顔がリンゴのように赤く染まった。
当然、
この後めちゃくちゃ怒られた(物理)。
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